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英国特集2010・政府設立のPETEC、ビジネスモデルも作り出し自力運営図る

英国政府の肝いりで設立したPETEC(Printable Electronics Technology Centre)はプラスチックエレクトロニクスの試作を行う施設である。2009年3月、北東イングランドの小さな村セッジフィールドにオープンした。少量生産あるいは試作生産レベルの製造プロセスを開発し、小規模生産と大量生産との綱渡しを行う。

PETECが試作した有機EL照明のデモ

PETECが試作した有機EL照明のデモ

英国政府は、将来性のある成長産業が雇用を創出させる組織として、CPI(Centre for Process Innovation)と呼ばれる研究開発拠点を2008年4月に1本化した。それまで北東イングランドの小さな町TeessideにもともとあったCPIと、ニューキャッスル・アポン・タインにあったCenamps(Centre for Nanotechnology, Microtechnology and Photonics)を2008年4月に一つにまとめた。この新組織CPIは、先端プロセス、機能材料、低カーボンエネルギー、プリンタブルエレクトロニクス、という4つの分野をカバーする。PETECは新CPIの1部門である。

2009年末には先端製造設備の購入をサポートするため、英国政府のBIS(Business, Innovation and Skills)省(日本の経済産業省に相当)と北東イングランド経済開発公社One North Eastから2000万ポンド(約30億円)を得ている。元パイオニアで有機ELディスプレイ開発を陣頭指揮していた技術コンサルタントの當摩照夫氏がPETECの日本代表を務めている。

PETECは、2004年のCPIが生まれた年にロール-ツー-ロールの設備を導入できる場所を探していたが、同時に北東イングランド地方政府もプラスチックエレクトロニクスの開発拠点としてこのセッジフィールドを誘致していた。両社の思惑が一致して、このセッジフィールドという村にPETECを設立した。加えて、この分野の先駆者であったプラスチックロジック(Plastic Logic)社は今はケンブリッジに移ったが当初、セッジフィールドを拠点としていた。

PETECが狙う市場は、三つある。もっとも近いのがディスプレイのバックプレーンを開発すること。ここにTFTを作り込み、画素の電圧を制御する。「真空・高温プロセスを使い化学薬品の使用量が多いアモーファスシリコンから有機のスピンコート材料に替える」、とPETECプログラムマネージャーのMike Clausen氏は言う。有機EL(別名OLED)ディスプレイ用TFTの開発に力を入れる。

次がソリッドステート(固体)照明だ。これは紙のように丸められるロールタイプのフレキシブル基板を使った照明デバイスである。「この開発は、今PolyPhotonix社が開発している」という。同社は、このPETECをインキュベータとして設備を使いながら、固体照明用のOLEDを開発中である。OLEDは面発光であるため、「3〜5年後には、照明器具は天井や壁そのものになったり、テーブルになったりする」(Clausen氏)。

ポリフォトニクス(Polyphotonix)は、数カ月前からこのPETECの施設を使い、固体照明を試作している。同社は政府の補助金コンペに勝ち合計420万ポンド(6億3000万円程度)を獲得した。「この大きな資金はビジネスリスクを下げる意味でありがたい」と同社CTOのJanos Veres氏は語る。同社の目指すOLED照明は、建築物、自動車の内装、そして広告媒体への応用を考えている。例えばクルマの天井やドア部分は曲線を描くため、曲線に沿った照明を生み出せる。

最も実用化が遠いとみているが、PETECが狙う三つ目の応用はアモーファス太陽電池に代わる有機太陽電池の応用である。今は有毒なCdTeなどの材料が研究されているが、これから別の材料開発も求められるとしている。

PETECでは、材料開発から化学品の形成、製造プロセス開発、試作品から少量生産サンプルまで可能な設備がある。すでに世界的な製造装置メーカーであるアプライドマテリアルズ(AMAT)社や東京エレクトロンとも話し合いを始めており、AMATにはロール-ツー-ロールのCVD装置の開発を打診しているという。


PETECのクラス1000のクリーンルーム内

PETECのクラス1000のクリーンルーム内


PETECのビジネスモデルでは、民間からの資金も期待する。これまで政府の資金をつぎ込んで建物や設備を導入してきたが、政府の資金だけではプロジェクトはいずれ行き詰ってしまう。このため、これまでの政府や地方自治体の研究費だけではなく、企業とのコントラクトベースの研究開発資金や、材料形成技術をライセンスすることによる収入も見込んでいる。

PETECには現在35名のスタッフがおり、CPI本部があるウィルトンには5〜6名在籍し、ニューキャッスルにも若干名いるが、トータルで45〜50名に近いうちに増やしていく。ニューキャッスルにはALD(原子層デポジション)の設備があり、ウィルトンにはロール-ツー-ロールの設備がある。

PETECの人的な強みはシリコンのバックグラウンドを持っていることだ。単なる研究施設での研究ではない。アトメルやシーメンス、富士通、メルク、サムスン電子など民間のメーカーから来た経験豊かなスタッフが多い。

ALDの設備は、基板となるポリエステルフィルムの上にバリヤーメタルを介してITOを付けるわけだが、伸縮しやすいフィルム基板にはバリヤーメタルは欠かせない。耐湿性を考えるとガラス基板なら不要なバリヤーメタルがフィルムではマストだという。しかもALDは下地の凹凸に沿って成長する「コンフォーマルコーティングできる」こともメリットである。PETECでは、ロール-ツー-ロールのALDを研究中だ。

装置設備は、12インチ用解像度4〜5μmのマスクアライナー、インクジェットプリンター、デポジション装置、ソース・ドレイン電極形成用のマグネトロンスパッター装置など、プラスチックエレクトロニクス形成用のさまざまな装置を揃えている。2000万ポンドの資金で、固体照明用のパイロットラインの拡張に使うとしている。

またPETECが担う最大の任務は、ウェールズのWCPC、ケンブリッジ、マンチェスター、ロンドンインペリアルカレッジの英国全土に設けた研究拠点同士のコラボレーションである。英国中の英知を絞り、プリンティングデバイスを集積するため、各拠点の装置や設備が正しく使われ、それぞれの役割を遂行しているかを話合う。「情報をみんなで共有することで、プラスチックエレクトロニクスのサプライチェーンを作りたい」と同氏は語る。

IP(特許などの知的財産)に関してはフレキシブルに対応することを考えている。政府TSB(技術戦略会議)のプログラムでは、IPを共有することにはなっているが、どのレベルのサービスを提供できるのかによって、IPに対する考えは違うはずだ。これに対して、例えば材料形成の場合、どの企業が主体的に開発したかによってIPの所有は変わるだろうとしている。

(2010/04/21)
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