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ルネサス、Dialog買収完了によりWinning Combo製品ポートフォリオ拡充

ルネサスエレクトロニクスが英Dialog Semiconductor社を買収したことで、新たなウィニングコンボ(Winning Combo)製品、すなわちシナジー効果を生み出す製品群を39製品にまで拡充した。すでに自動車用から産業用IIoT、そしてインフラ向けの製品まで適用した。これにより、デジタル化の実証実験や実用化への期間を一気に短縮できるようになる(図1)。

RENESAS+DIALOG: WC POCS-AN ELEVATED DESIGN PLATFORM出典:ルネサスエレクトロニクス

図1 ルネサスとDialogの製品を組み合わせて新システムを加速する 出典:ルネサスエレクトロニクス


ルネサスはアナログICとの馴染みの良いMCU(マイコン)に強いが、アナログ製品はそれほどでもなかった。アナログICのIntersilや高精度のタイミングICやクロックICに強いIDTを買収で手に入れ、さらに今回Dialogを買収し、アナログICを強化した。DialogはPMIC(Power Management IC)やLEDドライバなどのパワーIC製品に定評がある。特にAppleのiPhone向けの白い小型の充電器のPMICは、Appleが自力開発しようとしてもDialogの高効率で低コストの製品にはかなわなかった。結局、AppleはDialogのエンジニアを含めてスマートフォン用のPMIC部門を個別に買収した。しかしそれでもDialogには優秀なアナログエンジニアがまだ数多く残っていた。ルネサスはここに目を付けたのだ。

最大のメリットはDXをすぐに実現できること

同社がウィニングコンボと呼ぶ製品群とは何か。ルネサスから明快な説明はないが、9月に入ってからのDialog社のメッセージにそれがわかりやすく表現されている。ニューズレターでは、「Winning More Combinations with Dialog(ダイアローグともっと多くのコンビで勝つ)」と表現、39種類のウィニングコンボ製品をルネサスとダイアローグとの相補関係の製品ポートフォリオとして紹介している。ニューズレターのトップには「Dialog Semiconductor, A Renesas Company」と書かれており、ルネサスの一員になったことも示している。

ルネサスのマイコンやセンサとDialogのPMICやWi-Fiなどのコネクティビティ製品を組み合わせると、これからのスマートシティやスマートビルディングなどのスマートな社会に必要なシステムを短期間に実用化できる。もちろんPoC(Proof of Concept:実証実験)なら即できる。ウィニングコンボ製品ポートフォリオの最大のメリットは、スマートな(賢い)システムを導入し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための期間を短縮できることだ。

その一つの具体例を紹介すると(図2)、「クイック接続IoT」がある。これは、ルネサスのMCUやセンサ、パワートランジスタなどと、DialogのBluetooth LE (Low Energy) やWi-Fi(接続ボード)、ハプティックIC、IO-Linkなどの製品を利用して、IoTデバイスをすぐに作れるようなハードウエアボード(実証するためのボード)とソフトウエアツールを提供するモノ。これによりユーザーはソフトウエアで差別化を図れるようになる。


Integrated Easy-to-Use Software

図2 ルネサス製品とDialog製品を搭載したハードウエア開発ボード IoTデバイスを簡単にインターネットに接続できる「クイック接続IoT」ツール 出典:ルネサスエレクトロニクス

加えてDialogは、ハードウエアでも差別化できるようになる。Dialogはかつて買収したプログラマブルなミクストシグナルICメーカーSilegoの製品(CMIC:Configurable Mixed-signal IC と呼ぶ)も持っているからだ(参考資料1)。GreenPAKと呼ばれるSilego社のこの小規模FPGAは、ちょっとした差別化回路、追加回路を簡単に1チップ化できる。ボード面積の削減にはもってこいの製品だ。

今回、Dialogと一緒になったことでソフトウエア開発ツールが実はルネサスのマイコン開発キットとSilegoのGreenPAK向けの開発キットの2種類を使うという煩わしさが残る。これに対して同社IoTおよびインフラ事業本部のジェネラルマネージャーでシニアVPのSailesh Chittipeddi氏は、「今のGreenPAKはステートマシンで制御しているため、次の段階でルネサスのマイコンのコアに切り替えることで開発ツールを1本化していく」と見ている。

同氏の肩書にもあるように、ルネサスはこれまでクルマ以外の事業は「産業用+IoT」事業だったが、今回「産業用+インフラ+IoT」を扱う事業を明らかにした。このインフラとは、データセンターや5G基地局でのO-RAN(Open-Radio Access Network)製品にも参入することを意味する。ただし5Gといってもスマホ事業に向かう訳ではない。あくまでも基地局のシステムがオープンな規格(O-RAN)で作られるようになるため、旧IDTの得意なタイミング/同期IC製品やDialogのA-DコンバータなどとルネサスのMCUやSoCを活用するチャンスになる。

ただし、5G無線技術ではGaAsやSiGeなどの化合物半導体を使うが、ルネサスは化合物半導体を生産していた滋賀工場を閉鎖、あるいは集約する、と8月下旬に発表していた。このことは5G無線機器への参入と矛盾するのではないか、と質問したところ、Chittipeddi氏は、「閉鎖する工場では小さなウェーハの化合物半導体を生産していただけであり、これからのGaAs半導体を量産しても(コスト的に)見合わないだろう。むしろファブレスのDialogがファウンドリのパートナーにGaAsデバイス生産を依頼していたことを活用することになる」と個人的な意見として述べている。

2019年第3四半期から始まったウィニングコンボ製品売り上げの累積は、2021年第2四半期現在で4500億円に達しており、2021年では6000億円を超えるとルネサスは見ている。半導体のさまざまな分野への広がりは、より深い技術的なサポートが求められ、同社はウィニングコンボ製品で幅広い分野でも簡単にDXが可能になることから、今後のPoCの数も増えていくと期待している。ちなみに2021年通年までにPoCは累計で250件以上になると見ている。

参考資料
1. 「プログラマブルなミクストシグナルICをSilegoが20億個出荷」、セミコンポータル (2016/09/02)

(2021/09/02)

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