Industry 4.0導入を早められるマイコン、NXPが開発
Industry 4.0は、そう簡単には進まない。世界各地の工場はそれぞれ独自のネットワーク規格やプロトコルで動いているからだ。独自規格をIndustry 4.0を実現するTSN(Time Sensitive Network)規格に変換しながら下位互換性を持たせる作業を工場ごとにしなければならない。NXPはTSN規格と主要な複数の産業用ネットワークを切り替えられるマイコン「i.MX RT1180」を製品化した。
図1 マイコンi.MX RT1180はIndustry 4.0の工場ネットワーク通信向け 出典:NXP Semiconductor
世界各地の工場は、それぞれ独自規格で動いている。SiemensならProfinetやProfibus、三菱電機ならCC-Linkなど、各社各様の通信規格で工場内の機械をつないできた。それを汎用規格のEthernetベースのEtherCATという規格も少しずつだが普及してきた。ここにIndustry 4.0の概念が持ち込まれ、リアルタイム性を持つ協調動作が求められるようになっている。各社各様バラバラの規格に対して、Ethernetベースで一斉に同期を取りながら機械を動かそうというTSN規格が登場し(図1)、Industry 4.0実現の決め手と見られるようになった。
NXP Semiconductorがリリースした今回の新製品「i.MX RT1180」(図2)は、ギガビット/秒で動作するTSNスイッチと産業用リアルタイムネットワークをサポートしている。TSNベースのソフトウエアプロトコルとして、OPC UA Pub-SubとProfinet over TSN、CC-Link IE TSNをサポートし、産業用リアルタイムイーサネットプロトコルとして、Profinet、EtherCAT、Ethernet/IP、CC-Link IE Field、HSRなどをサポートしている。このチップを使うと、入ってきたパケットを全て内部のソフトウエア処理でポートから出力するため、イーサネットスイッチが要らない。
図2 i.MX RT1180のブロックダイヤ 出典:NXP Semiconductor
ネットワーキングの専用ポート回路には、4ポートのTSNスイッチを持ち、TSNエンドポイントコントローラを1つ持つ(図2)。もちろん、マイコンとして必要なI/OポートであるI2CやUART、GPIB、CAN―FDなどの汎用ポートも16種類以上用意している。
Industry 4.0では、外部からのサーバー攻撃に備えてセキュリティも強化している。セキュアブートやトラストモニターなどに加えて、暗号化回路や暗号キー専用保存回路なども主プロセッサとは別に独立分離したセキュリティ回路「EdgeLockセキュアクレーブ」も集積している。産業用機器のセキュリティ規格であるIEC 62443にも準拠している。
マイコンそのものは、動作周波数800MHzのArm Cortex-M7と、同240MHzのCortex-M33のデユアルコア構成で、高性能動作ではM7、低消費電力動作ではM33を動作させることで電力効率を高めている。またECC(誤り訂正回路)で保護された1.5MBのメモリ(SRAM)と512KB+256KBの低レイテンシTCM(Tightly Coupled Memories)メモリで性能を上げている。
このマイコンをいくつか使った事例を図3に示す。
図3 Industry 4.0の工場に向けたTSNマイコン 出典:NXP Semiconductor
ここでは、ローカル5Gのようなリモート制御やクラウドからデータや信号を入力し、それらのデータを、TSNを通して工場管理システムやリモートのエッジ、また実際の工場内へのインターフェイスにも使うほか、工場内でも機械同士をまとめる親機のようなオートメーションセルのヘッドや各エッジの機械にも使うなど、複数のプロトコルを集積しているため、汎用性が高い。もっと性能を上げたい場合には、ホストCPUやマイコンとのコンパニオンチップとして使う用途も想定している。
NXPは7月に限定ユーザーにサンプル出荷を始め、今年あるいは来年はじめには量産する予定である。BGAパッケージ入り。