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センサハブでIoT時代のLSIを切り拓くメガチップス

IoT時代の新しい半導体LSIがある。センサハブあるいはセンサフュージョンと呼ばれるチップだ。IoTデバイスに搭載されるセンサは複数個あるため、センサからの信号を、アルゴリズムを使って意味のあるデータに表したり、複数のセンサ信号を切り替えたりする。日本でもいち早くそのLSIを製品化した企業がある。ファブレスのメガチップスだ。

メガチップスが最初にfrizzと呼ばれるセンサハブLSIを発売したのが2014年11月。もともと同社はアルゴリズム開発やシステム設計が得意なファブレス半導体企業で、カスタム設計を得意としてきた。いろいろなセンサからの電気信号を意味のある行動として解釈するためのアルゴリズムの計算が得意だった。このため、センサ信号を理解するアルゴリズムを使ったチップ開発を望んでいた。


図1 スマホとウェアラブル端末の使用例 出典:メガチップス

図1 スマホとウェアラブル端末の使用例 出典:メガチップス


そのような折、GPS信号が入ってこない屋内や地下街などのインドアナビゲーション用のチップをまず開発した。インドアナビゲーションでは、スマホ内の加速度センサ(動く時を検出)やジャイロセンサ(曲がる時を検出)、磁気センサ(北向きを検出)などを利用して、GPSがたどってきた履歴を元に電波が届かなくなってからの活動を推測していく。Apple社もiPhone 6 / 6 Plusに、センサからの信号を処理するコプロセッサチップM8を搭載していた。これはマイクロコントローラを利用したチップであったが、メガチップス社はもっと低消費電力にすることを狙った。スマホやウェアラブルに使う場合(図1)には低消費電力は必須だからである。センサハブの特長はセンサからの信号をAPUで処理せず、センサ側で処理すること。このため、APUの消費電力は下がり性能も上がる。消費電力をさらに下げようというチップがメガチップスのLSIだ。

センサハブLSI、frizzは、図2のように、仮想センサとそのアルゴリズムのライブラリなどを集積している。センサからの信号を入力し、それを意味のある表現に変換してデジタル出力するもので、ホストプロセッサであるアプリケーションプロセッサ(APU)やセンサとやり取りするインタフェースにはI2CやSPIを用いている。アルゴリズムを実際に計算するハードウエアはDSPである。DSPは積和演算専用のマイクロプロセッサであり、さまざまなアルゴリズム演算を級数展開する場合にぴったりのチップである。制御命令も集積しているため、マイコンは別に設ける必要もない。


図2 センサハブLSIに搭載するソフトウエアライブラリは豊富だという 出典:メガチップス

図2 センサハブLSIに搭載するソフトウエアライブラリは豊富だという 出典:メガチップス


さまざまなセンサの細かい制御もここでは必要ない。仮想センサライブラリを使って高品位なデータを出力することで、消費電力の低減を図っている。メガチップスの得意なアルゴリズムを32ビットDSPコアにプログラムしているが、その命令、データともそれぞれ256Kバイトと大きなRAMに格納している(図3)。ソフトウエアライブラリも提供する。

DSPコアは最大40MHzのクロック周波数にとどめ消費電力を抑えながら、アルゴリズム計算に向いた3ウェイVLIW(Very Long Instruction Word)アーキテクチャを使い、浮動小数点演算を4ウェイSIMD(Single Instruction Multiple Data)で実行する。ある意味で、ちょっと変わったDSPチップである。その結果、消費電力は、40MHzのクロック周波数で動作時8.3mA、遅いスリープ時は100kHzに落として150µA、速いスリープ時は40MHzでも1mAと低い。コア電圧は1.2V、IO電圧は、1.8/2.5/2.8/3.3V、スタンバイ時は8.3µAに抑えている。


図3 演算の中心は32ビットDSPで行う 出典:メガチップス

図3 演算の中心は32ビットDSPで行う 出典:メガチップス


演算の種類によっても低消費電力を確認している。いろいろなアルゴリズムの計算に使うカルマンフィルタ演算のベンチマークでは、従来のマイコンコアと比べ、消費電力が1/20、行列演算ベンチマークでは4倍以上の性能、FFT演算ベンチマークでは処理速度が2.4倍、消費電力は1/4となっている。

ユーザーがIoT端末の開発を早めるための開発ツールも揃えている。標準的なIDEはEclipseベースの開発環境、ソフトウエア開発にはC/C++言語が使え、スマホとウェアラブル端末用の評価キットSDKも提供する。

メガチップスは2013年のファブレスランキングでトップ25社ランキング(参考資料1)に入った唯一の日本企業(21位)。これまではカスタム設計のASICメーカーであったが、企業をさらに成長させるためには汎用のASSPにも参入しなければならないと考えた。今回のセンサハブICはその第一弾となる。センサハブICは、米QuickLogic(参考資料2)と共に先行しており、ルネサスも2015年になってセンサハブLSIを発売した。

参考資料
1. ファブレス半導体ランキング、スマホプロセッサ企業が急伸 (2014/05/09)
2. スマホ向け10センサのハブLSI、RFアンテナチューナ〜EuroAsia(1) (2014/10/15)

(2015/12/25)
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