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省エネスパコンの競争が始まっている

理化学研究所らが開発した液浸冷却スーパーコンピュータは、7.03ギガフロップス/ワット(GFlops/W)を達成して省エネスパコンの世界一になったと夕刊の読売新聞がこの10月22日に報じた(参考資料1)。スパコンの世界ランキングは複数あるが、今回は、消費電力性能部門のGreen500での成果だ。世界一になった我が理研スパコンの愛称は「菖蒲 Shoubu」と称する。

上記の7.03 GFlops/Wは、このスパコンの性能を表し、簡単に言えば、「時間1秒そして電力1ワットの消費電力換算で何回演算をする事が出来るかの性能」を示している(参考資料2)。消費電力性能部門のGreen500のランキングでは、スパコンの演算スピードに加えてその上に消費電力の低さを競わせている。だからスピードが速くてもエネルギー効率が悪いスパコンはこのランキングでは評価しない。日本勢は菖蒲に加えて、高エネルギー加速器研究機構の「青睡蓮 Suiren Blue」が6.84 GFlops/Wそして、「睡蓮 Suiren」が6.22 GFlops/Wを達成して各々2位と3位になった。我が日本の技術は省エネを踏まえたエネルギー効率の面で優れている。この成果は大きくオリンピックに模して述べると、金、銀、銅メダルを独占したと言える。Green500ではドイツ重イオン研究所のスパコンが5.27 GFlops/Wで4位に、そして東工大のTSUBAME-KFCが4.26 GFlops/Wを達成し5位を獲得した。

一方、米国は消費電力がいかに高くてもそのことを無視し、ともかく速いスパコンを求めていくポリシーのようだ。今年7月29日に米大統領オバマ氏は「現在のスパコンの100倍の処理能力持つエクサフロップス級のスパコンを開発せよ」と言う趣旨の大統領令を発表している。最近よく登場するエクサは、10の18乗と言う大きな数だ。この大統領令に呼応して米国は、National Strategic Computing Initiative(NSCI:国家戦略コンピューティング・イニシアチブ)を発足させる。エクサフロップス級スパコンの応用例で挙げられているのは、銀河系研究、異常気象環境研究、新技術システム研究、電力用高圧ケーブル系統の研究、航空機飛翔問題研究、医療難病研究への応用などである。米国はこれ等の問題を解くための事業投資を戦略的に行なうようだ。ただ、漫然と網羅的な投資はせずに成果が出ることを強く求める。ここでの米国のリーダーシップとは、スパコンの演算速度で具体的な競争優位上の成果を求めているようだ。

海外ではスパコンをHPC(High Performance Computing)と呼称することが多く、注意が必要だ。世界HPCランキングには「TOP500」もあり、これにも注目しないと大勢を見誤る。今年の6月に出たランキングサイト「TOP500」のチャンピオンは、中国の「天河2号」だったが米国勢は中国に続く2位でクレイ社のTitanが獲得した。このランキングは消費電力が大きいスパコンでも演算速度が速ければよいとしている。大統領令は天河2号を意識したと考えられる。一方、理研の「京」は4位であった。

Green500はこのTOP500のデータを使って各HPCの演算回数値を消費電力値で割算をすることで算出されている。従ってTOP500に入らないスパコンは、Green500でも無視される。スパコンは計算速度を上げて使用すると発熱が激しくなり故障してしまう場合がある。したがって、冷却をすることは必須である。今回トップに輝いた菖蒲は、斬新かつ独自の液浸による手法を日本で開発して初めて使われた。その液浸技術は、水槽に液体を満たしその中にスパコン菖蒲を入れて冷却する。使った液体は不活性の弗素化合物で十分な安全性を吟味している。この独自技術は日本の中小企業のペジーコンピューティング(参考資料3)の発明だ。このような独自技術を開発し世界に進出し成果を挙げる力が我が国の中小に存在することは頼もしい限りである。

菖蒲の詳細は、機密のベールに包まれ、不明だが、最先端の半導体マイクロプロセッサが搭載されていると思われる。そのプロセッサを動かすのはソフトウエアだ。半導体とソフトウエアが動かす強力なテクノロジーは、我が国の科学技術開発の重要な武器になっている。

参考資料

1. 読売新聞夕刊「国産スパコン省エネ世界一」 (2015/10/22)
2. フロップスは、floating points operations per second の略
3. ペジーコンピューティング

エイデム 代表取締役 大和田敦之

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