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「クルマのドアミラーはもう要らない」

クルマのドアミラーは車体から飛び出しており、狭い駐車場ではぶつかることがある。しかし、安全確認には不可欠。ここに、CMOSイメージセンサと液晶ディスプレイ、画像処理プロセッサによる「電子ミラー」を使えば、それは要らなくなる可能性が出てきた。

図1 日産自動車が「人とクルマのテクノロジー展2014」で展示した液晶バックミラー

図1 日産自動車が「人とクルマのテクノロジー展2014」で展示した液晶バックミラー


「人とクルマのテクノロジー展2014」では、日産自動車がドアミラーではないが、車内のバックミラーを液晶に替えたクルマを展示した(図1)。クルマのリアガラスの内側にカメラを設置しているため、外部ガラス面をワイパーで拭くことができる。明言は避けたものの、電子ミラーの開発は進めているらしい。先週の富士通フォーラムでは、ダッシュボードをタブレット端末に用い、その両側にドアミラーに相当する液晶ディスプレイを置くというコンセプトカーのモックアップを展示した(図2)。富士通はドアミラーを完全に外し、ドライバーは液晶画面を見て後方の様子をチェックする。ドアミラー用のカメラを取り付ける自由度が増す。


図2 富士通が提案したコンセプトカーのドライバー席

図2 富士通が提案したコンセプトカーのドライバー席


図2では、ドライバーの正面に、ダッシュボードの役割を果たす液晶画面のタブレットを置き、その両側に左右それぞれのドアミラーに相当する専用液晶ディスプレイを置いている。タブレットは本人確認のためのキーの役割も果たすとしている。ドライバーの右下にある三つの液晶ディスプレイは、ガソリンや電池の残量や、カーナビの地図などを示す。椅子の背もたれには車載サーバーと呼ぶコンピュータを搭載、これらのデジタル処理を行う。

クルマの後方を映すカメラとはいえ、バックモニター機能だけではなくもっと広角になるように魚眼レンズを用いて死角を除去しなければならない。ところが魚眼レンズで見る画像は歪んでいる。このため、歪みを補正する必要がある。先月、米国Globalpress Connection主催のEuroAsia 2014において、ベンチャー企業のGEO Semiconductor社が魚眼レンズ、それも360度に近いレンズで撮った画像を直交座標に変換する半導体チップを発表した。


図3 GEO Semiconductorが開発した歪み補正エンジン 出典:GEO Semiconductor

図3 GEO Semiconductorが開発した歪み補正エンジン 出典:GEO Semiconductor


図3は、あらゆる映像を変換できるように、画素単位で変換処理を行う。歪んだ画素格子を変換するのに、1兆個単位の格子パターンから一つを見つけるという。そのためのエンジンを開発した。これがeWARPエンジンと呼ばれる回路だ。それも1フレーム内で変換するため、静止画だけではなく動画にも対応できる。処理時間のレイテンシはわずか3msと速い。

この処理では、まずデジタル的に位置を校正しておく。基準となる物体に位置を合わせるアラインメント作業を行う。ここでは、基準物体の位置に合せて、回転とシフト動作によって、他の物体の向きも整える。そして、ePTZ(Electronic Pan/Tilt/Zoom:電子的なパン・ティルト・ズーム)作業を行う。歪んだ画像を使って時間的に上下方向に動かしたり、左右方向に動かしたりする。加えてズームインとズームアウトもできる。具体的なアルゴリズムは明らかにしていないが、ある数式にしたがって各画素を変えていくスケーリングエンジンがカギを握るという。特許申請中だ。1枚の魚眼レンズ写真から動画のようにePTZ処理を行う映像をデモした。

「人とクルマ」では、萩原電機が自社開発した電子ミラーを展示した(図4)。ここでは、GEO社と同様、魚眼レンズによる歪んだ映像を直交座標に変換するためのアルゴリズムを自社開発し、それをFPGAにプログラムしておき、ハードウエアで実行する。


図4 萩原電機が展示した電子ミラー 歪んだ画像/映像を補正する

図4 萩原電機が展示した電子ミラー 歪んだ画像/映像を補正する


Texas Instrumentsは電子ミラーのコンセプトを展示してはいなかったが、クルマ用途を目的とした画像処理エンジン(TDA2xビジョンプロセッサ)を示している。ここでは、サラウンドビューモニターへの応用をデモしていたが、1チップでフロントカメラからの映像も処理できるという。Cortex-A15デュアルコアとCortex-M4デュアルコア、DSPを集積、演算と制御を独立してできるようになっている。DLPを用いたヘッドマウントディスプレイもデモした。

欧州では電子ミラーに対する法整備をはじめとする議論がすでに始まっているようだ。米国では、電気自動車を販売しているTesla Motorsがドアミラーレスのコンセプトカーを提案し、実現に向けて進めている(参考資料1)。日本も動きを加速する必要があるかもしれない。


参考資料
1. Elon Musk reintventing the car: now pushing for mirrorless Tesla (2013/08/26)

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