MEMS特集:ファウンドリ、ファブライトに集中して製品群を広げるIMT、VTI
MEMS産業には、MEMSファウンドリからファブレス、コンサルティングなどさまざまな業態が出てきている。MEMSデバイス製品を広範囲で持とうとすると、ファブレスで素早く市場へ対応するか、ファウンドリでさまざまなユーザーに対応するか、あるいはIDMなら特定用途に絞り込みソリューションとして提供する。ここではファウンドリのIMT社とファブライトのVTI社を紹介する。
図1 IMTのビジネス開発担当VPのCraig Trautman氏
エレクトロニクスから超小型医療器具まで
2000年に設立された米IMT(Innovative Micro Technology)社は、「7年間利益を出し続けている」(同社ビジネス開発担当VPのCraig Trautman氏:図1)が、未上場企業であるため財務内容は公開していない。ファウンドリという製造に徹することで、MEMSのエレクトロニクス製品だけではなく、TSV加工、3Dパッケージ、Siインターポーザ、ウェーハレベルパッケージング(WLP)、医療用のマイクロシャーレーやマイクロ流路、糖尿病治療のためのマイクロポンプ、バイオセンサーやバイオテクノロジーなど、広い範囲の応用まで手掛けている。
これらを総称してMEMSという言葉で表しているが、競争の激しい自動車市場やゲーム市場には参入していない。これまで量産実績のあるMEMS製品としては、6200万個以上出荷してきたRFスイッチCenFireがある。また、気密封止のWLPにおいても特殊ガスを封止したり、高真空で封止したりしてきた実績がある。同社は試作と量産のファウンドリである。
扱う材料はシリコンだけではない。水晶やガラス、金属、ポリマーなど幅広い。例えば、水晶結晶に深い穴を形成した例では、1チップ上に形成した100万個の穴の精度は標準偏差1σで22nmと均一にできている。複雑な試作例では、4~5枚のウェーハを張り合わせる、ボード上に光の反射板と屈折板を形成、3次元のマイクロ流路、磁気で動くアクチュエータ、アトグラム(10の-18乗グラム)という微量の質量計、ストローク幅が22μmの距離を最大1万2000g(重力加速度)の加速で動くアクチュエータなど、特殊なデバイスを製作している。
同社が力を入れている分野は、光通信、宇宙航空、医用エレクトロニクス、工業プロセス制御の分野で、これらにMEMSの高い価値があると見ている。それでいて、利益をしっかり確保するため、再利用できるMEMSプラットフォームIPを構築している(図2)。
図2 再利用できるプラットフォームを構築
3次元ICのTSVにおいては、直径15μm×深さ60μm程度の加工は量産レベルにあり、直径50μm×深さ250μmは量産開始レベル、直径50μm×深さ500μmは試作デモのレベルにあるという。6インチウェーハで15万個のビアを形成する試作プログラムでは歩留まり99.96%を得ている。
20年のMEMS実績を誇るVTI
一方のVTI Technologies社はMEMSの設計から製造まで手掛けるIDM(垂直統合デバイスメーカー)で、北欧フィンランドに本社を置く。これまで20年間MEMSデバイスを出荷してきたが、かつてのASIC企業のVTI (VLSI Technology Inc) とは全く関係がないという。
1990年代は、容量あるいはピエゾ抵抗を利用する圧力センサーやウェーハレベルパッケージング(WLP)、誘電分離型の貫通電極などを製造し、3次元のウェットエッチングを利用してきたが、最近では、SOIキャビティ構造を利用して性能を上げ、チップスケールパッケージングとしてのWLPに代わった。3軸のジャイロセンサーや共振器も作製している。主力製品は自動車用のセンサーで加速度計、ジャイロスコープ、傾斜センサーに加え、小型の共振器や埋め込み型の医用圧力センサーを設計製造している。
自動車用では、今後、電子安定化制御(electronic stability control)装置が使われると見ており、この装置を装着すると交通事故で亡くなる人は欧州で4000人以上、米国で8500人以上を救えると見積もっている。世界各地の自動車への装着義務があり、今年から来年にかけてはEUやオーストラリアで、2012年には日本と韓国でも新車への装着が義務付けられるようになる。その後、全てのクルマに装着が義務付けられるようになり、市場は大きく拡がっていく。
こういった電子安定化制御には加速度センサーだけではなく、角度や角速度センサー(ジャイロスコープやヨーレートセンサー)も必要となる。加えて、センサーから見た自動車市場としては、従来のアンチロックブレーキング(ABS)やサスペンション制御、安定化制御だけではなく、電動パーキングブレーキや坂道発進支援、クルマの傾き制御、車内での心拍検知など広いと同社北米担当VP&GMのScott Smyser氏(図3)はいう。
図3 VTI北米担当VP&GMのScott Smyser氏
民生市場もこれから強化するという。これまでは「民生は当社にとって新市場」(Scott Smyser氏)。民生ではジャイロスコープのモーション検出を利用したジェスチャー動作と対応させる用途がブームになっているとしている。このため、加速度センサーとジャイロスコープ、タイミングデバイスに力を入れる。このほど量産開始したジャイロスコープCMR3000シリーズは、動作時の消費電流が5mAと小さく、角速度は最大2000dps(degree per second)まで測定できる。寸法は、3.1×4.1×0.83mmと小さい(図4)。
図4 VTIのCMR3000
同社は自動車用と医用MEMSは自社設計製造だが、数量が圧倒的に多い民生用のセンサーとなると、アジアなど外部のファウンドリを利用するファブライト戦略を採る。
参考資料
MEMS特集:半導体の総合力を生かしたソリューションを提供、フリースケール (2011/05/13)
MEMS特集:デジタルマイクICに徹するAkustica、水晶置き換え狙うSiTime (2011/05/19)