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6月、7月の世界半導体、回復はゆっくりだがTSMCの7月は過去最高

米SIA(半導体工業会)が発表した、6月の半導体販売額は前年同月比で18.3%増の499.8億ドルであった(参考資料1)。台湾の半導体を含むIT企業19社の7月における売上額は同21.6%増の1兆4062台湾元(約6兆4000億円)で5カ月連続増加となった。この2つの事実から2022年後半から始まった半導体不況からの回復はゆっくりと進んでいるといえよう。それを解き明かす。

SIAの発表は、3カ月の移動平均値での6月の数字であるため、4〜6月の平均値を3カ月で割り6月の数字としたものである。SIAの数字はWSTSの統計数字をベースにしているためWSTSのホームページを見ると6月の数字はまだ発表されていないが、公表されている4月、と5月の数字から6月単月の数字を求めることができる。それによると6月単月の数字は544.1億ドルとなり改善していることがわかる。前年同月比で16%増、前同月との差は73.8億ドルとなり、それほど早い回復ではない。というのは、前回の半導体不足で販売額が増えた時の差分よりもまだ山が小さいからだ。


TSMC売上の推移($NT1million)

図1 TSMCの7月の売上額は過去最高 出典:TSMCの発表資料を筆者がグラフ化


半導体景気の先行きを見るもう一つの手段として台湾の状況を見ることができる。台湾の主な顧客は史上の大きな米国と中国だからである。SIAからの発表でも米国での伸びが最も高く、前年同月比で42.8%も伸びており、3カ月の移動平均でさえ147.7億ドルに達している。米国にはデータセンター業者が多く、彼らが半導体を大量に購入していることが窺える。

7月における台湾TSMCの売上額は同44.7%増の2569億台湾元となり、過去最高額を記録した。生成AI向けのサーバーやスマートフォン向けのアプリケーションプロセッサの販売が好調だった。一人抜け状態のようである。テレビやパソコン関連向けのICが中心のUMCの業績は全く違い、前年同月比9.6%増しか戻っておらず、209億台湾元に留まっている。これまでのピーク時には250億台湾元前後の売上額が6ヵ月続いていた。

AIサーバーを中心とするデータセンター需要は、EMS(電子機器の受託製造サービス)の業績にも表れている。サーバー生産の広達電脳は43%の増収で、AIサーバー向けの売上額は2024年通年では前年比で倍増するという見通しを発表した。

またEMS最大手の鴻海精密工業は22%の増収だったが、AIサーバーが大きく成長した、と8月14日の日本経済新聞は報じている。鴻海は、NvidiaのAIコンピュータ「DGXシリーズ」のアセンブリも手掛けているようで、「鴻海のAIサーバー売上高が24年前半に前年同期比で2倍以上に増えたと明らかにした。4〜6月期は1〜3月期比で60%以上増えており年後半も四半期ごとに増収が見込めるという」と15日の日経は報じている。Nvidiaの最新AIチップであるGB200に設計の見直しで納入が数カ月遅れることが明らかになったが、本格投入は25年であるため25年に期待している。

最近、ハイエンドのスマホ向けアプリケーションプロセッサを出荷しているMediaTekの7月売上額は前年同月比43.6%増の456.1億台湾元となった。スマホも回復しつつあると言えそうだ。また、メモリは一足先に回復していることは以前述べたとおりだが(参考資料2)、非メモリの回復は間もなく、といったところだろうか。

シリコンではないが、Infineon Technologiesがマレーシアのクリムに建設していた8インチSiC半導体の生産ラインが稼働始めた。20億ユーロを投じた。STMicroelectronicsもイタリアのカターニャ工場で8インチラインを立ち上げており、SiCの8インチウェーハプロセスラインは今後活発になり、SiCのコストダウンを進めていくことになりそうだ。

参考資料
1. 「6月の世界半導体販売額、単月では史上2番目の金額に」、セミコンポータル、(2024/08/08)
2. 「メモリビジネスは好調に、産業向け非メモリはまだ不調続く」、セミコンポータル、(2024/07/29)

(2024/08/19)
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