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英国特集2010・有機トランジスタを利用した電子ブック、Plastic Logicが発売

有機トランジスタを利用した電子ブックQUEが間もなく、発売される。英国のプラスチックロジック(Plastic Logic)社が新しい薄型電子ブックQUEの生産を準備している。今回のプラスチックエレクトロニクスの取材の旅で最初の有機トランジスタを利用した実用デバイスである。

Plastic Logicが発売する電子ブックQUE

Plastic Logicが発売する電子ブックQUE


Plastic Logic社はケンブリッジ大学構内にあるキャベンディッシュ研究所から、2000年にスピンオフして生まれた。有機ELで実績のあったCDT(Cambridge Device Technology)社は住友化学に買収されたが、元はこのケンブリッジにあった。ケンブリッジは有機デバイスのふるさとともいえる。

Plastic Logicは2006年には試作ラインをケンブリッジに設立、100万トランジスタ以上を集積したディスプレイを試作した。2007年にはドイツのドレスデンにディスプレイ工場を設立した。この年にソニーが有機ELテレビを商品化した。08年末にはドレスデン工場は稼働を始め、09年から量産に向けプロセスチューニングを始めた。08年には米国でも活動を始めている。

そこで何を作るか。Plastic Logicの製品でユニークな特長を追求するための最良の方法を探した。同社が電子ブック端末を作ることを決めたのは2007年だった。市場予測として、2009年に300万台、2010年680万台という数字があっただけではない。同社の特長はディスプレイを製造するのに、原材料から始めるとしてわずか2日で完成することだ、と同社技術担当バイスプレジデントのMartin Jackson氏は誇らしげに言う。プラスチックをベースにするため量産向きのロール・ツー・ロール方式を使えるからだ。


Plastic Logic社 技術担当VPのMartin Jackson氏

Plastic Logic社 技術担当VPのMartin Jackson氏


さらにこのディスプレイデバイスにプラスチックトランジスタを用いたのは、他の応用よりも簡単だからだと同氏は語る。プラスチックトランジスタの応用として、ディスプレイに加え、RFIDやセンサー、太陽電池などもあるが、ディスプレイは同じタイプのトランジスタを多数並べるだけで済む。応用によってはいろいろな特性のトランジスタが求められ、今の有機トランジスタ技術のレベルではとても難しい。また、有機フィルム太陽電池や有機EL照明は均一にバックプレーンを作ることが難しく、もっと長期的にみる必要がある、とJackson氏はいう。しかも有機ELディスプレイでは、プラスチック基板に作り込む有機トランジスタを酸素や水分の侵入を防ぐためバリヤー層を設ける必要がある。

電子ブックQUEは、PET基板に有機トランジスタのアレイを作り込んだ回路の上に、eインクをラミネートしたものだという。作り方は、プリント回路基板のビルドアップ基板のように、1層ずつ積み重ねていく。基本的には溶液ベースの低温プロセスを使い、さまざまな印刷技術を活用する。トランジスタのソース/ドレイン領域やゲート絶縁膜などのパターニングにはリソグラフィ技術とセミアディティブ法も使う。

「プラスチックエレクトロニクスは低温プロセスを追求するから、高真空の装置は要らない上に、使用する薬品も少なくて済む。ただし、ディスプレイ商品をもっと改良するために技術開発を続け、歩留まりや生産性の向上を図りディスプレイやディスプレイモジュールを設計していきたい」とJackson氏は述べる。

2010年のCES(コンシューマエレクトロニクスショー)で、同社はQUEを展示した。薄さは1/3インチ(0.8cm)、重さ約1ポンド(450g)、大きさはA4サイズ、紙と同じように使える。しかもタッチパネルを搭載しており、電子ブック機能に特化したキンドルとは違い、文書を大量に保存できる。3G、WiFiモデルがあり、しかもコンテンツパートナーと組んでおり、例えばFinancial Timesを毎日読めるようになっている。独自のユーザーインターフェースは直感的に紙とペンで絵や文字を書けるようになっている。

さらにOutlookも搭載しており、いつでもメール可能だ。ビジネスユーザーの望むドキュメント形式(PDFやOfficeなど)を読んだり注釈を付けたりすることができる。PCやMac、ブラックベリーからQUEへコンテンツを伝送することも簡単にできる。4GBモデルでは3万5000もの文書、8GBモデルでは7万文書を保存できる。ユーザーの利用シーンはドキュメントを読むビジネスユーザーを想定しており、アップルのiPadとは違いバッテリーは1週間持つとしている。これが大きな差別化要因となる。

まず米国市場をターゲットとし、AT&Tとパートナーを組み5月に発売する計画だ。米国市場で製品を浸透させ、英国ケンブリッジで基本性能の改良を図り、ドレスデンで生産性を上げる。ドレスデンに工場を設立したのは、シリコンで培った製造インフラがあるためだ。つまりマスク工場、装置メーカー、クリーンルーム、材料、薬品など、全て入手できるからだ。有機ELのバリヤーの問題は存在しており、フレキシブル材料用のバリヤー材料を用いたが、その詳細についてはまだ話せない段階だとJackson 氏は言う。

Plastic Logicは、ディスプレイ、タッチスクリーン、eインクを組み合わせて完全なテストを行い、QUEとしての組み立ては中国でODM生産する。

4色のカラーディスプレイも開発しており、ビデオへの応用の可能性を探っている。商品化はまだ先になる。

Plastic Logic社にはシリコンで培った専門家が揃っていることも強みだ。ファブレス半導体の欧州Frontier SiliconやDSL Model、Artimiなどの経験者が集まっている。加えてかつてペンベースコンピュータを開発していたエンジニアもいるとしている。

(2010/05/10)

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