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エイブリック、楽しく持続的に成長できる会社へ

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セイコーインスツルから半導体事業を切り出し、社名を変えたエイブリックが誕生して8カ月が経過した。エイブリックは親会社のセイコーグループから独立、筆頭株主が日本政策投資銀行となった。日本で初めて親会社から独立を果たした半導体メーカーとなった。海外オフィスとも協力し、海外での知名度も高めていく。

図1 エイブリック代表取締役社長兼CEOの石合信正氏

図1 エイブリック代表取締役社長兼CEOの石合信正氏


エイブリックを率いるのは、日本企業に数年間在籍した後、Bayer、GE、Invensys、Cabotなど外資系企業を歩んできた石合信正氏である(図1)。それも2000年くらいから経営陣に入りずっと社長業を学んできている。半導体の専門家ではないが、経営の専門家である。社員を動かすツボを熟知している。

セイコーグループが半導体を始めた歴史は古い。今から50年前の1968年、時計用のアルミゲートCMOS ICの研究開発に着手、シリコンウェーハがまだ2インチの時にラインを構築した。アナログクォーツ用ICを1979年に出荷した後、アナログICを中心にセンサICやパワーマネジメントIC、バッテリマネジメントIC、小容量不揮発性メモリなどを世に出してきた。ただ、所詮、セイコーグループ内の半導体部門に過ぎず、歴史は古いが大きく成長できずにいた。大きな投資をしてこなかったことから今日の規模にとどまり続けていた。

セイコーグループから独立

そして転機が訪れたのは、半導体部門をセイコーインスツルから分離独立へと動いた2016年1月。この当時の「エスアイアイ・セミコンダクタ」は、政策銀行が40%、セイコーインスツル(SII)が60%と、まだ独立とは言えない子会社であった。この構造は、ルネサステクノロジやNECエレクトロニクス、東芝、富士通などと日本の大手半導体と同様であった。これを変え、子会社から独立会社に変貌を遂げたのが2018年1月だ。政策銀行が70%、SIIが30%となり、ようやく独立半導体会社となった。

分社化した理由は、セイコーグループは時計を中心にビジネスをしてきたが、半導体事業は山谷の変化が大きく、しかも設備投資の資本が常に必要になった。半導体ビジネスが継続的に発展していくためには常に投資が必要であるが、これまでのセイコーグループは半導体投資を怠ってきた。そこで政策銀行の資本を入れ、セイコーグループの連結から切り離すことになった。石合氏がSIIセミコンの設立と共に社長になって以来、1年半で800名くらいの社員と議論をしてきたという。その結果、アナログ半導体をコアにしていくことを決めた。

半導体ビジネスは現在、需給がひっ迫しており、納期調整に追われているという。作っても作っても間に合わない状況になっており、しかも今後IoTや、自動運転をはじめとする車載用途も有望な市場となっている。

社名作りに全社員が参加

SIIから独立して最初の大仕事が社名変更だった。石合氏は、内部の力だけではなく、外部の力もふんだんに使うことを普段から進めている。外部の広告会社と一緒に社名の候補を30くらい集め、その中から3つに絞り、その3つの名前から、海外を含む全社員が選んだ結果がエイブリック株式会社だった。この由来は、できるというABLEと、半導体のICを組み合わせた造語である。英語表記は、ABLIC Inc.であるが、中国名は中国人が選び、「艾普凌科有限公司」とした。

石合氏が先頭になって掲げる企業理念は「革新的な発想・技術と行動力で、未来を切り開き人々の豊かで歓びに満ちた暮らしを支え続ける」ことであり、ビジョンとしては「「Small Smart Simple」なアナログ半導体ソリューションでお客様に感動を提供」と決めた。理念に「行動力」を加えたことが「ミソ」だという。ビジョンに掲げた三つのSは、それぞれのバランスを重視したものでありが、エイブリックの特長でもある。例えば小型(Small)では、米粒より小さな1.25mm×0.79mm×0.55mm(厚)のWLP(ウェーハレベルパッケージ)のバックコンバータIC(出力0.7〜3.9V、50mA)をIoT・ウェアラブル向けに8月1日に発表したが、コイルとコンデンサを加えても、そのモジュールはわずか1.6mm×2.7mmの基板に収まっている。

エイブリックの製品は、三つのSで表現されると共に、高品質・高信頼性も他の日本の半導体企業と同様、備えており、トヨタ自動車の広瀬工場をはじめ、パナソニックやオムロン、三菱電機などの大手企業からの賞も受けている。アナログ半導体の多品種少量に対応して、約8000品種をそろえている。また新技術として力を入れているのはエネルギーハーベスティングの「CLEAN-Boost」技術で、これはSII時代には日の目を見なかった電池レスのIoT技術だという。小さな電圧と電力を少しずつコンデンサなどに貯めながら、何かを検出したときに一気に放電することで電源として使う。大成建設と共同で水漏れ防止の建物に使う用途があり、また認知症高齢者のように介護オムツを利用する人に対して濡れるとすぐに検知できるような用途を狙う。

