ルネサス、クルマ向けSoCを充実、近未来のクルマに搭載する機能を満載
ルネサスエレクトロニクスは、カーエレクトロニクス市場をすべて取るという強い意志をマイコンRH850に込めたことを昨年9月に伝えたが(参考資料1)、今度はカーエレの頭脳ともいうべきSoCであるR-Car H2を発表した。ルネサスはクルマのITやコンピューティング能力を必要とするモジュールへの応用を狙う。
図1 ルネサス執行役員兼第一事業本部長の大村隆司氏
カーエレクトロニクスでは、クラウド情報や衝突防止のリアルタイム認識などのIT系から、「走る・止まる・曲がる」といったクルマの基本的な制御系まで、幅広い用途がある。制御系だとマイコン、IT系だとSoCがその中心的な役割を果たす。ルネサスはマイコンやSoCの周辺に使用するアナログやセンサ、アクチュエータを駆動するパワー半導体なども手掛けている。つまり、「クルマ用の半導体をこれだけ広く手掛けているメーカーはルネサス以外にない」、と同社執行役員兼第一事業部長の大村隆司氏(図1)は誇らしげに語る。
人間の体に例えると、マイコンが手足ならSoCは頭脳に当たる。クルマの頭脳がこのR-Car H2である。このチップは開発環境と共に提供する。このSoCはあくまでもプラットフォームとして扱い、標準的なハードウエア評価ボード(図2)と、ソフトウエア開発環境(図3)も提供することでユーザーは独自にアプリケーションを開発し、このSoCに焼き付けることで付加価値を高めることができる。世界のSoCビジネスが単なるチップ販売からソリューション提供へと変貌していることにルネサスも対応している。開発環境はルネサスおよびサードパーティのパートナーが協力して作成する。現在50社近いパートナーがあるが、今後は世界的な企業を含め100社を目指すと意気込んでいる。
図2 ハードウエア評価ボード
図3 ソフトウエア開発環境
このチップに集積する主な回路は、CPUが4コアのARM Cortex-A15と4コアのCortex-A7、イマジネーションテクノロジーズのグラフィックスIPであるPowerVR シリーズ6、フルHDのビデオデコーダ、独自の画像認識回路IMP-X4、オーディオ処理用のDSP、USB2.0/3.0やEthernetなどのインターフェースなどである。認識回路やビデオデコーダ、表示系など、CPUの負荷が重くなりそうな機能はハードウエアで実現している。
第1世代のR-Car H1では、4コアのCortex-A9などだったが、今回のA15はこれよりも性能が高く、しかも軽い仕事の場合にはCortex-A7を動かすように設計上で指示している。高性能のA15と低消費電力のA7を1チップに集積するため、ARM社の新しい低消費電力技術であるbig.LITTLEアーキテクチャを導入した。これは、動作状況に応じて、高性能CPUと低消費電力のCPUを切り替えたり、動作させるコアの数を減らしたりする場合に、キャッシュメモリのコヒーレンシも確保しておく技術である(参考資料2)。A15を4個フルに使う場合と比べ1個使う場合には性能も消費電力も1/4に減る。しかしA15を1個使うよりも、A7コアを4個使う方が、性能を同じにしたまま、消費電力を1/4に下げることができる(図4)。動作状況によってコアを使い分けることがこれからの消費電力削減に威力を発揮するであろう。
図4 ARMのbig.LITTLEアーキテクチャで消費電力を激減
このチップが搭載されるクルマは2015〜2017年に発売されるだろうという。これからのクルマに搭載されるべき機能をルネサスは先取りしていく。まずダッシュボードのメーターを機械式から液晶パネルに置き換えて行くため、そのグラフィックス機能を強化する。さらにサラウンドビュー実現のための4台のカメラからの画像信号を処理し、さらに1枚の絵としてつなげるための画像補正機能を搭載する。走行中に見える道路標識や人間を認識する回路を載せる。軽いツイステッドペアの配線を利用したEthernet AVB1.0に対応したIPを集積する。フルHD画像を見るためのビデオデコーダ機能と高性能なオーディオを実現するための24ビットDSPなども集積する。これらの機能・IP技術を搭載することで未来の安全・安心・楽しいクルマを可能にしていく。
このチップは28nmのTSMC標準プロセスで量産品を製造するが、那珂工場でも製造基盤を持っているとしている。
参考資料
1. カーエレECU市場を全部取るという強い意志が集約されたルネサスのRH-850 (2012/09/28)
2. ARM、低消費電力の基本を守り、製品ポートフォリオを拡大 (2012/12/28)