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シリコンシーベルトサミット福岡2008レポート(3)

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シリコンシーベルトサミット福岡2008レポート(3)

福田悦生

東芝 セミコンダクター社
システムLSI事業部先端SoC応用技術部


3.基調講演:中国自動車企業における次世代自動車の技術ロードマップ
大連理工大学 自動車工程学院(中国)
院長/教授 胡 平氏

【中国自動車産業発展の歴史】
 中国は、1949年から自動車を開発している。中国の自動車産業の発展の歴史には、4つの段階がある。
 第1段階は、1949年から1965年の「初期成長の段階」、第2段階は、1966年から1980年の成長の中で多くの論争があった段階である。第3段階は、1980年から2001年の「発展段階」、そして2002年から現在までの第4段階は、「急成長の段階」と定義される。
<初期成長の段階:1949〜1965>
1953〜1956年:中国の自動車開発は、Changchun(長春)で始まった。「解放(Liberate)」と呼ばれる車を製造した。
1957年:この頃には、第一自動車工場(FAW)が、外国の自動車を参考に中国初の乗用車「紅旗(Flag)」の製造を始めた。
1960〜1965年:この時代Nanjing(南京)、Shanghai(上海), Beijin(北京) Jinanに自動車工場が4箇所できた。
1966年:この年の投資金額は、累計して1億1千万中国元、生産量は6万台/年で9種類の自動車が生産された。
1965年末:65年末で生産量は、29万台になった。中国単独で開発した車は、その内17万台、15万台は、FAWの製品であった。
<論争の段階:1966〜1980>
1964年:第2自動車工場(SAW)がShiyan(西安)にでき、Cross-country motorsや, 中型トラックが製造された。
1980年:この年には、年間22.2万台の生産量になった。
1966〜1980年:この間の生産量は、164万台となり、内148万台がトラックであった。
この時代ではまだエンジンやボディ開発について議論が続けられていた。しかし、確実にFAWは発展していった。心臓部のエンジン開発に、優秀な現地人が採用されていた。
<発展段階:1981〜2001>
1981〜1998年:この期間は、比較的早く技術力が発達し、生産量は1452万台になった。内乗用車は260万台に急増した。一方、投資額は、外国資本も含め1兆5000億人民元になった。
1992年:この年、初めて年間生産量が、100万台を越えた。
1998年:年間生産量が162.8万台になり、世界的にも生産量で10位になった。
1998年:この年までに、20の国々が中国に投資し、600社の外国投資会社が、100億ドルを投資した。
2001-2002:2001年には年間生産量は236万台、2002年には325万台になり、乗用車の年間生産量も100万台を超えた。
<急成長の段階:2002〜2008>
2007年:生産量は、ついに米国、日本に次ぐ世界第3位になり、現在では第2位になった。


 中国は、最も大きな自動車市場になり、現在126社の自動車会社が車を製造している。中国の自動車会社は、3つの大きな会社と多くの小さい会社で構成されている。3大会社は、FAW、SAIC Group、Dongfeng Motor Groupである。代表的な小規模な会社は、Chana Auto, Guangzhou Automobile Group, Chery Automobile等であるが、さらに小さな会社が沢山あり、トータルで126社になる。
 中国は、ここ数年で世界最大の自動車消費国になった。また、製造拠点としても世界最大になる。この中国の発展の特徴は、非常に大きなマーケット需要量があることと、非常に低い労働コストがあることである。
 126社の小規模企業は、恐らく淘汰や、統廃合が進み大規模な数社なると予想される。また、現在は中国国内の自主開発能力も向上している。


【自動車産業技術ロードマップ】
 中国自動車産業の発展状況を説明する。
 先に述べた4つの段階の内、1と2段階は、国外の技術の一部を模倣(マネ)して、製造してきた時代であった。1950年代、FAWの技術者と労働者は、20日間で当時の国家首席に捧げるために「Flag(紅旗)」と呼ばれる車を開発した。しかしながら、その当時にはデザインや構造を改善することはできなかった。小さな改善や改良はできたが、全体的な構造やデザインは十数年変更されなかった。この当時の中国は、自動車の開発能力が不足していたためである。
 1980年代に入ると、国外の自動車メーカ(GM、Ford、VW、トヨタ、ホンダ、Daimler、現代、三菱、マツダ、日産、Volvo)とジョイントベンチャーを起こし、海外から技術導入を図った。この段階での中国の技術発展の特徴は、以下の3つである。

1)ジョイントベンチャーLTD
この当時はまだ、中国自らの開発力が欠けていたため、国外の企業から製造ラインまるごとや、鍵となる部品、エンジン等を導入した。よって、車の価格も高かった。FAWは、ドイツの技術を導入し製造した。価格は、20万元、利益は1万元であった。
2)国営企業
国営自動車企業は、初歩的な部品などの改良を始めたが、技術的には遅れていた。
3)小規模企業
126の自動車企業が生まれ、国の管理を受けず自分で製造することができた。彼らは、海外の車をスキャニングなどの手法を利用して解析し、自ら新しい車を開発した。しかし、価格は安かったが、品質は悪かった。結局、彼らは、車体の一部を改良することができたが、エンジンやボディーを改良することはできなかった。つまり、CAE技術パラメータを取得する、振動や、MBH、衝突をシミュレーションする技術は、存在しなかった。一方、ジョイントベンチャー企業では、CAEのシミュレーションはできたが、技術パラメータは遅れていた。市場競争が激しかったため、会社は経営的に厳しい状況であった。
小規模企業は、技術を自ら開発し、CAEを用いて分析をする方法をとったが、やはり技術パラメータは遅れていた。しかし、自動車コストが安価だったため、30%のシェアを獲得した。