中期計画は着実に

新会社になり作成した新中期計画では、昨年度の売上328億円、営業利益48億円に対して、2020年度に350億円と固く見積もった。これは、売上額を上げる前に、会社としての組織を整備することに力を注ぐためとしている。もともとSIIの半導体部門が独立したため、人事部も総務部もなく、マネージする社内環境をしっかり構築しIPO(公開株式上場)できる体制を整えることを最優先とする。アナログに集中し、産業機器、車載、スマホなどの成長部門の伸びは7〜8%あるため、これらに注力するのはその後になる。

20年度の売り上げ目標が350億円で22年度には500億円を目標に掲げているが、産機やクルマなどの成長率からみて、決して無謀な数字ではない、としている。そのために増産投資や新製品開発投資、さらには身の丈に合ったM&Aも行う。売上額を上げると共に営業利益率も上げていく。

なぜ強気の売上額アップを見込めるのか。すでに海外比率が70%を超え、為替レートを1ドル=100円と固く見積もっていながら経営しているからだ。今は110円からやや円安の111円となっている。海外販売には米国ロサンゼルス、台湾、韓国、上海、深セン&香港、ドイツフランクフルトの各拠点があり、これらを通して製品を世界に向けて輸出している。

製品は、電源用ICやセンサ、タイマーIC、アンプ、バッテリマネジメントICなどに加え、車載用IC、医療機器用ICなどだが、PMICを含めた車載用ICが3割、カスタムICが2割、汎用が5割という割合だ。これもバランスをとるという経営戦略だ。製品のロードマップを1年ごとに見直し、世界の変化に素早く対応していく。医療用ICは日立製作所の医療機器用IC部門を買収して手に入れた。

汎用品で他社と勝負できるのか。例えばLiイオン電池保護ICはリコーやミツミも製造しているが、ユーザーはリスク分散上、通常1社購買をしないため、汎用品として製造してもビジネスになる。また顧客によってカスタマイズもするが、できるだけフルカスタムは避ける。コストがかかりすぎるためだ。フルカスタムの手前で設計をとめておき、ASSPのような汎用品を狙う。

半導体企業としてはIDM(垂直統合半導体メーカー)だが、強いところは伸ばしていく。投資対効果の点で製造能力が限界になれば外部のファウンドリを利用する。すでに東北の岩手県北上にあるジャパンセミコンダクターと契約を結び、ファウンドリとして利用している。秋田にある自社の後工程工場を利用することで、千葉県松戸市の高塚で設計、北上で前工程、秋田県大曲で後工程を経て海外へ輸出するというパスができた。

エイブリックしてる?

石合氏は、アナログ半導体の特長は二つあると語る。一つは製品の生産移管が難しいこと、もう一つは顧客の要求や見通しがすぐ変わることだという。このためファウンドリへ移管する場合には1年7カ月かかったという経験から、生産が増えそうな品種には「ダメもと」を覚悟してプロセス移管を進めるという。また、顧客の変化にはすぐ対応できるように備える。

半導体企業の経営者として、人材を大事にしたいという思いが強く、人事制度を変えていく。適材適所として、例えばエンジニアを続けたい人のキャリアパスとしてフェロー制度や、現場の技能者には現場マイスターなどの制度を作るとしている。石合社長は会社を成長させるための要素として、CSR(リスクマネージメントやコンプライアンス、安全衛生環境など)はもちろんだが、強い会社にするための合理的かつ実行能力を備えることを重視し、さらに社員が働き続けるための「楽しくする努力」も重要だとしている。

仕事を楽しくするための方策の一つとして、社歌を社員に作らせた。音楽好きの開発エンジニアが作詞・作曲し、メロディはロック調にした。歌って踊れる社歌となった。歌詞は日本語だが、英語版も作成中だという。また、テレビ会議用カメラ・ディスプレイとプロジェクションマッピング技術を使った臨場感あふれるNECネッツエスアイのテレビ会議システム「SmoothSpace」を利用し、楽しいテレビ会議を利用している。楽しく仕事をする環境は社員を積極的にし、社員の方から「エイブリックしてる?」という標語を提案してきた。海外オフィスの方からも英語で「Doing ABLIC?」という標語も作った。来年、再来年の結果が楽しみだ。

(2018/08/28)

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