半導体を含む台湾主要IT企業19社の8月の月次売上額を日本経済新聞がまとめ12日に報じた。これによると19社全体では前年同月比22.5%増の1兆4079億台湾元（約6兆2000億円）で6カ月連続増加傾向を示した。Appleが日本時間9月10日にApple Eventを開催、iPhone16やApple Watch「シリーズ10」などを発表、その需要が大きいようだ。

図1　TSMCの月次売上額の推移　出典：TSMCの発表資料を筆者がグラフ化

台湾のTSMCは、前年同月比（YoY）33%増の2508億台湾元（1台湾元=4.4円）と6カ月連続30%以上の成長を続けている。2024年2月にYoYでプラスに転じてからは力強い回復を見せている（図1）。先月に続き2ヵ月連続で2500億台湾元を突破している（参考資料1）。もちろん過去最高レベルの金額だ。TSMCをけん引するのはデータセンター向けの需要で、NvidiaのBlackwellをはじめとするGPUなどの半導体や、AppleのiPhoneの頭脳となるアプリケーションプロセッサ「A18」などのプロセスサービスによって売り上げを増やした。

iPhone 16では、これまでのA14から16までのBionicシリーズチップとは全く異なる新しい設計のアプリケーションプロセッサA18を搭載している。A18では、5月に発表した生成AI機能であるApple Intelligenceを実現するためにチップ設計を一新した。CPUは高性能タイプ2コアと低消費電力4コアの合計6コアを集積しており、iPhone 15の心臓部に使われたA16 Bionicチップと比べ、最大30%高速化し、同じ性能なら消費電力は30%少ないとしている。A18には第2世代の3nmプロセスノードを利用、ここにTSMCの製造プロセスが生きている。

A18には16コアのニューラルエンジンNPU（ニューラルプロセッサ）が集積されており、大規模言語モデルの生成AIに対応できるようにした。またメモリではバンド幅を17%高速にし、生成AIのアクセスを高速化したという。さらに5コアのGPUも集積しており、グラフィックス機能やカメラ機能を改善するだけではなく、生成AIにも利用する。

Apple Watchのシリーズ10でも新SiP（System in Package）チップを搭載、ダブルタップやSiri音声入力などの機能を実現するNPU4コアなどを集積している。Siri音声認識技術は、生成AIの基本となるトランスフォーマーを利用している。加速度センサと連動して機械学習で転倒や躓きなどの動きを検出、知らせる。またノイズを打ち消すのにもAIを使っているため、混雑した中での通話が楽になる。AIデータを利用するためのOSとしてwatchOS 11はさらに賢くなったという。翻訳も可能になった。新Apple Watchでは特に、無呼吸症候群の兆候を睡眠データから見つけ知らせてくれるという機能を設けた。医療機器でもあるApple Watchだが、無呼吸症候群に関する診断データは近々FDAの認定を受ける予定だという。

台湾企業の中で、新しいiPhone 16の需要を受けて、光学レンズを供給する大立光電（ラーガン・プレシジョン）はYoYで54.3%の大幅増収だった。しかし、データセンター需要やApple新製品需要を受けない台湾企業はさえない。後工程OSAT（Outsourced Semiconductor Assembly and Test）最大手のASEは同1.2%増にとどまり、スマホのアプリケーションプロセッサを設計しているMediaTekは同1.7%減と減収だった。

しかし、iPhone 16に搭載された生成AI機能はパソコンにも入るようになったため、パソコン大手のASUSは、同17.5%の増収となり、米PCメーカーに供給するEMS（電子機器の請負製造サービス）のCompalは、2.9%の増収にとどまった。また同じ半導体ファウンドリでもUMCは、テレビなどのディスプレイドライバをはじめ民生機器へのビジネスが多く、民生機器の需要がまだ回復していないせいか、売上額はYoY8.9%増の206億台湾元とプラス成長したものの、2022年のピーク時に達成した250億元には、まだ届いていない。このため、半導体の需要はデータセンターやAppleの一時的な需要が支えているものの、民生機器を含めた本格的な需要回復はまだ道半ばといったところのようだ。

参考資料
1. 「6月、7月の世界半導体、回復はゆっくりだがTSMCの7月は過去最高」、セミコンポータル、(2024/08/19)