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MIPSが64ビットのマルチスレッドIPコアを発表、2011年後半にICが登場

「32ビットの壁」がいよいよ、邪魔になってきた。32ビットのメモリーアドレス空間は4GB(2の32乗)が上限となっているが、32ビットシステムを使う限りこの壁を突破できない。英ARMのCortex-A15はメモリーアドレス空間のみ40ビット(1TB分)を確保しているが、米MIPSは上限をほぼ撤廃できる64ビットのプロセッサIPコア「Prodigy」を発表した。64ビットのIPコア時代の幕開けである。

MIPSテクノロジーズのIPコアは実は最近、じわじわと浸透し始めている。同社製品マーケティング担当のバイスプレジデントであるArt Swift氏によると、中国のスマートフォンや、ルーター、デジタルテレビのセットトップボックスやブルーレイプレイヤーなどに使われているという。2010年にはこのコアを使ったICが250万個出荷された。2010年におけるライセンシングによる営業利益率(売上に対する営業利益の割合)は32%に達し、R&Dにさらに利益を回せるため、ガンガン投資していくと攻めの姿勢を見せている。

今回の64ビットのマルチスレッドのシングルコアIPをMIPSはコンピュータ用途ではなく組み込み用に使うとしており、「(物理的なメモリーそのものをアクセスする)物理メモリーと仮想メモリーとの二つをカバーしているため、ソフトウエア開発は極めて楽になる」と同社製品マーケティングとアプリケーション担当のGideon Intraterバイスプレジデントはセミコンポータルの質問に対して述べている。マルチスレッディングの並列動作を行うため、メモリーアドレッシングに関しては32ビット用の従来コアとの互換性も保たれているとしている。


図1 マルチスレッドは1個のALUで並列化できる 出典:MIPS Technologies

図1 マルチスレッドは1個のALUで並列化できる 出典:MIPS Technologies


この新しいプロセッサコアはシングルプロセッサでも命令を並列に実行できるマルチスレッド技術SMT(simultaneous multi-threading:並列処理するためのコーディング)を使っているため、1個のプロセッサコアの中で最も大きな面積を占めるALU(算術演算ユニット)は1個で済む。従来のマルチコアで並列処理するとALUの数もその分必要となるため、チップやIPコアの面積はその分大きくなっていた。もちろん、今回のコアでもさらに並列度を上げて高性能を狙う場合にはマルチコアにすることも可能である。

MIPSのSMT技術は、消費電力を減らすことに力点が置かれており、消費電力を食いやすいOut-of-order命令や分岐予測・プリフェッチなどの予測命令に使われるとIntrater氏は言う。

MIPSはこれまでも32ビット系でマルチスレッディングできるシングルコアMIPS32K 1004コアを持っていたが、今回のコアは64ビット版となる。MIPS32K 1004と同様、1コア当たりのスレッド数は9個になるとIntrater氏は答えた。組み込み用にマルチスレッディングを支えるのがTC(thread context)であり、一つのVPE(仮想プロセスユニット)の中で、ハードウエアスレッドの数を増やすのだと同氏は述べている。


図2 ドライバ支援システム 出典:MIPS Technologies

図2 ドライバ支援システム 出典:MIPS Technologies


64ビットにしたメリットは他にもある。Intrater氏は64ビットにするとストレージシステムへのアクセスも早くできるとしている。64ビットの組み込みシステムではハイエンドのRAIDや通信インフラだけではなく、自動車のドライバ支援システム用や、タブレットなどのアンドロイドベースの携帯機器などにも広がっていくと見ている。

MIPSはこれまでも32KコアをRAID用にPMC-Sierra社やADSLのVoIP用に台湾のRalink社、自動車のドライバ支援システム用のイスラエルにMobileye社などにライセンスした実績がある。

(2011/03/30)

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