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英国特集2011・各国LTEに向けRFからベースバンドまでソフトウエア無線活発1

Mobile World Congress 2011では、始まったLTE時代をにらみ、世界各地で異なる周波数帯やデータ変調方式、全二重化方式など、プログラムによって即座に対応できるソフトウエア無線が本格化してきた。機能を固定しては市場を縮めてしまうため、LTEの専用ASICは大きな市場に照準を合わせるしかないが、プログラマブルICだと各国に対応できる。

LTEには規格がたくさんある。運用すべき周波数帯域幅は、1.4MHzから3MHz、5MHz、10MHz、15MHz、20MHzに渡り6つ以上あり、全二重化モードはFDD(frequency division duplex)方式とTDD(time division duplex)方式がある。周波数帯も700MHz帯から2600MHz帯まで主に8周波数帯があると言われている。データ変調方式は、QPSK、16QAM、64QAMから選択する。

こういった市場ではプログラマビリティが不可欠になる。この特集では、プログラマブルなRF回路のLime Electronics社、ベースバンド回路のソフトウエア無線を推進するCognovo社とpicoChip社、Icera社、ワイヤレスインフラ用チップのソフトウエア無線を推進するPMC-Sierra社、フェムトセルを設計するUbiquisys社、などを紹介する。ベースバンドICメーカー、IPベンダーから紹介する。

フェムトセルやピコセルをはじめとする小型ベースステーションは、NTTドコモなどの通信キャリヤ業者にとっては、増え続ける通信トラフィックを解消するための手段の一つとなりうるが、欧州ではそれ以上の意味がある。例えばドイツでは電柱を立てることは許されないため、光ファイバやADSL用の銅線を敷設するにはコストが極めて高くなる。電線は全て地中に埋められているからだ。このためブロードバンド化が遅れていると言われている。しかし、フェムトセルやピコセルは家庭やオフィスのゲートウエイとして使えば簡単にブロードバンドが手に入るため、モバイルブロードバンドとしての小型ベースステーションに期待が高まっている。

プログラマブルRF回路を開発したLime
2007年創立の英ライムエレクトロニクス(Lime Electronics)社は、400MHzから4GHzまでの広帯域RFトランシーバ回路を開発、各地ごとにフィルタやPLLの設定を変えるだけで世界各地のRF回路を設計できるようになる。このチップは一つの共通のチップでRFの変調周波数幅を16帯の周波数に渡ってプログラムできるうえに、TDDとFDDの全二重化をサポートする。この結果、世界各地のGSM、3GPP(WCDMA/HSPAとLTE)、3GPP2(CDMA2000)、WiMAXに対応できる。

このチップは3GからLTEにかけて規格が世界各地で違っても1つのチップだけで対応できるため、チップユーザーにとっては世界各国の小さなベースステーション向けの共通チップとして購入すればコストダウンを図ることができる。「当社のフレキシブルトランシーバ(送受信機)ICは基地局に向けており、それもフェムトセルから、ピコセル、そしてマイクロセルと小さな単位からやや大きな単位までをカバーし、さらに中継器への応用も狙っている」と同社CEOのEbrahim Bushehri氏(図1)は言う。


図1 Lime ElectronicsのCEO、Ebrahim Bushehri氏(左)、マーケティングディレクタのDale Wilson氏(右)

図1 Lime ElectronicsのCEO、Ebrahim Bushehri氏(左)、マーケティングディレクタのDale Wilson氏(右)


この回路は、デジタル制御インターフェースであるSPIを通して、可変ゲインアンプ(VGA)やフィルタ受信側のLNA(低雑音アンプ)、などを調整する。送信側はパワーアンプをドライブするアンプまでを含む。調整には、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)と評価ボード(図2)を使って、目的とするRF回路に合うように行う。


図2 プログラム、設計する評価ボード

図2 プログラム、設計する評価ボード


チップの設計・製造には0.18μmのバイCMOSプロセスと業界標準のSiGeプロセスを使っている。SiGeヘテロバイポーラを製造するファウンドリにはタワージャズセミコンダクター(Tower Jazz Semiconductor)やTSMCなどがいるため、SiGeプロセスはもはや標準プロセスだという。CMOSはバルク利用だが、Bushehri氏は「バルクCMOSかSOIという議論はなかなか面白いが、結局は生産量の問題だと思う」と述べ、プロセス的にはこなれた技術を使っていく。

2010年秋に生産を開始したLMS6002Nは、9mm角のQFNパッケージで、ヒートシンクが付いている。

IPを供与した半導体メーカーが4Gのシリコンを製造中
LTE(Long Term Evolution)サービスを行う基地局装置や半導体が登場する中で、早くもその次のLTE-Advanced(4G)向けの半導体チップが今年後半に登場しそうな勢いだ。2010年からLTEのサービスが始まったばかりなのにもかかわらず、である。LTE-Advanced向けの半導体メーカーにカギとなるモデム技術のIP(intellectual property)を提供しているのが英国のIPコアベンダーのコグノボ(Cognovo)社だ。

コグノボ社はベースバンドプロセッサ回路を提供するIPベンダーである(参考資料1)。半導体チップそのものは設計も製造もしない。ベースバンド専用プロセッサを開発し、半導体メーカーにライセンスを供与する。汎用プロセッサのIPベンダーであるアーム(ARM)社と同じビジネスモデルの企業である。

