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オートモーティブワールド2017、測距チップと無線技術に焦点

1月18日から20日まで東京ビッグサイトで「オートモーティブワールド2017」が開かれ、ごった返した。半導体チップを設計販売しているメーカーは、少なくとも19社以上が参加した。一口にクルマ用といっても、「走る・曲がる・止まる」といった基本機能だけではなく、「安全・環境にやさしい・つながる」といった新機能に注目が集まった。

図1 STMicroelectronicsが示した、より安全を設計するチップセット

図1 STMicroelectronicsが示した、より安全を設計するチップセット


半導体メーカーであることを確認できたのはアルファベット順に、旭化成エレクトロニクス、独Bosch、独Creative Chips、米Cypress Semiconductor、独Infineon Technologies、米Intersil、米Linear Technology、米Vishay、ベルギーMelexis、米Nvidia、米ON Semiconductor、米Qualcomm、リコー電子デバイス、ローム、新電元工業、新日本無線、スイスSTMicroelectronics、香港Truly Semiconductor、米Xilinxの19社。

クルマの総合力を示したのは、STMicroelectronics。同社は「より安全に」、「よりコネクテッドに」、「より環境にやさしく」を訴求し、それぞれのチップセットを展示した。例えば、「より安全に」(図1)では、SiGeのBiCMOSチップによる77GHzとCMOSの24GHzのレーダーICをeWLB(Embedded Wafer-Level Ball Grid Array)パッケージに封止、レーダー制御マイコン「SPC58NE」と合わせている。カメラ情報に関しては、CMOSイメージセンサ、後方ビュー用プロセッサ、それらの信号と処理するビジョンプロセッサEyeQ4(28nmのFD-SOIプロセス)をそろえている。また、GNSSからの位置信号やV2X信号処理のAutotalksチップ、駐車アシスト用マイコンなども組み込み、それらを中央のセンサフュージョン用マイコンで処理する。ビジョンプロセッサには16nm FinFETプロセスを使うEyeQ5製品も開発ロードマップに乗っている。

GNSSの衛星からの位置制御に使うGNSSチップと6軸(3軸加速度+3軸ジャイロ)MEMSセンサチップを含めたチップだけではなく、クルマ同士あるいはクルマと道路インフラ間の通信を担う回路も集積したアプリケーションプロセッサも展示した。STMicroelectronicsはGNSSとMEMS回路、イスラエルのAutotalks社はV2Xを担当し、これらの回路を1チップに集積した。

今回の展示会では、対象物との距離を測るチップが目立った。InfineonとMelexisがそれぞれToF(Time of Flight)法(参考資料1)を利用して深さ方向の距離を測る技術を使ったイメージを見せた(図2)。赤外のLEDを対象物に当てその反射光を検出する訳だが、パルス列の位相の差を測定し、深さ方向の距離を得る。これは2次元平面に展開できるように、Infineonは352×288画素の動画として見せている。Melexisは外光の影響を避けるためビームフォーミングで指向性を付けて赤外光を当てている。


図2 Melexisのデモで見せた深さ方向の情報を取り入れる映像 赤系を近距離、青色系を遠距離として色分けしている

図2 Melexisのデモで見せた深さ方向の情報を取り入れる映像 赤系を近距離、青色系を遠距離として色分けしている


この応用として、ドライバーの顔を認識し、瞼の閉じ具合から居眠り検出に使えるという。加えて、乗車している人の中から子供を見分けることができるため子供の前のエアバッグを止めるなどの措置をとれる。また、ジェスチャー入力にも使える上に、駐車場での超音波レーダーの代替技術としても狙えるとしている。

新日本無線は、赤外光ではなく24GHzのマイクロ波(準ミリ波ともいわれる)を使ったレーダーでの測距技術を発表した。WaveEyesと呼ぶ、その技術はクルマの前後に搭載することで障害物を検出し、駐車を支援する。今回は、FSK(Frequency shift keying)変調方式のドップラーレーダー電波を動体に当て、位相差の変化から深さ方向の距離を測る (図3)。従来の駐車支援に加え、今回は人間にマイクロ波を当て心臓の収縮や胸の動きを検出して心拍と呼吸を測定することを提案した。Infineonも24GHzレーダーを使うためのデモキットVer.2を展示した。


