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高機能化を邁進するCSR社のBluetoothチップ製品戦略

英CSR社(旧Cambridge Silicon Radio社)は、Bluetoothチップにさまざまな機能を集積するビジネスを強く推進している。今回、チップと回路ボード、受動部品まで含めたBOM価格がわずか5ドルという低価格のBluetoothソリューションBlueVox2と、BluetoothにDSPを内蔵し機能を強化しBOM価格6ドルというソリューションBlueVoxDSPを開発した。

低価格のBlueVox2には、最新のBluetooth規格であるBluetooth v2.1+EDRに、エコーキャンセラ・ノイズキャンセラ、ビット落ちのない明瞭な音声のコーデック、2機種の携帯電話に接続する機能などを集積している。Bluetooth v2.1+EDRはデータレート2〜3MbpsというこれまでのBluetoothの中では高速の仕様である。


BlueVox2


Bluetoothは設定がやっかいだという声はある。これまでのデバイスでは携帯電話などの電源をオンして、Bluetooth通信機能を持っているデバイスをまずサーチして、見つけたらPINコードを入力するなど、手間がかかっており敬遠する向きもあった。これを今回、Bluetoothスタックを調整して、接続の意思を確認した上でボタン1個で接続が可能なようにPINコードを内部処理し簡略化した。

エコーキャンセラとノイズキャンセラは、自社開発の16ビットRISCプロセッサXAP2++を利用する。プロセッサIPベンダーへのライセンス、ロイヤルティ料が発生せず安く済んだという。また、音声コーデックには従来のCVSDではなく、ADPCM方式を使った。CVSDと同じサンプリングレートでバンド幅のより広い音質を提供できるとしている。

2機種の携帯電話に対応できるという機能は、携帯電話を私用と公用の2種類もつビジネスパーソンが増えてきたことに対応した。耳にかけるヘッドセットをしたままで、どちらの電話がかかってきてもヘッドセットを受けられるという機能である。

やや高機能なBlueVoxDSPは、CVC(クリヤーボイズキャプチャ)のノイズおよびエコーキャンセリングのアルゴリズムをDSPで実行する。またステレオコーデック機能もDSPに持たせた。このDSPコアは24ビットのオーディオ専用で、今回追加したデュアルマイクのノイズキャンセルも実行する。これはノイズを拾うマイクと音声を伝えるマイクに分け、キャンセル能力を増強したもの。


BlueVoxDSP


いずれのチップも8MビットのROMを内蔵し、このROMにBluetoothのプロトコルスタックやファームウエア、上位のアプリケーションなどを記録しておく。いずれのチップもBluetoothの特長である低消費電力化はさらに進めている。BlueVox2は、EV3 eSCOモード(1Mbps)で動作させている場合、3.7Vの動作電圧で9.5mAの消費電流しかない。2Mbpsの2EV3 eSCOモードでは同じ電圧で7.5mAとさらに消費電流は下がる。これは、高速にデータを送る分、休止している状態、すなわちデューティレシオが低くなるため、平均的な電流が下がるというわけだ。

また、デジタル音声のビット落ちなど音質劣化に対しては、eSCO(enhanced synchronous connection oriented)チャンネルという方式を採用、音声のビット落ちなどの誤り訂正を行い、誤りが発見されれば再送信する。データレートをeSCOで調整できるため接続のQoSは改善されることになる。

いずれのチップも受信感度、送信出力はそれぞれ-90dBm、+8dBmである。いずれのチップもパワーマネジメント回路を搭載しており、1個の電池ですべての電源電圧を供給する。すでに100機種以上の携帯電話でヘッドセットの相互接続性を確認、検証している。

CSR社はこれまでファブレスでやってきてチップ製造は台湾のTSMC、組み立ては台湾ASEに委託しているが、このビジネスモデルは変えないという。BluetoothのRFとベースバンド機能をIP化してライセンスするというビジネスモデルも考えられるが、Bluetoothの進化は激しいためIPをライセンスしてその相手がBluetoothを搭載したSoCを出荷するころにはBluetooth機能は使われなくなるためだと、シーエスアールのジャパンセールスディレクターである深田学氏は言う。規格の進化が激しいチップはソフトウエアで対処するという手はあるが、ハードウエアで実現する方が安くて小さなチップを設計できるため、同社はIPベンダーではなくファブレスにこだわる。だからこそ、Bluetooth通信機能を核として、付随する機能を取り込み高集積化し、新しい応用へと展開を図っているのである。

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