コグノボ社のベースバンド専用プロセッサコアはソフトウエア無線を利用する。LTEやLTE-Advancedのようにデータレートが高速であれば、モデムプロセッサも高速に対応しなければならない。このため並列処理演算を行い、モデム処理をリアルタイムで行えるように高速化する。コグノボはこのVSP(ベクトルシグナルプロセッサ)と呼ぶプロセッサで並列演算する。LTE-Advancedのチップでは4個ないし6個のVSPを利用する。VSPはアルゴリズム処理計算を受け持ち、レイヤー1の物理層にある、デコーディングや復調、受送信などモデム動作に必要な物理的な動作をサブフレームに分け、それぞれを処理していく。

VSP1個で1サイクル当たり16MAC(積和演算)の能力を持つ。これを4コアで並列演算すると64MAC/サイクルになる。LTEの能力としてはこの程度らしいが、現在パートナーのある半導体メーカーが開発中のLTE-Advanced向けのチップでは6コアを使っていると同社の創立者兼バイスプレジデントのCharles Sturman氏(図3)は言う。


図3 Cognovo社創立者のCharles Sturman氏

図3 Cognovo社創立者のCharles Sturman氏


「LTE-Advancedでは、4コアないし6コアを用意する。8コアや16コアはフェムトセルやピコセルといった小型基地局に向く。すなわちコグノボ社のVSPプロセッサは、コアの数をスケーラブルに換えられるため、携帯電話機から小型基地局に至る広い市場をカバーできる」とSturman氏は述べる。

こういった並列演算に欠かせないのが、このモデムプロセッサに内蔵されたタイミングコントローラとシーケンサである。このうちのシーケンサが並列演算のスケジューリングを行う。システムソフトウエアをサブフレームに分け、各サブフレームを正確なタイミングでスケジューリングを行う。ARMプロセッサはレイヤー1の論理プロトコルをタイミング制御する。

ソフトウエアモデムを開発する場合にはこれまでとは違う、全く新しいコード開発の制御、最適化、検証などが必要になってくるため、コグノボ社は独自に開発環境システムを作成した。デザインツールや、コンパイラ、デバッガ、コードオプティマイザなどを統合している。

「顧客の名前は言えないが、複数の半導体メーカーにこのIPをライセンス供与し、6コアのVSPを使ったLTE-Advancedチップを開発中である。今年の後半にはシリコンが出てくるはずだ」とSturman氏は言う。

専用チップとソフトウエア無線を使い分け
英ピコチップ(picoChip)社は、フェムトセルやピコセルのベースステーションに使われる半導体メーカーとして地位を確立してきたようだ。同社マーケティング担当バイスプレジデントのRupert Baines氏は、「フェムトセルに使われるベースバンドチップの80%が当社製だ」と誇らしげに語る。

図4 picoChip社のVP、Rupert Baines氏

図4 picoChip社のVP、Rupert Baines氏


フェムトセルやピコセルは今後もさらに伸びそうだ。Baines氏によると、ピコセルの新しい応用が出てきているという。これは、「かつての企業内における構内交換機であったPBXの携帯電話版のようなもの」(同氏)。特にNECやGEのような多国籍企業では東京にも英国にもオフィスがあることが多いが、企業内で携帯電話をかけるとVPNを通して英国にいる同僚の携帯電話にもそのままローミングサービスを経ずに企業内ネットワーク経由で話ができる。こういったサービスを提供しているのが、米スパイダークラウド(SpiderCloud Wireless)社だ。スパイダークラウド社はE-RAN(Radio Access Network)と呼ぶ、無線のノード装置(LAN用スイッチのような大きさ)を設計している。

3年前にピコチップ社を紹介した時(参考資料2)、マルチコアというより超並列DSPコアを利用するプログラマブルなプロセッサであったが、今回示したHSPAベースバンドチップ新製品PC3008はマルチコアアーキテクチャ(picoArrayアーキテクチャ)ではなく、ARM11と複数のDSPコア、ハードウエア回路を集積した専用SoCである。Baines氏によると、第3世代のHSPAチップだから規格は固定化しているため、小さく・安くを念頭に40nmプロセスで設計し、TSMCが製造したものだという。第1世代のHSPAはフレキシブルでスケーラブルなアーキテクチャで作っており、コストは200ドルくらいしたが、今回のチップだと15ドルくらいに安くできるようになったとしている。

一方、LTEのベースバンドチップPC500も展示していたが、これは819個のDSPコアからなるマルチコアプロセッサのアーキテクチャを使っている。これはLTEの規格が世界各地で流動的であり、規格変更の余地があるから専用チップにはできないからだ。「来年LTEの規格が明確に固まると、おそらくSoCになると思う」とBaines氏は言う。ところが来年4G相当のLTE-Advancedのベースバンドが出てくる頃にはまたpicoArrayアーキテクチャになるだろうとしている。次々と新技術が登場してくるのに対応できる。

チップ面積を増やさずLTE+HSPA
アイセラ(Icera)社もソフトウエア無線チップのICE806xを開発しているが、そのチップは、データレートが7.2MbpsのHSPAからHSPA+の28Mbps、42Mbps、50Mbpsをカバーしながらチップ面積が小さいという特長を持つ。性能が高いため基地局が少なくて済み、通信オペレータ業者の投資コストが小さくて済むというメリットもあるという。

同社はLTEチップもエンジニアリングサンプルを出荷中で、そのチップはHSPAとのバックワード互換性を保ちながらチップ面積は増やさないことが特長だという。LTEとHSPA、3G(WCDMA)の機能を載せてもチップサイズはほとんど変わらない。

参考資料
1. 並列プロセッサIPのソフトウエアモデムでLTE、WiMAX、LTE-Advancedに対応 (2010/07/02)
2. 特集:英国株式会社(4)マルチコアDSPで無線インフラ市場へ (2008/03/21)

(2011/03/25)

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