図3 新日本無線が示したマイクロ波測距センサシステム 24GHz帯の準ミリ波を使い距離を計測

図3 新日本無線が示したマイクロ波測距センサシステム 24GHz帯の準ミリ波を使い距離を計測


これらの深さを測る以外にも、ジェスチャーを表現する技術が登場した。ON Semiconductorは、最大15cm離れても検出できる静電容量方式のタッチセンサ技術を開発した。ICの感度、精度、キャリブレーション精度、ノイズ耐性をそれぞれ上げ実現したという。大きな面積だと容量も大きいため、外部回路にコンデンサを取り付け、比較すべき容量を増やすことでその差分を検出しやすくした。しかもキャパシタの対抗電極同士をフェイス-ツー-フェイスで対抗させずに横に並べることで、電界が半球状に広がり、その上から手などの胴体を置くことで電界が変わり容量変化を検出する。

自動車への応用例として、天井灯(図4)に触らずに消したり明るさを変えたりすることができる装置を展示した。あくまでも静電容量を計測しているので、手をさっと横に動かしたり、近づけたりすることで容量が変わるため、その時間変化を、明るさを変えるとかオン/オフ動作にするなどのコマンドに設定できる。降雨や水に濡れる場合でも容量変化を検出できる限り使える。


図4 ON Semiconductorが示したジェスチャー操作の天井灯 手をかざすだけで点灯したり明るさを変えたりできる

図4 ON Semiconductorが示したジェスチャー操作の天井灯 手をかざすだけで点灯したり明るさを変えたりできる


Cypressは、Spansionを買収したことでクルマ用半導体市場でのプレゼンスをグンと上げるようになった。元富士通セミコンダクターの自動車用マイコンファミリTraveoは、グラフィック機能も内蔵したマイコンであり、クルマの液晶クラスターパネルへの応用に力を入れている。さらにCypressの持っているpSoCマイコンとエネルギーハーベスティングを加えたPM(パワーマネジメント)ICを搭載したBluetooth LE(Low Energy)モジュールをクルマのドアに取り付け、ドアの開閉に利用するという応用を提案している。ワイヤーハーネス不要というメリットがある。

電気自動車でも動きがあった。一つはLinear Technologyのバッテリマネージメント(BM)ICのワイヤレス化で、もう一つはQualcommのワイヤレス充電システムだ。電気自動車では、3.7〜4.1VのLiイオン電池セルを直列に例えば96個接続し、さらにそれを並列に接続するなど、大量のセルを使う。初期的には特性をそろえるとしても充放電を繰り返すうちにセル間の特性がバラついてくる。Linearは、セル間の特性をそろえるためのBMICを最初に出荷した半導体メーカーだ。当初は、放電が速いセルに合わせてまだ電荷が残っているICの電荷を捨てて合わせるパッシブ方式だったが、電荷が残っているセルから電荷の少ないセルへ電荷を分配するアクティブ方式へとBMICは進化してきた。

今回Linearが提案するのは、12個のセルを制御するBMICモジュール同士をワイヤレスでつなぐというアーキテクチャだ。LinearはIoTビジネスでDust Networkを買収したが、Dustが使っていた無線のメッシュネットワークであるSmartMeshを使う(図5)。この方式は、セキュリティが非常に高いうえに、接続率が有線並みの99.999%と極めて高いことが特長である。センサからセンサへデータを送るのに乱数表などでネットワークマネージャーICが決めるセンサノード(セル)に送り、しかも周波数ホッピングで周波数を変えていくため、盗聴されにくい。しかも、二度と同じルートを使わない。一つのノードが12個のセルの状態をチェックしてノードからノードへと送り、最終的にゲートウェイに送る。


