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Ericsson、独自SoCチップの製品ポートフォリオを拡充

基地局を設置している通信機器産業は不況からまだ抜け出せない状況だが、独自SoC設計は進化を続けている。スウェーデンのEricssonは、このほど5Gを進化させるための独自半導体SoC「Ericsson Silicon」をMassive MIMO機器の中で少なくとも5種類開発していることを明らかにした。それも3nm、4nm、5nmなどの最先端技術を伴っているという。

高性能5Gの構築に向けて / Ericsson

図1 Ericsson Siliconは独自SoCで基地局を軽く小さく高性能に進化させてきた 出典:Ericsson


基地局では、仮想化やデータ処理中心のコンピューティングだけではなく、無線通信機器にも独自半導体チップを使っている。特に2018年頃のLTE(Long Term Evolution)後期からMassive MIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナが使われるようになり、半導体チップが欠かせなくなっているからだ。

電波は高周波になればなるほど高速データレートは上がるものの電波は届きにくくなり、指向性も強まる。このため電波を遠くまで効率よく届けるためのアンテナ技術が重要になる。電波のビームを携帯ユーザーに向けて送受信可能にし、複数のユーザーも使えるように切り替えていく。そのための半導体チップが求められる。

5G技術は、最終目標のダウンリンク20Gbps・アップリンク10Gbps、および1ms以下のレイテンシを目指すと共にさらに広いデバイスへの応用やカバー範囲に向けて進化を続けている。ビジネス的には、2024年前半(1〜6月)の基地局通信機器市場は前年同期比17%減とひどい状態だが(参考資料1)、世界の3大通信機器メーカーの一つEricssonはMassive MIMO機器に使われる半導体開発に余念がない。

Massive MIMOは、その名の通り、大量の送受信アンテナを使い電波を遠くに飛ばすアンテナである。平面アンテナを32個送信、受信用に備えた最新のMassive MIMO通信機器「AIR3255」(図2)は、従来の機器よりも25%省電力にし、重さも12kgに減少した。軽く省電力にできたのは独自のSoCを設計したからである。独自SoCのおかげで電力効率を上げ、冷却用の放熱フィンを小さくし、冷却ファンモーターも小さくなり軽くなった。


AIR3255

図2 左下の比較的薄い装置が新型Massive MIMOのAIR3255


EricssonのSoCシリーズ「Ericsson Silicon」はMassive MIMOだけでも5種類のシリーズがある。図3の左から「RAN Compute」は物理層のL1層の処理とデータリンクのL2層処理を受け持ち、隣の「Transport」はL1層処理のチップ、真ん中は無線やデジタルフロントエンド、干渉低減のPIM(Passive Interference Modulation)打ち消しなどのチップ、右から2番目がMassive MIMOやビームフォーミング、フルアップリンク受信機などのチップ、右端がMassive MIMOとデジタルフロントエンド処理のチップなどとなっている。


Ericsson Silicon Tailor-made for every purpose / Ericsson

図3 Massive MIMO通信アンテナ機器に使われているEricssonの独自SoC


エリクソン・ジャパン代表取締役社長のジャワッド・マンスール氏は、「それだけではない。基地局内のルーターなどもっと多くの機器にも使われている」と述べている。独自チップの目的は電力効率を上げるためであり、消費電力を下げることでより多くの基地局をビル屋上などに設置でき、5Gのカバー範囲を広げることができる。

11月11日に開催されたエリクソンフォーラム2024では、さらにAIを使うことで通信トラフィックの混雑解消や、通信利用効率のアップにつなげていく。またデジタルツインを使って最適なネットワーク制御をシミュレーションしたり実際のネットワークとの差を詰めたりするためにAIで学習させ、最適解を見つけるという試みなどもデモで紹介した。Ericsson Siliconは、今後こういったAIや最適化問題を加速するためにも拡大していくことになりそうだ。

参考資料
1. “1H24 Worldwide Telecom Equipment Down 17%”, Dell’Oro Group, (2024/09/18)

(2024/11/12)
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