2010年は今後の成長につながるエポックメイキングな年だった
2010年がまもなく暮れようとしている。今年は電子産業にとってある意味ではエポックメイキングな年だったといえる。iPadが登場し、スマートフォンという言葉が新聞紙上にも載るようになった。iPadの登場によってタブレットPCあるいはタブレットコンピュータという言葉が生まれた。経済的には2009年の落ち込みから急速に回復した。
図1 今年の半導体産業は3000億ドルを突破 出典:WSTS2010
「100年に一度の世界的な不況」、とグリーンスパンFRB元議長が表現したほどの経済不況であったのにもかかわらず、2009年からわずか1年で回復した。2番底が来る、と言われながら結局来ず、半導体産業は2010年に3000億ドルを初めて超える過去最高額を達成する見込みである。WSTSは33%成長の3004億ドルと見込み、市場調査会社のアイサプライは3040億ドル、ガートナーは3003億ドルと見ている。
今年の世界半導体産業の上位企業にはメモリーメーカーが躍進し、サムスン、東芝、ハイニックス、マイクロン、エルピーダなどが売り上げを大きく伸ばした。ただ、夏ごろからDRAM価格が低下し、DRAMメーカーおよび関連企業の売り上げが低迷し始めた。しかし、一時的だろうという見込みが多い。少なくとも2番底や不況という状況ではない。
半導体製造装置産業も見事に復活した。159億2000万ドルまで凹んでしまった2009年レベルからの回復は長期的にも厳しく、2008年レベルに回復するまでに2年くらいかかると見られていたが、2010年は2.3倍の375億4000万ドルにまで回復し2008年を超える見込みだ。
長期的な成長産業が明らかになったのも2010年だ。スマートグリッド、再生可能エネルギー、環境産業、電気自動車、医療・ヘルスケアなどの分野である。セミコンポータルは2010年5月にSPIフォーラムを開き、スマートグリッドをわかりやすく理解するための場を設けた。スマートグリッドの構築には20年、30年の長期スパンを持って進めていくべきことがわかった。東京大学の阿部力也教授の提案するデジタルグリッドはスマートグリッド同士をつなぐときに威力を発揮する。パワーエレクトロニクスだけではなく、IT技術、半導体デバイスの市場が大きく開けてくることがわかった。
短期的にはクラウドコンピューティングを使ったサービスが始まり、使う人が意識せずに便利さを享受できるようになる。例えば、音声認識はクラウドコンピュータで計算させ、結果だけをスマートフォンやタブレットPCで受け取ることができる試みも始まっている。スマートフォンやタブレットを使った通訳サービスがクラウドコンピューティングをベースにして可能になる時期は意外と早いだろう。
さらに、クラウドコンピューティングとスマートグリッド、電気自動車、再生可能エネルギー分野、ヘルスケアは実は、相互につながっており、通信ネットワーク技術の重要性が世界各地で認識されるようになってきている。その技術のキモは半導体技術にある。それは消費電力の少ない回路技術、少ないソフトウエア(すなわちコード効率の良い)で生み出されたアルゴリズムや制御プログラム、3xナノメートルプロセス技術、シグナルインテグリティを満足するSiP技術などのテクノロジーである。これらのテクノロジー以上に重要なのは、通信ネットワークシステムを半導体で実現するために顧客からの声を集めるマーケティング力である。日本企業はどこが来年飛躍するか。こういったインターネットでつながっている世界の需要を意識し、半導体チップに落とし込める企業だろう。
今年1年、ご愛読ありがとうございました。来年も日本の半導体産業に役立つ視点で、テクノロジー、インダストリ、マーケット、エグゼクティブ、ニュース解説などの記事を書いていきます。来年もよろしくお願いします。