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64ビットのARM/MIPSコア新勢力がデータセンター/クラウド市場へ

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IoTシステムの最上位にくるデータセンターのサーバやクラウドサービスを提供する分野でも新勢力がやってきている。これまでサーバビジネスでは、Intelのx86アーキテクチャのIAサーバだけが成長していた。ここに新勢力がやってきた。ARMv8アーキテクチャのApplied MicroとMIPSの64ビットコアを発展させているImagination Technologiesだ。

図1 Applied Micro社マーケティング担当VPのJohn Williams氏 EuroAsia 2015にて

図1 Applied Micro社マーケティング担当VPのJohn Williams氏 EuroAsia 2015にて


これまでサーバビジネスでは、x86アーキテクチャ以外の専用プロセッサによるサーバはここ数年下降曲線をたどってきた。サーバ市場には、企業向けとデータセンター向けがあり、x86アーキテクチャの得意な市場は企業向け。だからこそ、企業向け以外のデータセンターやHPC市場で演算能力の高いプロセッサは成長途中であり新規参入の余地がある。「今まで、Intelが独占してきた市場に風穴が開いた」とApplied Micro社マーケティング担当VPのJohn Williams氏(図1)は表現する。穴を開けたのは、ネットワークプロセッサで実績のあるCavium社やモバイル市場のトップメーカーQualcomm社などの新規参入組だ。

市場だけではない。テクノロジーの面からもCPUコアベンダーのスーパーコンピュータなどのハイエンド製品を作れる環境が整ってきた。それは最近のスパコンの性能がCPUとメモリとの通信がボトルネックになっていることと関係する。かつては、CPUの性能がボトルネックになっていたため、スーパースケーラやパイプライン、マルチコアなど並列処理技術の開発に努力してきた。ところが、CPUの性能を上げてもコンピュータの性能が上がらなくなってきたのである。CPUは速いのであるが、メモリとの通信がボトルネックになってきたため、メモリは並列出力によってバンド幅を広げるように変わってきた。このための技術が、TSVを使ったHBM(High Bandwidth Memory)やHMC(Hybrid Memory Cube)などの3次元実装のメモリである(参考資料12)。

コンピュータは、プロセッサとメモリとの間で命令とデータのやり取りを絶えず行っている。しかも64ビットを基本単位として読み書きしているため、メモリのバンド幅は最低でも64ビット必要。しかもこのバンド幅はもっと広い方が望ましい。SoCのようにシングルチップ内にCPUコアとメモリを集積していると、バンド幅はいくらでも広くできる。つまり高速にできる。だから、プロセッサ単体のチップよりもメモリを集積したSoCの方が高速演算できるという訳だ。コンピュータメーカーがCPUコアベンダーからライセンス購入して自らプロセッサSoCをデザインするのはこのためである。

データセンター市場に向けた新型プロセッサを開発、新市場を狙っているファブレス半導体の米Applied Micro社は、ARMの64ビットARMv8アーキテクチャを使ったハイエンドプロセッサを開発している。サーバ市場は、北米40%、中国25%、西欧15%となっており、伸びている地域は中国だという。しかも中国企業はARMプロセッサコアのアーリーアダプタ(早期採用企業)と見ている。データセンター用にこれまでX-Geneプロセッサ(SoC)を出荷してきた。

2014年に量産し始めたX-Gene 1プロセッサは、カスタムのARMv8 64ビット8CPUコアに4チャンネルのDDR3コントローラ、10Gb/1GbのEthernet、PCIe Gen3、SATAなどのインタフェースコントローラなどを集積している。TDP(Thermal Design Power)で45W、周波数は最大2.4GHzである。これは40nmプロセスで製造したものだが、現在サンプルを出荷しているX-Gene 2プロセッサ(図2)は28nmプロセスで製造し、周波数は2.8GHzと性能を上げながら、TDPは35Wと削減している。現在開発中のSoCは、24プロセッサコアのX-Gene 3であり、16nm FinFETプロセスを採用する。


図2 X-Geneプロセッサ 出典:Applied Micro

図2 X-Geneプロセッサ 出典:Applied Micro


国内でも2010年設立のPEZY Computing社は、Imagination Technologiesの64ビットMIPSプロセッサコアを用いたプロセッサで、HPC(High Performance Computing:いわゆるスーパーコンピュータなどの超高速計算機)分野を強化する。これまでARMコアをベースにしてコンピュータチップを作ってきたPEZY(Peta/Exa/Zetta/Yotta)社は、1ワット当たりの性能が優れていることを特長としている。エネルギー効率を重視したスパコンの世界ランキング「Green 500」で(参考資料3)、1位の「菖蒲」から2位「青睡蓮」、3位「睡蓮」までのスパコンのCPUがPEZYの製品だ。

これまでのPEZY-SCの次の世代のプロセッサコアとして、PEZYはARMではなくMIPSコアを選んだ(表1)。MIPSを買収したImaginationのCEOであるHossein Yassaie氏は、PEZY社長の齊藤元章氏と数ヵ月前にディスカッションした時に、Imaginationは今や従業員2700名の会社に成長してもなお、挑戦者として未来に挑戦し続けるDNAを持っているという点で、共通認識を持っている、と感じたという。「しかも、両社共、Disruptive technology(画期的な技術)を持っているという点でも同じDNAだ」とYassaie氏は述べている。齊藤氏も「Imaginationはフレキシブルで拡張性のある技術を持っている上に、フレキシブルな提案をしていただいた」としてImaginationを選んだ。これまでにも、MIPS部門のトップエンジニアにも協力してもらったことも提携する理由になった。これによって「短い期間で性能を上げられそうだ」と齊藤氏は感じた。


表1 MIPSコアで次世代スパコンを開発 出典:PEZY Computing

表1 MIPSコアで次世代スパコンを開発 出典:PEZY Computing


PEZY社は、メモリチップを積層して容量を増やす方法を採り、メモリ間の接続にはTSVを使わない。非接触で磁界結合のワイヤレス通信を使う予定にしている。このため開発を進めている慶應大学の黒田忠広教授とコラボレーションしているという。

データセンター市場に新規参入組が出てくることはやはり、IoTのような新しいシステムが登場してきたことと関係するだろう。IoTはインターネットにつなぐことが目的ではない。手段である。重要なのはデータであり、それを解析し、顧客にフィードバックすることで顧客の気づかなかった改良点を見出し、業務効率を上げることである。そのために2010年に起業したAyla Networksは、IoTメーカーに対して自社のPaaS(Platform as a Service)クラウド上で自社のアプリケーションソフトウエアAyla Insightsを使い、IoTデータの解析サービスを提供する(図3)。


図3 自社のクラウドを使い見える化ソフトで顧客に改善点を知らせる 出典:Ayla Networks

図3 自社のクラウドを使い見える化ソフトで顧客に改善点を知らせる 出典:Ayla Networks


同社は具体的な事例について話さないが、IoTからのデータをアクション可能なBI(ビジネスインテリジェンス)に変換することが仕事だとしている。IoTセンサ端末からの温度や電力などのデータを見える形に変換・表示し、次に取るべきアクションを提示するという。


参考資料
1. AMD、3D-ICメモリをインタポーザに搭載した2.5Dモジュールを開発 (2015/06/26)
2. SPIフォーラム「3次元実装への道」が示した3D-ICの現実解 (2015/04/08)
3. 省エネスパコンの競争が始まっている (2015/11/10)

(2015/11/26)

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