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MEMSビジネスが高集積半導体と同じシステム指向へ

MEMSビジネスが半導体ビジネスに近づいてきそうだ。MEMSセンサを束ねる低消費電力の演算リッチなSoC(センサハブあるいはセンサフュージョン)、アルゴリズム開発、MEMSのファブレス、開発ツールなど、MEMSビジネスは広がりが出てきた。5月11-12日、東京両国で開催されたMEF (MEMS Engineer Forum) 2016ではMEMSセンサには部品からシステムへと変わりつつあることがはっきりした。

図1 MEF 2016の全景 出典:MEMS Engineer Forum 2016

図1 MEF 2016の全景 出典:MEMS Engineer Forum 2016


機械的な運動をシリコン上の薄膜に持たせた超小型センサである、MEMSデバイスはこれまで圧力や加速度、角速度(ジャイロ)、磁気などを検出してきた。薄膜が機械的に大きく動けば動くほど感度は高まるため、大きく動けるように空洞をシリコンエッチングなどで形成する。非常に深いエッチングを必要とするプロセスは、プレーナ技術が主体のシリコンLSIから見ると特殊な製造技術だった。

ところが、シリコンICでも高集積のチップでは深くてアスペクト比の高いエッチングが使われるようになり、MEMS技術との共通点も多くなってきた。製造技術だけではない。センサは機械的な動きを電流や電圧などに変換するデバイスであるため、電流・電圧のパルス波形を意味づけする必要があった。

例えば、スマートフォンの画面を斜めから横に向きを変えると画面の向きも一緒に変わるという機能があるが、これは、鉛直方向の加速度が常に働く重力加速度が9.8m/s^2という一定の値なのに、スマホの画面を斜めにすると、その向きが変わることを検出することで、スマホの画面を縦から横へ変換するという作業を行っている。すなわち、センサからの電気信号波形の意味を読み取ることで、画像を90度回転させている。

センサからの信号波形の意味するものを取り出して、機能に変換する作業が必要なのである。そのためのアルゴリズム開発がセンサには欠かせない。スマホはセンサの塊になりつつある。比較的新しい機能では、圧力センサを利用して気圧を測定し、気圧が薄くなると高度が高くなるという地球の物理特性を利用して高度を測定できる。GPSと組み合わせれば今2階にいるのか3階にいるのかさえ、判断できるほど高精度になっている。

半導体の集積度が上がると共に、システム的になっていったのと同様に、MEMSセンサもアルゴリズムなどのソフトウエア開発が欠かせないシステム的になりつつある。MEF 2016では、MEMSセンサ専門メーカーのInvenSenseがファブレス宣言した。MEMSセンサとA-D変換やアルゴリズムを含めた信号処理のCMOSICをTSMCが製造し、ソーティングをInvenSenseがおこない、パッケージングはASEなどのOSATに依頼し、最終のテストをInvenSenseが扱う。InvenSenseはMEMSとCMOSICの設計だけを行うファブレスとなった。

さらにソフトウエア、アルゴリズムの開発ツール(プラットフォーム)、SensorStudio(図2)もリリースした。このプラットフォームでの基本的な機能は、内蔵のライブラリを使ってブロック回路や配線をグラフィカルに描き、カスタマイズしたいアルゴリズムはC言語でコード化できるようになっている。


図2 センサ信号を解読するソフトウエア、アルゴリズム開発のツールSensorStudio 出典:InvenSense

図2 センサ信号を解読するソフトウエア、アルゴリズム開発のツールSensorStudio 出典:InvenSense


このツールで作成したアルゴリズムやソフトウエアは、センサハブチップSoCに焼き付けることができる。同社はセンサハブチップFireFlyも設計しており、その製品名ICM-30630のアーキテクチャは、コントローラとしてARM Cortex-M0をコアに、アルゴリズム演算はDMPと呼ぶ専用のロジックコアを利用する。FFT(高速フーリエ変換)などのアルゴリズムアクセラレータ回路となっている。この製品ではよく使われる加速度とジャイロの信号処理回路を集積しているが、それ以外のセンサはI2Cを使って追加できる。

昨年のこの会議では、Robert Boschがセンサハブを開発していることを述べたが(参考資料1)、今年はそれには触れなかった。

センサそのものも新しくなりつつある。MEMSの特長は何といっても超小型である。MEMSデバイスのトップメーカー(参考資料2)であるBoschは、エンジン制御用のマスフローコントローラ用のセンサもMEMSで開発していると述べた。さらにフランスのCEA-Letiは、環境センサと呼ぶガスセンサと、ガスクロマトクラフィにMEMSを応用したセンサについて述べた。ガスセンサは、IRスペクトロスコピーを利用したガス分析法であり、ガスの吸着を利用するものではない。多波長レーザーの一種であるQCL(Quantum Cascade Laser)をガスに照射し、光-音波変換を行い、MEMSマイクで音を検出するという仕組みだ。また、シリコンに細長い溝を堀り、それをMEMSマイクロ流路として利用するガスクロマトグラフィの分析器も試作している(図3)。ガスの重さの違いによって流路を流れる速度が違うことを利用してガスを分析するツールである。


図3 Letiが試作したMEMSガスクロマトグラフィ 出典:CEA-Leti

図3 Letiが試作したMEMSガスクロマトグラフィ 出典:CEA-Leti


クルマ用のセンサとして、周囲の物体との距離を測るLIDAR(Light Detection and RangingあるいはLaser Imaging Detection and Ranging)システムがすでにポリゴンミラー方式でクルマに搭載されている。グーグルカーのトップルーフに搭載されている装置がそれだ。このポリゴンミラーをMEMSスキャナーに代えて小型化を図ろうという試みがある。デンソーはMEMSのLIDARをこれからのセンサとして見ており、Boschはモバイル機器にもジェスチャー認識として使えると述べた。

最終日最後のパネルディスカッションでは、ファブレスのInvenSenseが大学との開発を強調したのに対して、IDM(垂直統合メーカー)のBoschは米国社内シリコンバレーのパロアルトとシンガポールにある中央研究所を利用して開発を進め、他社や他業界とのコラボレーションはほとんどしない、と述べたことが対照的であった。Boschはクラウドコンピュータのオフィスをシリコンバレーに置き、コラボよりも社内で独自開発することを優先している。ただし、BoschのようなMEMS最大手のIDMはむしろ例外的だろう。センサハブのアルゴリズム開発のコラボは十分ありうることで、また標準化する場合にもコラボが必要だろうと、MEMS & Sensors Industry Group会長のKaren Lightman氏は述べている。

参考資料
1. BoschのCMOSセンサハブ、自社設計によりIoT競争力を上げる (2015/05/01)
2. 2015年のMEMSランキング、RF-MEMSでAvagoが急伸 (2016/04/07)

(2016/05/18)

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