【現在の中国における自動車の安全、エネルギー、電子化の状況】
 中国自動車産業における今後の開発項目は以下である。
1)Multi-sources of auto energy
2)Clean emission of auto gas
3)Electronic tech. of whole auto system
4)Electrization of auto power
5)Lightweight of auto material and structure


 省エネに関しては、中国政府もその重要性を認識している。例えば、エタノール天然ガスによるガソリンへの代替を推進している。新エネルギーのハイブリット、燃料電池などはまだ発展段階だが、この分野においても政府が協力にサポートしている。
 また、中国におけるモデル都市として、北京、大連、上海、天津, Zhuzhouは、中国政府から電気自動車重点都市として指定されている。
さらに、中国政府は、FAW、Chana、Chery、BYD等の自動車メーカに対して、大量の投資を行いハイブリットエンジンの研究を進めている。多くの自動車電子部品は、Boschや、Siemens、Delphiに独占されているが、現在の中国では、安全、ボディの電子化、ブルートース、GPS、快適性、モーターの小型化、シャーシボディの軽量化、が重要な課題となっている。
 自動車の電子化が急激に進んでいる。モジュールは、国外の自動車メーカに独占されており、中国が独自に開発しているICは、現在余り普及していない。現在中国では、電子部品の研究開発は、大学や研究所レベルで行われているのが現状で、国外の研究開発とはかなり開きがある。快適電子技術、安全電子化技術、GPS、ブルートース等は興味の深い分野だ。今後の目標は、これらの技術を世界レベルに引き上げていく事である。


【Hot Forming Technology】
 中国科学技術部では、現在省エネが重要視されており、自動車安全性とエネルギーの研究開発をおこなっている。新会社評価規定は、解放する前に強制的な措置を取っており、大学等はこれに従い、安全性を高める努力を行っている。
 安全面の研究開発においては、衝突試験のシミュレーションが進んでいる。安全、省エネのためには、軽量化の設計が重要であり、軽量化設計は、自動車全体のボディの設計が必要となる。構造、材質それぞれに製造特性があるが、長安自動車などは彼ら自身、軽量化技術は所持しておらず、大学に委託して研究しているのが現状である。自動車軽量化については、大連理工大学が自動車メーカと協力し、軽量化安全性のためにHot Forming技術(HFT)と言う新技術を開発している。この技術は、日本の自動車にも適用できると思っている。特に、衝突に関しては、日本車は安全面において不足していると思われる。
 HFTには、高強度合金が使われており、500-600MPa、これを用いる事により強度は大きく向上する。
 製造方法としては、特殊な加熱システムで加熱し(板金加熱システム)、金型冷却装置で冷却するプロセスだ。HFT技術には、剛性や強度が向上するという優位性がある。成型溶接のため、6トンの重さにも耐えられ、壊れない。この技術を使うことで、普通の合板から厚さが18%薄くでき、かつ強度は十分に保つことができる。これは、高い温度で成型されるため、組成強度が高いのである。また、常温での加工の場合は、金型の種類が増えるが、このHFT技術では3セットと金型の数が減る。さらに、加工後はスプリングバックがない。常温加工の場合、スプリングバックが大きいが、HFTではそれが無く、誤差ミスが少なくなり、設計も向上する。HFTは、車の安全性を向上させる重要な手段であると考えている。Aピラー、Bピラー、バンパ、ドアの耐衝突ビームなどの用途に使え、成型性、強度等の特徴により、大きく安全性を向上することができる。


【大連理工大学】
 大連理工大学は、遼寧省に2007年に創立した。新たに自動車関連の技術を導入し、元々あった電子技術を統合し設立された大学であり、国際的な建学の精神をもっている。
 自動車は、国際的な境が無いため国内外から専門家を導入している。日本では、3つの企業が入所しており、材料の塗装、汚染が無い塗装の関連技術、高分子材料等の研究がなされている。
 研究の方向は、1:車体の電子化、2:自動車電子技術、3:安全性、4:エンジンの電子化、5:自動車の材質技術、6:金属材料料、塗装、サービス工程、7:市場に投入された後のマーケット、販売、流通の研究などである。
 自動車専門学部がある大学でも「マーケット研究」を取り扱っている大学は、中国でも大連理工大学など数校しかない。インテリジェント化の研究も行っており、時速80キロの速度で走行しても自動運転が可能であることが最近実証された。また、人の視覚からドライバーの疲労を測定し危険を察するシステムの開発等も手がけている。
 理工大学は、国内の自動車研究センターと協力し、エンジンのハイブリッド化、電気自動車の両面から技術を追求している。エンジンの電子制御技術研究は主流だが、モータなどの研究も同時に進めている。燃料電池については、物理化学研究所が追求している。将来の自動車産業における省エネ技術としては、ハイブリッド、電気自動車、燃料電池が注目を集めている。

(続く)

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