生成AIが半導体企業の勝負を決める時代に、日本政府は補助金から出融資へ
世界の半導体は、生成AIとデータセンターでの競争に勝っているかどうかで企業の評価(株価)が分かれている。例えば生成AI狙いのHBMでは、SK hynixやMicronはNvidiaのチップと共に供給される一方、Samsungの出遅れが目立つ。日本の半導体は政府の補助金からサヨナラする方策が考え出され、出資や融資に変更していくことになりそうだ。

図1 Nvidiaの最新AIチップBlackwell(上2つ)とGrace(下1つ) 1個のBlackwellは2つのGPUダイをつないでおり、各GPUチップの上下に2個ずつHBMが搭載されている 出典:Nvidia
世界の半導体は生成AI向けのチップを供給しているNvidiaや、Broadcomの評価が高く、2023年末比の株価上昇率ではNvidiaが2.8倍と突出している、と11月1日の日本経済新聞が報じた。米国のダウ平均工業株は株価上昇率が平均1割台、フィラデルフィア半導体株指数でさえも2割だ。生成AI向けの半導体としてAIチップ設計をGoogleやMeta(旧Facebook)、Amazonなどに向け請け負っているBroadcomや、AIチップとセットで使うHBM(High Bandwidth Memory)メモリを供給しているSK hynixの株価は3〜6割高となっているという。
SK hynixは、長年HBMを開発・製造してきたが、SamsungはDDR型DRAMの方が市場が広いとしてHBMに力を入れてこなかった。SK Hynixと比べ後発組のSamsungとMicron TechnologyでもMicronのHBMがNvidiaのAIチップと共に採用されたのに対してSamsungのHBMはいまだに採用されていない。今の半導体は生成AI向けの需要が大きく膨らみ、それ以外の半導体の回復は遅れている。10月31日に発表したSamsungの2024年7〜9月期の決算報告でも、半導体部門が増収となったものの、競合の韓国SK hynixの利益額を大きく下回った。
データセンター向け半導体でも明暗が分かれている。特にX86アーキテクチャのIntelとAMDのデータセンター向け半導体では、これまで圧倒していたIntelがAMDに敗れるという事態が起きた。10月31日にIntelが発表した7〜9月期決算では過去最大となる2兆5000億円もの赤字を計上した。さらに、11月2日の日経は、「英調査会社オムディアによるとインテルは19年にCPU市場で90%のシェアを握っていたが、23年には64%まで落ち込んだ。同じ期間に9%から24%までシェアを伸ばしたのがライバルのAMDだ。データセンター向けのCPUに限ればAMDは30〜35%までシェアを伸ばしている」と報じた。7〜9月期のデータセンター向け事業の売上高がIntelは9%増の33億4900万ドルにとどまったのに対し、AMDは35億4900万ドルと2.2倍も伸ばし、この分野で順位が入れ替わった。
政府は半導体産業に対する支援のやり方を見直す。補助金を逐次投入してきた従来の手法をやめ、複数年にわたる計画的な支援で民間の予見性を確保する、と2日の日経が報じた。政府は2021年度以降、半導体分野に累計3.9兆円の支援を決めた。ラピダスにはすでに9200億円を補助金として供与することを決めている。ラピダスが誕生する前の2020年12月のセミコンジャパンでのディスカッションでは半導体工場を作るのに5000億円から1兆円かかるとしていたが、今では5兆円かかると見積もりが5倍以上に増えた。このままではいくらの増額になるのか、政府側は見当がつかなくなった。
これまでの補助金は年度ごとの場当たり的な対応にすぎなかった。このほど検討し始めたことは、初期段階では補助金を投じるものの、量産段階以降は政府系機関を通じた出資や債務保証に切り替えるやり方に変えるというもの。出資も融資も返却不要な補助金とは異なり、利払いや償還、配当などの形で資金回収も可能となる。また、出資者の立場から、会社のガバナンス機能を発揮できる。
ラピダスは27年に量産を目指すが、量産経験のないIBMやImecなどから技術を導入しても量産に使えるかどうかは未知数である。一般に半導体の量産では毎ロットが同じ条件で製造できないことが明らかであり、そのために製造条件のビッグデータを集め最適条件を求め直している。試作開発と量産とでは使われる技術が大きく違う。
富士通は、「京」や「富岳」などスーパーコンピュータ向けの半導体チップを開発してきたが、このほど生成AI向けのCPU開発を進めるのにあたり、GPUを持つAMDと半導体のソフトウエア基盤を共同開発することになった。生成AIでは、CPUとGPUをそれぞれ使うことが多く、CPUとGPUから共通のメモリを使うことも多い。このため共通のソフトウエア基板を整えることが重要で、AMDのGPUをつってAIを利用するためのオープンなソフトウエアも共通に使えるように基盤を整備する。
富岳は、性能面で現在世界第4位のスパコンだが、トップ10位のスパコンの内唯一GPUを使わないシステムだった。次のスパコン機種ではAMDのGPUを使い、性能をもっと上げるものと期待されている。一方AMDもセータセンター向けのCPUは持っているが、X86アーキテクチャであり、富士通の持つArmベースのCPUではない。富士通のCPUはArmコアを使い、かなり内部を独自に調整、開発している模様で、富士通は独自CPUという言い方をしている。現在、MONAKAと呼ばれる2nmプロセスのCPUを開発中で27年に実用化する予定だという。AMD側にとってもこれまでのx86アーキテクチャではないCPUを使って、自社のGPUと共に顧客に提供できるチャンスになり、お互いにウィン・ウィンの関係になりそうだ。