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周波数、時間をダイナミックに補正して豊かな音響を作り出す英ベンチャー

半導体チップや電子機器の価値を決める要素が次第にハードウエアからソフトウエアへ確実にシフトしている。音響処理の仕方をこれまでの方式と変えるだけで、豊かな音響を提供できる。立体的なサラウンドではない。英国のベンチャー、ソンティア・ロジック社が周波数特性だけではなく時間特性も考慮した新しい音響アルゴリズムを開発した。

ソンティア社のCEO、クリス・バーノン氏。元ミュージシャンだ

図1 ソンティア社のCEO、クリス・バーノン氏。元ミュージシャンだ


2004年に設立されたソンティア社は、サウンドバーと呼ばれる細長いスピーカーシステムを使いデモしたが、このオーディオ処理を施した場合(オン)と施さない場合(オフ)との違いを聞き比べれば、一般の消費者にもその音の違いがはっきりとわかる。オンすると極めて豊かな音響に変わる。音を聞く耳を伝わる音の速度まで考慮しているため、デモしたステレオ音楽をICレコーダーなどのマイクで拾ってウェッブ上で流しても、残念ながらその効果は実感できない。その場でいなければ体験できないような豊かな音である。

このアルゴリズムを使ったオーディオ製品はハイファイステレオ装置だけではなく、MP3プレーヤーやテレビ、パソコン、iPodのドッキングシステムにも応用できる。もちろん、ホームシアターシステムで用いると迫力のある音を楽しめる。オーディオ装置のアンプやスピーカーを特殊なものに変えることなく、従来の装置にこのアルゴリズムを組み込むことで豊かな音響を楽しめる。スピーカーシステムがツィータやウーファに分かれている場合には、それぞれにこのソフトウエアを入れ、カスタマイズすることで、オーディオシステムごとに最適な音を作り出すことができる。

ソンティア社の創立者でありCEOでもあるクリス・バーノン(Chris Vernon)氏が、人体の内蔵組織を伝わる音速、骨を伝わる音速などスピーカーから聞こえてくる音を解析し、より自然に聞こえてくるような音響(オーディオ)を生み出すアルゴリズムを開発した。具体的には、音の周波数特性を一定にして低音から高音まで均一に再生できるようにしているが、実は従来のイコライズとは違う。従来ならアンプの振幅に対する周波数特性と逆の特性をかけて補正し平坦な特性を得ていた。しかし、このイコライズした特性がスピーカーから音として出て、人間に耳にその平坦な特性として伝わるだろうか。バーノン氏はここに注目した。


低音から高音まで周波数特性も位相特性も均一にした

図2 低音から高音まで周波数特性も位相特性も均一にした


スピーカーの違いによって遅延が発生したり、高音と低音の位相がずれたりすると、時間的なズレが生じるため高音と低音で均一な特性としては聞こえない。スピーカーが周波数ごとに歪みを出すためだと言う。そこで、各サンプリングする周波数ごとにダイナミックに位相を合わせ同期をとることで、スピーカーを通して伝わる音が低音から高音まで均一なピークが得られるようになるとしている。周波数ごとにきれいなデルタ関数のパルスが得られるようにFIR(有限インパルス応答)フィルタをかけている訳だが、周波数ごとにダイナミックに補正するところが従来とは違う。人体の耳に聞こえる特性まで考慮しているという意味で、バーノン氏はオーガニック・コンボルーションフィルタ(有機的な畳込みフィルタ)と呼んでいる。入力信号ごとにフィルタが応答し、処理するとしている。スピーカーから出た信号と拾ってフィードバックをかける方式とは全く違う。

このソフトウエアアルゴリズムは、アンプとスピーカーを含めたオーディアシステムごとにカスタマイズしなければならない。システム構成にもよるが、ソフトウエアサイズは数十KBから数百KB程度でそれほど大きくはない。

ビジネスモデルはIPベンダー
ソンティア社はIPベンダーであるが、顧客は半導体メーカーだけとは限らない。オーディオシステムの設計メーカーも顧客になる。ソンティアがIPをライセンスする先が、オーディオ設計者にせよ、ソフトウエアを半導体チップに焼き込む半導体メーカーにせよ、エコシステムとして共同開発することが前提になっている。ソンティアのビジネスモデルはライセンス収入と量産した時のロイヤルティ収入の2本立てとなる。

ソンティアの株主にはIPベンダーのトップメーカーであるアーム社を創設したロビン・サクスビー卿、英国の大手ベンチャーキャピタルであるアマデウス・キャピタルパートナーズの創立者ハーマン・ハウザー博士をはじめ、Bluetoothの大手CSR社(関連資料1)マルチスレッドプロセッサのXMOS社(関連資料2)電子ブックのプラスチックロジック社(関連資料3)など英国のそうそうたるメンバーが連ねている。ちなみに、開発したリファレンスデザインキットにはXMOS社のストリーミング用途向けのマルチスレッドプロセサを搭載している。

開発者のバーノン氏は元ミュージシャンで、音楽への造詣が深く、音作りを極めているうちにこのアルゴリズムを考案した。映像はこの20年で大きく進化したが、オーディオは20年間遅れたままだったと言う。

関連資料
1) 英国特集2010●有機トランジスタを利用した電子ブック、Plastic Logicが発売 (2010/05/10)
2) 特集●英国株式会社(2)民生AV向けマルチスレッドの並列プロセッサ (2008/03/18)
3) 高機能化を邁進するCSR社のBluetoothチップ製品戦略 (2008/03/06)

(2010/10/14)
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