セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

モバイルビデオ規格、MHLかSlimPortか

ビデオをリアルタイムで伝送する高速ビデオインタフェースの規格である、HDMIとDisplayPortは互いに競争してきた。この舞台がモバイルデバイスのビデオインタフェースにも移されるようになってきた。モバイルではHDMIはMHL(Mobile High-definition Link)、DisplayPortはMyDP(Mobility DisplayPort)規格として覇権争いが始まっている。

図1 HDMI、MHL、WirelessHDに注力するSilicon Image 出典:Silicon Image

図1 HDMI、MHL、WirelessHDに注力するSilicon Image 出典:Silicon Image


高解像度ビデオへの対応
HDMIアライアンスの創設メンバーであり、MHLのコアメンバーでもあるSilicon Image社は、MHL、さらにはWirelessHDに向けて規格の普及に力を入れている(図1)。

HDMIはテレビや新しいパソコンには標準装備されており、これまで世界中で1300社がこれを採用し、40億台の機器が出荷されている。最新規格にはHDMI2.0がある(参考資料1)。MHL規格の最新版も、MHL3が昨年9月に発行された。30Hzのフレームレートで4K画質をサポートする。また、スマホのビデオを長時間、テレビに伝送する場合、電力消費が激しいため、充電アダプタを差し込むケースが多い。このため充電の規定も規格に盛り込んでおり、4.5Wから10Wまでの電力をサポートする(表1)。


表1 Version 1から3までの進展と仕様 出典:Silicon Image

表1 Version 1から3までの進展と仕様 出典:Silicon Image


MHLは、もともとモバイル端末にある写真やビデオを、大画面のテレビで見るために生まれた規格である。テレビで見るだけではなく、ゲームを楽しむ、クルマのカーナビとつなげてマップを見る、などの用途を想定している。もちろん、コンテンツ保護のための規格HDCP2.2もサポートしている。これは4K HDビデオコンテンツをカバーする。また、MHLはHDMIとは違い、ハードウエアのコネクタは定義していない。例えばテレビ側をHDMIとし、モバイル側をMHLとして、それらの間の規格を変換すればよい。

Silicon Image社はMHLのメリットを、標準化されていること、仕様も認証法も公開されていること、ロイヤルティ料金が低額であること、と主張している(表2)。これに対して、SlimPort規格は不透明なロイヤルティ料金がかかると聞いており、料金は明らかではないとする。


表2 Silicon Imageから見たMHLの優位点 出典:Silicon Image

表2 Silicon Imageから見たMHLの優位点 出典:Silicon Image


一方、SlimPort規格を推進するAnalogix社(参考資料2)は、Intelがサポートしていることが強みのようだ。「すべてのIntelデバイスにSlimPortが付いている」と、同社マーケティング担当VPのAndre Bouwer氏(図2)は語る。スマホや携帯、ゲームコンソールなどをテレビ画面で拡大して楽しむという点ではSlimPortもMHLも同じである。SlimPortは、すでにGoogleのタブレットNexus 4や富士通のタブレットARROWSにも搭載されているという。


図2 Analogix社マーケティング担当VPのAndre Bouwer氏

図2 Analogix社マーケティング担当VPのAndre Bouwer氏


SlimPort規格では、アプリケーションプロセッサ内部のデータ用USBバス、MIPIやビデオ用HDMIバス、オーディオ用HD AudioバスなどをデータおよびAV処理した後、5線ケーブルを経てビデオデータを出力する。

現状では、2Kビデオ対応の5.4Gbpsまでのデータを3線使うMyDP1.0がある。今年の第2四半期には、4Kビデオ対応で6.75GbpsのMyDP1.1がリリースされる予定だという。充電方式は、Qualcommが提案している急速充電規格QuickCharge 2.0(参考資料3)にも対応する予定だ。2015年には8Kビデオとデータを送れる10.8GbpsのThunderboltもサポートするというロードマップを描いている。AVストリーミングとデータを同時に送るための新しい規格SlimPort Proの仕組みも開発している(図3)。


図3 Analogixが描く8Kテレビへのビデオ伝送シナリオ 出典:Analogix Semiconductor

図3 Analogixが描く8Kテレビへのビデオ伝送シナリオ 出典:Analogix Semiconductor


SlimPortが基礎とするDisplayPort規格は、非営利団体のVESAによって標準化されている(表3)。DisplayPortを搭載した機器は6億台以上出荷されているという。Analogix社によれば、DisplayPortのロゴマークは、VESAに加入すると入手できる。その参加費は年間1000ドル以下で、ロゴを使用する場合のロイヤルティ料金はかからないとしている。またSlimPortはAnalogix社とロゴの使用に関して同意が必要だが、ロイヤルティは発生しないという。技術的にはDisplayPortをベースにしているため、表3に示すように、DC的にバランスがとれており、中央値はゼロでレベルシフトは必要ない。また、光ファイバとも接続でき、拡散スペクトル技術でノイズを抑えている。


表3 DisplayPort側から見た優位点 出典:Analogix Semiconductor

表3 DisplayPort側から見た優位点 出典:Analogix Semiconductor


無線技術への対応
モバイル規格だけではなく、ワイヤレス規格WirelessHDにも力を入れているのがSilicon Image社。この規格では60GHzというミリ波帯の電波を使う。7GHzの帯域を利用して超高速のデータレートを実現する。ただしミリ波は電波として直線性が非常に高く、レーザー光のようにまっすぐに飛ぶという性質がある。このためビームを合わせる必要がある。

また、60GHz帯の標準規格には、WirelessHDの他に、WiGig規格もある。こちらは、データ伝送に向くと言われ、ビデオ伝送向けのWirelessHDとは共存すると見られている。Silicon Imageは、WirelessHD規格に対応したチップUltraGig 6400をモバイル向けに出荷しており、モバイル送信回路面積はわずか10mm×18mmで、消費電力は100mW以下だという。スマホやタブレットを操作しながら、テレビでゲームを楽しむといった用途を考えている。

一方、Analogix社は、SlimPortのワイヤレス化や規格に対しては積極的ではない。むしろテレビの高解像度化のスピードが速いため、無線よりも有線での接続を優先すると述べている。

参考資料
1. 4Kテレビ対応を狙ったHDMI2.0規格が決定 (2013/09/20)
2. シリコンバレーのベンチャーがスマホ周辺デバイスで独自の地位狙う (2012/11/27)
3. PoE・急速充電・デジタル化・PoLと多様化するPMIC〜EuroAsia2013(3)から (2013/12/18)

(2014/05/21)

月別アーカイブ