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TSMCの第1四半期売上額から予想する、今年の半導体景気

TSMCの3月の売り上げが発表され、第1四半期における同社の売上額が判明した。台湾ではIT主要各社の月次売り上げが発表されている。各社の詳細な業績内容は、今後の決算報告を待つしかないが、少なくとも売上額は市場の広がりを知ることができる。このことから2024年の半導体市場をある程度、推測できそうだ。詳細な決算発表は4月18日。

TSMCの各年第1四半期売上額 / TSMCの数字をもとにセミコンポータルがグラフ化

図1 TSMCの各年の第1四半期売上額の推移 出典:TSMCの数字をもとにセミコンポータルがグラフ化


2024年1〜3月のTSMCの売上額は、前年同月比16.5%増の5926.4億台湾元となった(図1)。米ドルと台湾元との交換レートは、1ドル=31.1台湾元とTSMCは定めているので、これを用いて計算すると、米ドルでの売上額は190.6億ドルになる。TSMCが2023年第4四半期決算を発表した1月時点での今期の見通しは180〜188億ドルだったため、予想以上に高い売り上げとなった。

海外企業は次期四半期の決算を予想する企業は多いが、予想よりも大きく外れることは少ない。予想が大きく外れると、投資家への信頼を損なうことを嫌うためだ。また、半導体産業では次の四半期、すなわち3カ月後の売上額を予想することは、それほど難しくはない。すでにウェーハの仕掛りや受注などの状況から比較的高い精度で3カ月後を予想できるからだ。

今回上振れしたのは、予想以上の需要が舞い込んできたためであろう。TSMCでは7nmプロセスノード以下の微細技術の売上額が過半数に達する。特にスマートフォンとサーバー、HPC(High Performance Computing)などの用途向けのSoCでは微細化技術を使う。このところ、生成AI向けのSoCチップやチップレットへの需要が非常に高い。生成AI向けのチップとしては、NvidiaやIntel、AMDなどが複数のチップやチップレットを集積した先端パッケージSiP(System in Package)の利用が増えている。

しかもAIチップに高速・高集積のHBM(High Bandwidth Memory)メモリをセットで使う。こちらのメモリも実寸法については似たようなリソグラフィサイズを使う。DRAMチップを4枚以上積層するHBMではSK hynixがリードしていたが、SamsungとMicronも負けじとハイエンド新商品HBM3Eを出荷してきている。ただし、メモリはそれぞれの生産ラインで製造する。

AIチップでは、上記の3社以外にも、ファブレス半導体としてTenstorrentやCerebras、SambaNovaなどに加え、生成AIのソフトウエアメーカーである、OpenAIやAnthropic、CohereなどのスタートアップもAIチップを欲しがっている。さらにGoogleやAmazon、Microsoftなどの巨大ITサービス業者なども自社向けAIチップを要求する。

前回の決算発表では、TSMCのC.C.Wei CEOが、2024年はおそらく20〜25%成長になるのではないか、と予測していた。2024年第1四半期の180〜188億ドルから2024年全体を予想していたのかもしれない。

売上額だけで企業を見るわけにはいかない、という声もあろう。かつての日本の電機メーカーは、儲けを度外視して売り上げを上げることを最優先したこともあったからだ。しかし、投資家の眼が厳しい海外企業では、儲けを度外視することはあり得ない。ちなみに前回のTSMCの売上額以外の予測は次の通りである。売上額から原価を引いた粗利益が売上額の52〜54%、さらに販管費などの間接費用を引いた営業利益は同40~42%となり、十分すぎるほどの純利益(さらに為替の影響など営業外費用を引いた額)を確保するという予想だ。

ただし、TSMCが特に絶好調だからと言って、2024年の半導体全体が好調になるとは言えないだろうと見る向きもあろう。しかし、生成AIチップや巨大な推論チップ向けの半導体がデータセンターに大量に入るとすると、それらのコンピュータを動かす電源用ICやDC-DCコンバータ、さらには温度管理のセンサ、その信号を増幅するオペアンプ、コンパレータなどのアナログ半導体、高速I/Oからデータをやりとりための高速インターフェイスIC、メモリ、ストレージ、光半導体送受信機など様々な半導体が求められるようになる。

やはり半導体産業全体の底上げにつながると見てよいだろう。AmazonとMicrosoftが日本にデータセンターを設置するというニュースは日本の半導体産業にとってはうれしい知らせとなる。この需要を取り込めるか否かは半導体企業の実力次第だが。

(2024/04/11)
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