Appleのサーバー工場、日本の発電所一体型AIセンターが進行
米中貿易摩擦によって、自国内でモノづくりをせざるを得なくなってきた中国は、その生産力を付けてきた。一方で、Appleがサーバー工場をテキサス州に作ることを発表、日本は自国内に発電所に沿った形でAIデータセンターを作るという構想を発表した。中国の力はどの程度なのか、おぼろげながらその像が少しずつ見えてきた。

図1 AppleのMac用M2チップ サーバー用は異なる
2月25日の日本経済新聞によると、Appleはテキサス州ヒューストン工場で生成AI「Apple Intelligence」用のサーバーを生産する。さらにミシガン州にも新拠点を作り、半導体設計における米国の研究開発拠点とする。このためにAppleは今後4年間で5000億ドル以上を投資するという。トランプ米大統領は21日、ティム・クック最高経営責任者(CEO)と20日に会談したことを明らかにし「クック氏は関税を払いたくないので、米国内に数千億ドルを投資するようだ」と話した、と日経は報じている。
AppleはこれまでiPhoneやiPad、Macパソコンなどの中核チップSoCは自社で設計しており、そのための設計要員も大量に採用してきた。しかし、サーバー用のチップ開発をすぐに始めようとするとこれまで経験のないエンジニアを使うのではなく、経験者であるBroadcomを使うと思われる。そのために昨年12月にBroadcomと提携した。見かけ上はWiFiや5Gなどを開発するためとしているが、AIサーバーとなると新しい知識が必要となる。BroadcomはGoogleのTPUなどのAIチップを設計しており、Metaのチップ設計も担っている。Broadcomはデータセンター向けソフトウエア事業も行っており、ここでもデータセンターの知識が得られる。
日本も独自のAIデータセンターの構築のため、「石破茂首相は20日のデジタル行財政改革会議で、AIの普及で需要増が見込まれるデータセンターと発電所を一体で整備するため官民の協議会を立ち上げると表明した」と21日の日経が報じた。村上誠一郎総務相と武藤容治経済産業相に6月をめどに取り組みの方向性を固めるよう指示した、としている。この構想は、原子力や風力、太陽光といった発電所の近くにデータセンターを設けて産業の集積をめざそうとして、ソフトバンクグループCEOの孫正義氏が2カ月前に発表したもの。データセンターは電力を消費するため、これから新設するためには発電所が必要だという考え方がその基になっている。
データセンター間を光ファイバーで接続することで、日本独自のクラウド環境が出来上がる。従来、AIを開発しようというエンジニアたちがすぐに使えるコンピュータが手元にないことから日本中のサーバーを一つの巨大なコンピュータとして仮想化して多くのAIユーザーに提供するというもの。AIソフト開発で日本は周回遅れと言われるが、その巻き返しの大きな力になる可能性がある。
日米とも自らの土地にモノづくりの拠点を作ろうという背景には、中国の台頭がある。メモリでは韓国Samsungが振るわなくなってきたこととも関係する。Samsung半導体部門は、2024年第2四半期をピークに第3、4と営業利益が落ちてきている。これに対してSK hynixはHBM(広帯域メモリ)を武器にパソコンやスマホの落ち込みを救ってきた。しかもHBMではSamsung同様、出遅れたMicronと比べても利益の落ち込みは大きい。
中国の実態を21日の日経はシリーズものとして「点検半導体(中)中国勢台頭」の中で述べている。TechInsightsと協力して作成したSEMIの資料によると、中国国内の半導体自給率は2014年の14%台から23年には23%に上がってきたという。中国ではDRAMのCXMT社とNANDフラッシュのYMTCが力を付けてきているようだ。CXMTは依然として韓米のDRAM大手から3年遅れているとしたものの、機材の制限にもかかわらず、着実に進歩している、という見方が出ている。23年のNANDフラッシュはYMTCのシェアが20年の1%から3%に高まったという。
中国のAIビジネスとして、インターネット検索サービスの百度が2024年はネット中心からAI中心に切り替える年になったと発表している。DeepSeekに刺激され、百度のAI基盤モデルを公開するという。オープン型は多様な開発者が検証や改良に携わることにより、基盤モデルの高度化が見込めるが、収益の確保は難しい。ただ、AI技術が向上することにより会社全体で果実が得られると見ているようだ。
華為(ファーウェイ)は新しい3つ折りのスマホを開発したことで、再攻勢をかけるまでに回復した。子会社のHisiliconが7nmプロセス技術を開発し、SMICが製造するというパターンも定着した。中国は着実に力を付けている。