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見えてきたデジタルグリッドの概念、新しい特許システムへの提案も

セミコンポータルが5月末に実施した「SPIフォーラム 次世代パワーグリッド構想 スマートグリッドの真実」において、スマートグリッドへの理解だけではなく、その問題を解決すべきデジタルグリッド構想を東京大学の阿部力也教授が提案していたが、その詳細が次第に明らかになってきた。同時に特許庁の大嶋洋一氏は低コストの特許システムを提案した。


東京大学大学院工学系研究科 阿部力也教授

東京大学大学院工学系研究科 阿部力也教授


スマートグリッドは、発電所からすぐの送電線上には作られないが、送電線から変電所を経て地域や街にやってきた電力網に適用される。この末端の電力網はスマートグリッドでは、イーサネットやインターネットのように双方向の通信ができ、そのネットワークの中で太陽光発電や風力発電、蓄電池などの設備が入る。太陽光や風力の発電状況、蓄電池の電荷蓄積状況、ネットにつながる家庭やオフィスビルの使用状況、などに応じて、電力を融通しあう。こういったネットワーク(スマートグリッド)がいくつかつながるとどうなるか。

一つのネットワークと別のネットワークの電力量のバランスが崩れると、ネットワークからネットワークへ電力が流れていく。この電力のコントロールが不能になると、電力が一方のネットワークへ溢れだし危険な状態が起こりうる。これを防ぐ手立ての一つが阿部教授の提案するデジタルグリッドだ。

ネットワーク間の制御は言うまでもなく、ネットワーク内の制御ももっと緻密に行おうとするとネットワーク内でぶら下がる機器(太陽光発電所や風力発電所、蓄電池、家庭やオフィスのメーターなど)にIPアドレスを付与し、電力量の行き先や電力量そのものを管理する。それを制御するのがネットワークルーターである。阿部教授が提案するこのデジタルグリッドルーターがネットワーク内、ネットワーク間を制御する。これで初めて安定なスマートグリッドといえる。


デジタルグリッドの概念

デジタルグリッドの概念


一つのネットワーク自身(ルーター)にもアドレスを付け、ネットワーク間の電力のやり取りをスムースに行うことができる。電力情報としてIPアドレスを最初と最後のタイミングに付け、電力量としてPWM制御で流し、しかも同期させることで電力量は情報に遅れることなく、配分できるようになる。

デジタルグリッドシステムを構築すると、電力の需給バランスや需給格差の広がりを防ぐだけではなく、電力グリッドの揺れを小さくできる。加えて、万が一の停電が起きた時でも、連鎖を防ぐことができる。すなわちグリッドセキュリティを確保できるという訳だ。

デジタルグリッドのメリットは先進国にも発展途上国にも、あるいは最貧国にも使えるということだ。例えば、電力グリッドが通っていない村ではソーラー発電と蓄電池を最初から組み込み、隣の村でも同様なシステムを構築、それらをつなぐ場合にもフレキシブルでアドホック的に接続できるため有力な手立てとなりうる。

新しいスマートグリッドやデジタルグリッドの開発が進むにつれ、特許件数が急増するのに違いない。国内での特許登録だけではなくグローバルに海外へも登録のため、コスト負担は重くなる。そこで、特許庁 特許審査第三部半導体機器部門の先任上席審査官の大嶋洋一氏は、特許の使用、侵害訴訟などに対して特許権者・利用者ともメリットが出るように知財ベースのコンソシアムを提案した。

特許庁特許審査第三部半導体機器部門の先任上席審査官 大嶋洋一氏

特許庁特許審査第三部半導体機器部門の先任上席審査官 大嶋洋一氏


IP based Consortiumと呼ぶこの組織では、誰の特許を誰が使ったかを管理し、会員外の第三者の特許侵害行為を抑えるという活動も行う。会員間では特定の技術分野では特許侵害訴訟を争わない、特許権の譲渡はもちろん可能。利用した特許を登録したり、有望な特許をプロモーションしたりする。会員の製品にはパテントロゴを張り、侵害されない意味を持たせる。いわば特許の赤十字マークのようなもの。


特許庁 大嶋先任上席審議官の提案するパテントコンソシアム

特許庁 大嶋先任上席審議官の提案するパテントコンソシアム


会員からの調査依頼の申し出があれば、特許侵害の可能性のある製品について調査したり、コンソシアムが保有する特許については権利者として権利侵害訴訟を提起したりする。また権利譲渡を受けていない場合には、権利者と相談して第三者に対する対策活動を後押しする。必要に応じて刑事告発も行う。

コンソシアムの運営は会員の会費で賄い、特許を提供した特許権者(会員)に還付金を支払い、特許を利用したものからお金を受け取る。自社製品に利用している特許を登録し、自社特許・他社特許とも登録できる。誰のどの特許が良く使われるか見える。特許利用者に対しても特許普及活動に貢献したとして奨励金を交付する。

こういった仕組みでIPベースのコンソシアムの収支についてもシミュレーションを行っている。特許訴訟では権利者が勝つことは難しく、むしろ敗訴率は80%前後と極めて不利な現状を知っている大嶋氏だからこその提案とも言える。

(2010/06/04)

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