先端パッケージング技術開発の鍵を握るのは人材、つくばのTSMCが言及
前工程でも後工程でもない「中工程」と言われる先端パッケージング技術を、つくばにあるTSMCジャパン3DICセンターが徐々に明らかにしている。またToppanがサブストレート基板の工場をシンガポールに新設する。2.5D/3D-ICなどの先端パッケージはクルマでも採用されそうだ。ASRA(自動車用先端SoC技術研究組合)の狙いはチップレット。
図1 TSMCジャパン3DICセンター 出典:TSMC
3月15日の日経産業新聞は、TSMCジャパン3DICセンターの江本裕センター長とのインタビュー記事を掲載、江本氏はつくばでの進捗状況を述べている。2022年6月にセンターがオープンしてから1年半以上経った。24年1月時点で協力企業30社以上とNDA(秘密保持契約)契約を結んだとしている。江本氏は「具体的な研究開発がかなり進み、23年後半には台湾のTSMC本社を驚かすような成果が出た」と語っている。
研究の内容は明らかにしないが、成果のカギとなったのは人材だという。センター60名の内、15名は本社からの指導係。新たに採用した残り45名の内40名が研究者で大学院修了者が多く、博士号や修士号を持つ。全員が半導体専門ではなく、「半導体物理を知らなかった人もいる。例えば材料や構造物の変形や応力を観察する『熱応用力解析』や、立体物を形成する『モデリング』の研究者らだ。半導体の知識がなくても活躍はできる」と江本氏は述べている。
事実、人材交流SNSのLinked-Inでは、2024年3月16日につくばのセンターにおいて、「パッケージング基板プロセスエンジニア」や、「プロセスインテグレーションエンジニア」、「パッケージング基板開発エンジニア」などの募集があり、3月9日でも「経理スペシャリスト」、「半導体基板設計エンジニア」、「プロセスエンジニア」などの募集がある。もちろん、この他にも熊本のTSMC Fab23(JASM:Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)や、横浜みなとみらいのTSMCデザインセンターではそれぞれ信頼性品質管理の化学分析マネージャー、温度センサ/デジタルリニア電源(DLVR)エンジニアなどの募集を進めている。
先端パッケージでは、シミュレーション技術が不可欠。チップを重ねてから不良品が出てきても手遅れだからだ。チップやチップレットを重ねたり実装したりする前に、熱分布や電流分布、EMI分布などを知っておく必要がある。シミュレーションするためには適切なモデルを開発しなければならない。だからこそ、熱応力解析やモデリング研究者が求められる。
NDAを結んだ30社とはすでにサンプルを提供してもらい評価している段階だとしている。台湾のパイロットラインに乗せて顧客の要件に合うかどうかをチェックしているという。複数のTIM(Thermal Interface Material)やアンダーフィル材料、半導体基板がパイロットラインに載せられる段階に来ているとしている。24年中にNDA契約者を50社まで拡大したいと江本氏は期待している。
Toppan(旧凸版印刷は、半導体パッケージ基板の工場をシンガポールに新設し、2026年末に稼働させる、と14日の日経が報じた。日経によると投資額は約500億円、200名を雇用する予定だという。シンガポールには、先端パッケージのスタートアップであるSilicon Box社が立ち上がったばかりだ。主要取引先がBroadcomということだが、Broadcomは本社を米国とシンガポールに持っていたが、数年前に米国に移転させた。とはいえシンガポール工場でのオペレーションは継続中で、1万人の工場は健在だ。
昨年末の12月28日にあわただしく設立されたASRAは、車載半導体に先端パッケージング技術を適用するための技術研究組合。トヨタや日産などの自動車メーカー5社と、デンソーとパナソニックのティア1サプライヤー2社、そしてルネサスやソシオネクストなど半導体関連企業5社が集まった団体。名古屋に拠点を持ち、チップレット技術を適用した自動車用SoCを開発する。CPUやAIチップ、GPU、DSPなどのアクセラレータを一つの基板上に集積するため、チップやチップレット同士のインターフェイスを合わせ、それらを搭載した時の熱分布や電磁界分布、電流分布などのシミュレーションは欠かせない。そのためにEDAベンダーも2社参加している。