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IGBTはSiCでは使われないことが示された「人とクルマのテクノロジー展」

自動車エレクトロニクスの分野で唯一活発に動いている分野がある。ハイブリッドカーと電気自動車だ。ある外資系半導体メーカーのマーケティングマネジャーは「自動車メーカーにICを持っていっても相手にされないが、電気自動車向けの半導体を持っていくと、すぐに飛びつく」と言う。自動車の最先端技術を見せる見本市である「人とクルマのテクノロジー展」では電気自動車向け半導体の展示が少ない中、東芝はシリコンのIGBTとSiCのショットキーダイオードの組み合わせで損失が30〜40%減ることを示した。

展示された電気自動車は、富士重工のプラグイン軽自動車「スバル ステラ」と、三菱自動車の4人乗りの軽自動車「iMiEV」だけ。トヨタの新型プリウスとホンダのインサイトというハイブリッドカーの展示はもちろんあったが、開発中の電気自動車は一切外部に出していない。これまで展示されたり、街中を走っている電気自動車はすべて軽自動車に分類されるような出力の小さなクルマだけ。「スバル ステラ」の出力は9.2kWh、「iMiEV」は16kWhと小さく、日産自動車が2010年秋に発売を予定している電気自動車には80kWのモーター+インバータが使われる。


Liイオン電池を使うスバルステラ(左)とiMiEV(右)の電気自動車
Liイオン電池を使うスバルステラ(左)とiMiEV(右)の電気自動車


電池を直並列にして高電圧・大電流を得るわけだが、電圧に関しては「スバル ステラ」が345.6V、「iMiEV」は330Vに上げている。この直流の電池電圧でモーターを回す訳だ。モーターは過渡的な電圧変化を利用するデバイスであるため、インバータを使って直流をパルスに変える必要がある。

モーターを安定的に回転させるため、3相交流のインバータを使う。このインバータには、スイッチングトランジスタと逆電流を流すショットキバリヤーダイオードを逆並列に接続した1組のスイッチを6組必要とする。120度ごとにモーターを回転させるため、このトランジスタを次々にオンしていき、モーターのコイルに電流を流していく訳だが、電気乗用車向けトランジスタに要求される性能は、1チップ当たり100Aで耐圧600Vである。現在のハイブリッドカーには200A必要なため2チップを並列に動作させている。

高耐圧・大電流を実現するために、現在のハイブリッドカーには耐圧600Vのシリコンpinダイオードが使われているが、pinダイオードは少数キャリヤの蓄積時間が残るため、その分損失になる。ショットキーダイオードは多数キャリヤ動作であるため、この蓄積時間がなく高速で損失が少ないが、600Vという大きな耐圧は得られない。このためSiCを用いて600V耐圧を得る。

東芝は、このSiCショットキーダイオードとSiのIGBTのペアを6組用いて4kVA級の3相インバータモジュールを製作、車輪を回すデモを行った。この組み合わせで従来のハイブリッドカーに使われているインバータよりも損失は30〜40%減少したと東芝は言う。ただし、4kVA級の電圧・電流容量ではクルマを動かすパワーにはまだ程遠い。


SiのIGBTとSiCショットキーダイオードを使った3相インバータで車輪を回す
SiのIGBTとSiCショットキーダイオードを使った3相インバータで車輪を回す


さらにトランジスタ部分もSiCにして600V耐圧で100Aをスイッチできるトランジスタを開発中だ。今回、展示したのは電流容量がまだ10A程度の小さなJFET。なぜJFETか。SiCではIGBTは作れないからだ。IGBTではアノード部分のpn接合にバイポーラのキャリヤを使うためSiCはSiよりもエネルギーバンドギャップが大きい分、順方向電圧VFも2.5V程度と大きい。このため、大電流を流すのには適さないとみられる。ドイツのインフィニオンテクノロジーズも自動車用パワーモジュールを開発していたが、SiCにはMOSFETかJFETが使われると見ていた。

一方で、SiC結晶にMOS構造を作れるほどゲート酸化膜の質はまだよくない。MOS界面のチャンネル抵抗が高く、まだ使えるレベルには達していないという。


2インチのSiCウェーハに試作された東芝のパワーJFET
2インチのSiCウェーハに試作された東芝のパワーJFET


しかし、JFETはノーマリオンデバイスであるため、ゲートに負電圧をかけなければオフしない。このため正電圧と負電圧の二つが必要となり、回路がやや複雑になる。やはりノーマリオフ型のMOSFETが欲しい。東芝はノーマリオフ型のSiC利用のMOSFETの開発を進めている。詳細な計算はまだ行っていないが、今のところはSiCになるとIGBTは使われない、といえそうだ。


(2009/05/22 セミコンポータル編集室)

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