Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 産業分析

Nordic Semicon、日本市場を強化するためサポートを充実

Wi-FiやBluetooth Low Energy(BLE)、IoTなどエッジでのワイヤレス通信チップに強いノルウェーを拠点とするNordic Semiconductorが、日本での拠点を横浜から都内新橋に移し、日本市場に力を入れ始めた(図1)。このファブレス半導体企業は、2024年の1Q(第1四半期)にどん底を迎えたものの2Qでは回復基調に移り、さらに3Qではすでに大きく回復する見込みだという。

Nordic Semiconductorのアジアチーム

図1 Nordic Semiconductorのアジアチーム 左からJohn Kenny氏、Bob Brandal氏、Oyvind Borgan氏


強気にも見えるNordicが狙う市場はIoTである。IoT技術ではワイヤレス通信を使ってセンサからのデータを取得し、エッジで処理したり、クラウドへ送ったりしてデータ処理、さらに知見を得ることで業務を改革する。酪農や医療、産業などでの使われることが多く、市場調査会社のIoT Analytics社はこれからも伸びると予想している(図2)。


IoT市場の発展

図2 IoT市場は成長産業 出典:Nordic Semiconductor、IoT Analytics


Nordicが狙うのは、スマートホームなど個人が使うウェアラブル機器や、人体の健康状態をモニターするパッチ(絆創膏タイプ)、工業用IoT、エッジデバイスに必要なAI機械学習、の4つである。そのためのワイヤレス通信用の新しい半導体チップを揃える。Wi-Fiやメッシュネットワークに対応するThread規格、Bluetoothなどのマルチプロトコルを扱える規格Matter対応のRF回路集積の新型SoCであるnRF54シリーズ、そしてWiFi 6規格にも対応するWi-Fi用のRF70 シリーズ、さらにセルラーIoT規格であるNB-IoTやCAT-M規格に対応するnRF91シリーズを重要な製品ポートフォリオに最近加えた。

IoTデバイスをネットワークにつなげるためには必要なものは半導体チップだけではない。カスタマイズするためのソフトウエアや開発ツールが必要となり、よりスマートなシステムに備えていく。SoCは、System on Chipと言われるようにもはや部品ではなく、システムとなっているため、それを実際に使うためのソフトウエアやそれを実証するための開発ボード、それらを動かすための電源IC、すなわちPMICは欠かせない。Nordicの強みはこれらを全て揃えていることだ。

部品ではなくシステムであるという視点はとても重要で、だからこそチップそのものにはCPUコアが欠かせないだけではなく、性能も上げている。例えば、最新製品であるnRF54シリーズのハイエンド品であるnRF54H20には、Arm Cortex-M33のデュアルコアとRISC-Vのデュアルコアを採用しており、メモリとしても1MBのRAMだけではなくストレージメモリとして、従来のフラッシュメモリではなく、最大2MBの不揮発性(Non-Volatile) RAM(MRAMあるいはReRAM)を集積している(図3)。


Delivering market leading performance

図3 最新のハイエンド製品nRF54のブロックダイヤ 出典:Nordic Semiconductor


Arm Cortex-M33は高性能なMCU向けのCPUコアであり、RISC-Vコアはセンサからのデータ処理やAI処理などのコプロセッサとして使う。ただしマルチコアは複雑になるため顧客に代わってカスタマイズするソフトウエアを書くというサービスも行っている。また、NVRAMを使ったのは、従来のフラッシュメモリだと書き換え回数に制約があるため、ストレージ目的だが、書き換え回数の多いNVRAMを用いた、と同社APACセールス&マーケティング担当のVPであるBob Brandal氏は言う。NVRAMは500kB、1MB、1.5MB、2MBと4種類のメモリ容量を揃えている。そしてアナログのRF送受信回路もモノリシックに集積している。

もちろん、同社は現在Bluetooth LE市場ではシェア42%とトップを行くが、それに満足せず、Bluetooth LE以外のワイヤレス通信技術に力を入れており、IoTやスマートホームなどの市場に向けMatter規格対応も充実させていく。日本オフィスのカントリーマネージャーであるJohn Kenny氏は、米国ではスマートホームが普及しているが、日本でもこれから普及すると期待している。

(2024/10/24)
ご意見・ご感想