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MEMS特集:半導体の総合力を生かしたソリューションを提供、フリースケール

MEMSのエコシステムが出来つつある。この3月、米国Globalpress社主催のe-Summit 2011において、MEMS関連の半導体企業や業界団体が集まった。半導体企業は米国のフリースケール(Freescale Semiconductor)、IMT(Innovative Micro Technology)社、VTIテクノロジーズ社、アクースティカ(Akustica)社、サイタイム(SiTime)社で、業界団体はMIG (MEMS Industry Group) が出席した。

表1 MEMSファウンドリのトップテンランキング 出典:Yole Developpementを元にセミコンポータルが加工


MEMSの世界は、応用と密接に関係し、MEMS技術だけが動いている訳ではない。MEMS専門の市場調査会社であるフランスのYole Developpementが定期的に発表しているMEMSファウンドリメーカーのトップランキング(表1)を見ると、MEMSファウンドリというよりも応用に密接に関係したメーカーが多い。STMicroelectronicsは加速度センサーをゲーム機やスマートフォンなど民生向けに設計製造販売しているが、TIはプロジェクションディスプレイに使うDMD(デジタルミラーデバイス)をMEMSデバイスとして製造販売している。

応用市場まで意識したMEMSのエコシステムともいうべきMIGは、100社以上集まったMEMSのグループである。会員には、ファブレスからファウンドリやIDM、コンソーシアム、研究所、携帯電話メーカー、製造装置メーカーそしてメディアまで参加している。日本からの参加会員はオムロンだけ。ここで会員同士の情報共有を行い会員相互のコミュニケーションをとり、パートナーシップを築くための企業間ネットワークを構築している。MEMSを利用する電子機器やMEMSデバイスを作るファブレスなどの顧客に対して、プロジェクトマネジメントの提供や設計支援、ファウンドリの紹介といったコンサルティングサービスを提供する企業も生まれている。MIGを紹介したAlissa Fitzgerald氏(図1)のAMFitzgerald & Associates社はMEMSのコンサルティングサービスを提供する。


図1 MIGについて紹介したAlissa Fitzgerald氏

図1 MIGについて紹介したAlissa Fitzgerald氏


このMEMS特集では、MEMSを中心に応用市場に対応できるソリューションを提供するフリースケール、MEMSファウンドリに特化するIMT、MEMSファブライトで製品のポートフォリオを拡大するVTI、そしてマイクロフォンに特化するアクースティカと、MEMS共振器を生かしたビジネスを拡大するサイタイム社を紹介する。

まずは、半導体メーカーとしてMEMSビジネスにどう取り組み、自社の製品ポートフォリオにどう生かしていくかをフリースケールの例で紹介しよう。フリースケールは、32ビットフラッシュマイコンコアColdFire V1と、I2C/SPIなどのインターフェース回路、パワーマネジメント回路に、MEMS加速度センサーを集積したスマートセンサーIC、MMA9550Lを2010年6月に発表した。このセンサーICをモーションセンサーのハブとして用い、このハブICから最大12個の別のセンサーを接続できるようにし、さらに全体をアプリケーションプロセッサi.MXで制御するというシステムを提案した(図2)。

この結果、フリースケールは、システムソリューションを提案できる力のある企業に変身した。自社開発のアプリケーションプロセッサi.MX6のCPUコアはARM Cortex-A9である。動作周波数は1.2GHzながらわずか数100mWの電力しか消費しない。シングルコアのi.MX 6Solo、デュアルコアのi.MX 6Dual、クワッドコアのi.MX 6Quadを使うことで、民生から産業機器、自動車に至るいろいろな応用に対応できる。


図2 複数のセンサーとも接続できるハブICと、中心となるプロセッサを提案/出典:Freescale Semiconductor

図2 複数のセンサーとも接続できるハブICと、中心となるプロセッサを提案
出典:Freescale Semiconductor


このセンサーハブには、センサーからの信号を処理するマイコンと、センサー信号を機能に対応させるアルゴリズムを1パッケージに入れているため(図3)、電子コンパスや歩数計、ジェスチャー(指などで動作を表現する入力法)などの応用にはジャイロや磁気センサー、圧力センサーなどを付けて実現することができる。フリースケールはアルゴリズム(ソフトウエア)も開発しているため、顧客へ提案しやすい。


図3 センサーハブICとしてのスマートセンサーMMA9550L/出典:Freescale Semiconductor<br />

図3 センサーハブICとしてのスマートセンサーMMA9550L 
出典:Freescale Semiconductor


このソリューション提案を、例えばスマートフォンやタブレットなどに応用すると(図4)、i.MXプロセッサを中心にフリースケールの持つオーディオコーデックやマイコン、パワーマネジメント(PM)IC、ZigBeeチップなどに加え、近接センサーや電子コンパス、圧力センサーによる気圧計、ジャイロスコープセンサーなども搭載したモバイルシステムが可能になる。RAMやフラッシュメモリ、カメラ、RF、ベースバンドなどは市販のチップを使えばよい。センサーをふんだんに採り入れたスマートフォンやタブレットが設計できる。

半導体総合メーカーであるIDMのフリースケールが生きる道はこういったソリューション提供である。スマートセンサー、MEMSセンサー、アプリケーションプロセッサ、PMICなど自社が持つ製品を目いっぱい提案して使ってもらうというビジネスによって、効率よく自社製品の売り上げを伸ばすことができるようになる。


図4 スマートモバイルデバイスへの応用例 出典Freescale Semiconductor

図4 スマートモバイルデバイスへの応用例
 出典Freescale Semiconductor


フリースケールは、これまでもMEMSデバイスに販売実績があり、1980年に最初のMEMS圧力センサーを製造したあと、1980年代後半に自動車のエアバッグ用MEMS加速度センサーを開発、その後医用向け、民生向け、さらに3軸加速度センサーなどを開発・販売してきた。出荷したMEMSセンサーは累計で10億個を超えたという。

参考資料
MEMS特集:ファウンドリ、ファブライトに集中して製品群を広げるIMT、VTI (2011/05/17)
MEMS特集:デジタルマイクICに徹するAkustica、水晶置き換え狙うSiTime (2011/05/19)

(2011/05/13)
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