図5 SmartMeshワイヤレスネットワークを利用したバッテリマネージメント 出典:Linear Technology

図5 SmartMeshワイヤレスネットワークを利用したバッテリマネージメント 出典:Linear Technology


クルマ内ではさまざまなノイズが飛び交うため、誤動作しやすい。SmartMeshはこの点、センサからセンサへの空間冗長性と、周波数ホッピングという周波数冗長性があるため、確実な接続ができるという。例えば96個のセルをつなぐ場合にノードモジュールは8個必要になる。セル1個の容量にもよるが、電力を増すのに、このセルを並列あるいはさらに直列につなぐことになる。96個の直列接続セルで約300Vになるが、モータをドライブするにはさらに600V程度まで上げる昇圧コンバータが必要になる。ワイヤレスでバッテリを管理できれば車内のワイヤーハーネスが不要になるため軽量化による燃費改善に向かう。

Qualcommは電気自動車のワイヤレス給電技術で最大20kWの充電器を開発中であることを明らかにした。昨年は、最大11kWの充電器だった(参考資料2)。Qualcommが力を入れているワイヤレス充電器は、交流50Hzあるいは60Hzの交流200V系を使って85kHzの交流に変換し、充電する。85kHzのワイヤレス充電器は、この展示会ではBMWの電気自動車i8に適用した(図6)。


図6 BMWの電気自動車i8にワイヤレス充電器を搭載 床に置かれた四角い黒いプレートが電力を送る送信コイルである。

図6 BMWの電気自動車i8にワイヤレス充電器を搭載 床に置かれた四角い黒いプレートが電力を送る送信コイルである。


地面に設置したり埋め込んだりするベースパッドの大きさは650mm×650mm×50mm(高さ)であり、その重量は29.8kgもある。地面のコイルは電力を送る側。クルマに搭載するコイルは電力を受ける側で、こちらはできるだけ軽い方が良い。このため、3.7kWのコイルの重量は3.97kg、7.4kWのコイルは5.27kg、そして11kWのコイルでも7.68kgと軽量化している。

軽量化のために、コイルを一つから二つに増やし、結合効率を高めた。コイルが二つあると磁界のループは二つできる。その上に結合用のコイルが近づくと二つのループ同士がくっつき合い、へこむことから密に結合することになる。従来のコイル1個とD型コイルを2個搭載したダブルD型コイルは同じ電力で大きさが半減した。その分軽い。

ワイヤレス給電における問題は二つある。一つは、人間がコイルの上を通りかかったときに給電スイッチが入っている場合だ。危険であるため、地面に設置する給電パッドの周辺にレーダーを発しており、人に反射することで検出する。人を検出すると電力を自動的に下げる。もう一つは金属の異物がコイルの上に存在する場合だ。金属を検出すると高温になるため、自動的に止める。さらに、ドライバーなどが持っているスマートフォンにも金属異物があることを知らせ、取り除いてもらう。

このほか、バックモニターの設置が新車に義務付けられることに備えたICも出ている。ギアをバックに入れたら即座にカラーバックモニターが起動してほしいが、まだ2秒程度かかるものがあった。これを0.5秒以内で立ち上がるICを今回、Intersilとローム(ラピスセミコンダクター)の2社が展示した。従来は、ビデオデコーダの後にグラフィックスSoCを通して白線の縁のグラフィックスをビデオに重ねてからビデオ処理していたため時間がかかった。ラピスはLCDコントローラML86287において、最後にSPIインタフェースを通して、グラフィックスのOSD(オンスクリーンディスプレイ)をビデオ画像に重ねることで高速化した。Intersilも同様で、ビデオ処理を終えた最後にSPIフラッシュからグラフィックスをビデオに重ねることで高速化した。CPUを使わずハードワイヤードの専用ICとして高速化できたとしている。

参考資料
1. モバイル用途で最大2mの測距チップ技術をIntersilが明らかに (2015/10/16)
2. 半導体メーカーがこぞって参加したカーエレ展 (2016/01/19)

(2017/01/25)

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