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今後応用の拡大につれ、エコシステム構築とコラボがカギを握るMEMSシステム

MEMSデバイスにシステム的な考えが必要になってきた。アップル社のiPhoneや任天堂のWiiで使われたMEMSの加速度センサーには、センサー信号から楽しさをどう表現するかというアルゴリズムが重要だった(関連記事1)。今後、MEMSの品種や応用が増えてくるのにつれ、センシング技術とソフトウエアの融合とそのエコシステム構築がMEMS開発のカギを握るようになってきそうだ。

図1 MEMSの将来を語る専門家たち 左からボッシュ、ADI、カイオニクス、AMAT、コベンタの責任者

図1 MEMSの将来を語る専門家たち 左からボッシュ、ADI、カイオニクス、AMAT、コベンタの責任者


MEMSはこれまで、深くエッチングしたり、薄いメンブレン膜やカンチレバーを作製したりするなど、プロセス中心の技術に焦点が当たってきた。シリコンの圧力センサーをはじめとするMEMSデバイスは、巨大で高価なクリーンルームを必要としない大学でさえも作製できた。深いエッチングをいかに短い時間で均一に削るか、あるいはスループットを上げよう、などプロセス開発に重点が置かれていた。

第21回マイクロマシン/MEMS展でフランスの市場調査会社ヨール・デベロップメントが発表したように(関連記事2)、これからのMEMSデバイスはこれまでの自動車の加速度センサーや民生用のゲームやスマートフォンなどから、工業用や医療用などの新分野に使われるようになりそうだ。そうなると、これまでのようなセンサーからの信号をハードウエア回路で受けて信号処理するといった方法ではTime-to-marketに間に合わなくなる。MEMSからの信号をいわゆる、組み込みシステム的に扱い、MEMSを中心にソフトウエア開発、OSやミドルウエアあるいはソフトウエアドライバ開発、EDAツールの利用など、もっとシステム指向の考えが必要になってきている。

今後のMEMS技術、MEMS市場をどう見るか。MEMSの専門家たちは今後のMEMSは多品種・複雑になってくるため、コラボレーションは必須だと考えて一致した。実績のあるボッシュADI(アナログデバイセズ)、新興ベンチャーのカイオニクス(Kionix)、MEMS製造技術のAMAT(アプライドマテリアルズ)、そしてMEMS向けCADツールのコベンターが将来を語り合った。

自動車用のMEMS加速度センサーを開発、13億個ものデバイスを販売してきたドイツのボッシュ・センサーテックは、加速度センサーや圧力センサーで実績を持つ。これまでボッシュは加速度センサーなら小型・低消費電力、圧力センサーなら高精度・低消費電力に注力してきた。が、これからはソフトウエアやアプリケーションがもっと重要になってきたと見ている。このため、アンドロイドやいろいろなOSをベースとしてソフトウエアドライバをサポートする必要が出てくる。デバイスの高性能化と共にソフトウエアのサポートが重要になると見る。

ボッシュと同様、エアバッグに搭載して20年の実績を持つアナログデバイセズ社は加速度センサーから始まり、3軸ジャイロセンサーやマイクロフォンなど広い範囲のMEMS製品を持つと同時に、加速度センサーだけでも50~60品種もあるような広範囲の製品を持っている。この先MEMSがさらに成長し、幅広い分野に使われていくためには、高品質のセンサーとソフトウエアの融合が重要になると考えている。これまでの自動車用加速度センサーを第1の波とすると第2の波はiPhoneやWiiのような民生用のスマートフォンやゲームの分野だと、同社VP&GMのマイク・マーティン氏は整理した(図2)。そして今後起こりうる第3の波は、幅広い応用だろうとする。工場のオートメーション、計測技術、ヘルスケア、ナビゲーションなど工業用と医療用の応用が拡がっていくとする。


図2 MEMSの第3の波が来る 出典:アナログデバイセズ

図2 MEMSの第3の波が来る 出典:アナログデバイセズ


昨年、セミコンポータルで紹介した(関連記事3)数カ月あとにロームに買収されたカイオニクス(Kionix)社では、自動車やスマートフォンは今後も成長を続けるだろうが、センサー信号を読みどう表現するか、もっと自然の人間の動きを表現できるかということも重要だと、同社セールス&マーケティング担当エリック・アイゼンハット氏は述べる。MEMSとCMOSLSIやメモリーを1パッケージに入れる場合にもユーザーの求めるソリューションを提供することが重要だという。また、MEMS信号を有効に活用するためにシンビアンやウィンドウズモバイルなどのOS上で動作するソフトウエアドライバをどう描くか、どのソフトを使うと開発者はアクセスしやすいか、モバイルアプリケーションからヘルスケア市場まで広げて要求に応えていく必要があるとする。さらに開発ツールセットも必要だと指摘する。

MEMS専用の設計ツールを開発しているコベンター(Coventor)社は、MEMSメーカートップ15社のうち11社が同社の3次元CADを使ってきたという。これまでのMEMSはいわゆるIDM(設計から製造までの垂直統合企業)が主体でやってきたが、これからMEMSの品種が増えていくと、コラボレーションを通じてサプライチェーンを確立し、開発効率を上げることが重要だと説く。デジタルコンパスやマイクロフォンなど新しい応用には設計手法から製造技術に至るまでIDMともアイデアを共有してMEMSインフラを作りたいと、同社社長のマイク・ジャミオルコフスキー氏は言う。すでにEDA企業とも話を始めている。デザインハウスや、IP、検証ツール、MATLAB&Simulink、ファブレス、システムハウスなどが参加するインフラが必要だとする。


図3 MEMSの開発効率を上げるためにはエコシステム構築が必須 出典:コベンター

図3 MEMSの開発効率を上げるためにはエコシステム構築が必須 出典:コベンター


昨年セミツール社を買収したアプライドマテリアルズもMEMS分野に進出してきた。2012年までにMEMS製造装置市場は5億ドルになろうという。特に,iPhoneなどの民生市場がMEMSを採用したこと、半導体プロセスが成熟してきたこと、1パッケージに複数の半導体チップを入れる技術の進展、などが進出した理由だと、同社200mm製品&エンハンスメンツ部門のジャック・ブヘイラ氏は言う。特にムーアの法則からMore than Mooreという方向にMEMSは位置付けられるようになってきたが、さらなる応用が増えてくる今後は、今以上に多くのパートナーと共同で開発する必要があると見ている。


関連記事
1) これからのMEMSデバイスは信号処理と賢いアルゴリズムが付加価値をもたらす (2009/04/01)
2) 2015年に165億ドルに成長するMEMS市場、仏ヨールが予測を発表 (2010/08/09)
3) MEMSモーションセンサーを利用、12個のコマンドをプログラムできるASIC (2009/05/07)

(2010/08/24)

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