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シリコンバレーのベンチャーがスマホ周辺デバイスで独自の地位狙う

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スマートフォンの周辺デバイスに的を絞り、ユニークな半導体製品を開発しているベンチャーがいる。一つはビデオ用の高速シリアルインターフェースとして最近注目を集めてきたDisplayPortチップのファブレスAnalogix Semiconductor社、もう1社はiPhone向けの小さな充電器を構成するAC-DCコンバータチップを設計しているiWatt社だ。

図1 最高10GbpsのDisplayPortチップでスマホの4K2K映像を大画面で視聴を可能に 出典:Analogix Semiconductor

図1 最高10GbpsのDisplayPortチップでスマホの4K2K映像を大画面で視聴を可能に 出典:Analogix Semiconductor


DisplayPortは大画面のディスプレイにデータを送信するための規格である。大画面、例えば4K2Kだと、838万8608画素(4096×2048)×3(RGB)=2516万5824(24M)基本画素分の色に、各RGBで8ビット(2の8乗個=256段階の電圧レベル)分の階調を加えたデータをディスプレイへ送らなければならない。これは1フレーム当たり6Gビットに相当する。もちろん画像そのものはフレーム間・フレーム内で圧縮をかけているため、この数字がそのままデータレートに反映されるわけではない。それでも、超高速のデータ転送が求められる。DisplayPortは、従来の高速インターフェースであるHDMIに替わる、最大10.8Gbpsの20ピン超高速デジタルインターフェース規格である。

Analogixが狙う市場は、スマートフォンやタブレットから大画面テレビやモニター、プロジェクタなどへ映像を送るためのアクセサリである。この市場ではスマホ端子のように少ないピンでも使えるようなDisplayPortフォーマットに変換し、さらにテレビ用のHDMIやRGB、モニター用のVGAなどに変換するチップが求められる。同社はスマホ用のDisplayPort規格をSlimPortと呼んでいる。これにより、スマホに蓄えられたビデオ映像やテレビ放送をリビングルームの大画面で楽しむことができる。


図2 スマホからテレビ、パソコンなどに映像を高速転送するSlimPort 出典:Analogix Semiconductor

図2 スマホからテレビ、パソコンなどに映像を高速転送するSlimPort 出典:Analogix Semiconductor


同社のアクセサリ(変換ケーブル)を使えば、BluRayやハードディスクレコーダなどの専用機はもはや必須ではなくなる。ビデオ映像はすべてスマホから変換ケーブルでテレビに映すことができるからだ。ビデオ映像はスマホにダウンロードしておけばよいことになる。いつまでも専用のレコーダにこだわっていると時代に取り残されてしまう恐れがある。

なぜ、スマホにSlimPortが必要なのか。従来のHDMIだとスマホに標準装備されたUSBコネクタに加えてHDMI専用コネクタを装着しなければならないからだ。SlimPortは標準的なマイクロUSBコネクタをそのままDisplayPortとして使おうという規格だ。専用コネクタを追加する必要がない。ただし、マイクロUSBは5ピンが基本。DisplayPortの2レーンを使う場合は6ピンが必要になる。このため、高速データレートを必要としない2本のピン(AUXチャネルとホットプラグ検出ピン)をまとめて1本(マルチプレックス)とし、高速転送で送信専用のピンを4本(2レーン分)と制御信号検出用の低速双方向用の1本の5ピンで済ませるようにした。

同社マーケティング担当バイスプレジデントのAndre Bouwer氏によれば、SlimPortを採用するスマホやタブレットは今年のクリスマスシーズンに登場するだろうという。またアクセサリ群は自社ブランドで販売し、米国と欧州で11月に入り発売された。

DisplayPortインターフェースには将来性もある。インテルが提唱するThunderbolt(参考資料1)につながるからだ。ThunderboltはDisplayPortとPCI Express規格を1本の線でマルチプレックスして伝送する規格である。これからの技術であり、DisplayPortから移行しやすい。Bouwer氏はThunderbolt規格に使える半導体チップを開発中だとしている。


図3 iWatt社に展示されている小型電源 左はiPhone用、右はプラグ大サイズの電源

図3 iWatt社に展示されている小型電源 左はiPhone用、右はプラグ大サイズの電源


もう1社であるiWatt(アイワットと発音)社の製品チップは見慣れないだろうが、それを使った2cm×2cm×1.7cmの小型充電器(電源)はiPhoneユーザにはおなじみだろう(図3)。同社は、デジタル制御のAC-DC変換パワーマネジメントチップを開発するファブレスメーカーだ。1999年に創立され、2005年に最初のAC-DCコンバータICをサンプル出荷した。以来、今年までに累計で10億個の製品を出荷した。

同社が手掛けるのはAC-DCコンバータに加え、LED照明制御IC、液晶テレビのLEDバックライト制御ICの3分野。こういった市場に向け、デジタル制御方式を使いながら外付け部品(BOM)コストを減らす。

従来、デジタル電源は、SPIやI2Cなどのインターフェースを設けて、デジタル信号でマイコンや温度センサコントローラから電源電圧を制御する方式と、電源電圧変動をフィードバックしてデジタルパルスの数で制御する方式があった。前者の方式は、電源電圧の安定化はアナログ制御で行い、外部出力端子だけがデジタル制御である。後者は、外部インターフェースがもちろんデジタルだが、内部制御の仕組みまでデジタル方式である。デジタル信号で電圧波形を安定化するために電圧変動をパルス幅変調方式で制御する。そのパルス幅を変えるために、ずっと幅の狭い基準パルスを発生させ、その数でパルス幅を制御していた。従来、後者のデジタル電源では、DSPを利用していたためコストを下げられず、一部の分野にとどまっていた。

iWattのチップは、DSPを使っていないためチップ面積を小さくでき、その結果コストを下げることができた。しかも電源用トランスの2次側からフィードバックするのではなく、1次側の変動に対して予測アルゴリズムを使ってデジタル制御する方式だという。そのアルゴリズムを自社開発することで、変動を抑えしかも外付け部品を減らすことができた。このアルゴリズムIPこそがノウハウとなる。

これまでの製品と比べて、待機電力が半分以下という省電力タイプの電源ICを2機種(8ピンのSOICパッケージ)このほど開発した。新製品のiW1761は最大12W出力ながら、待機時消費電力は10mW未満と小さい。iW1762は最大24W出力で待機時20mW未満といずれも小さく、従来の待機時消費電力の半分以下となっている。しかも共に1000個購入する場合の単価は0.34ドルと安い。これら2機種ともスマホとタブレット用の電源応用を狙っている。

参考資料
1. 折り曲げてもびくともしないThunderbolt光ファイバ配線を住友電工が製品化 (2012/06/15)

(2012/11/27)

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