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これから始まるCES 2024、AIチップが生成AIなどAI技術を支える時代に

2024年の世界半導体市場の動向は、9日から米国ラスベガス(図1)で始まるCESで明らかになりそうだ。1月9日の日本経済新聞は、CESではAIを新機軸に技術革新の可能性が広がってくると報じている。AIは生成AIだけではなく、家電機器やスマホなどの電子機器にもさりげなく入ってき始めている。セミコンポータルで既報したようにAIはますます拡大する(参考資料1)。

図1 ラスベガスの街角 ホテルが講演会場となっている


CES 2024では、約4000社が出展、昨年よりも3割多く過去最大の2020年の4600社に次ぐ規模だとしている。半導体メーカーの出展も多い。Nvidiaや、Intel、Qualcomm、AMDなどの半導体メーカーは常連だ。重電とソフトウエアが強いドイツのSiemensや大手スーパーマーケットのWallmartなどもAIに関する基調講演を行う。昨年前の数年間は自動運転などのクルマがCESで新技術を競っていたが、今年はIntelの戦略「AI Everywhere」(参考資料2)のようにさまざまなところにAIが適用されるデモが見られるようだ。特にIntelのPat Gelsinger氏のキーノートは9日の午後5時(日本時間10日の午前10時)からなので、日本でも無理なく聴けそうだ。

5日の日経は、市場調査会社やアナリスト、専門商社など10人からのアンケート回答を集めたと報じ、今年の4~6月ごろに世界半導体需要が好転するとした。生成AIやデータセンター、自動車向けの半導体が需要をけん引するという。現実に、WSTS(World Semiconductor Trade Statistics)の実データでは、2023年9月からすでに前年比プラス成長に転換しており、10月と2カ月連続でプラス成長を続けている。2022年に11月から100億ドルもの前年同月比落ち込みを記録したため、23年の11月は2桁成長することは間違いない。といっても前回のピークであった2022年はじめの数字にはまだ到達しておらず、まだ実感できていない方が多いだろう。いずれにせよ、回復基調に転じていることは間違いない。

特に生成AIが半導体需要をけん引しているといっても過言ではない。生成AIのハードウエアを出荷しているNvidiaが、2023年第3四半期の世界半導体トップになり、2023年全体でもトップになりそうな勢いだ。第4四半期の見通しが200億ドルと他社を圧倒的にリードしているからだ。生成AIには並列処理するための大量の高速(広帯域)メモリが必要で、3D-ICの一種であるHBM(High Band Memory)がAIチップとセットで使われる。HBM市場シェアで80%程度を占めるSK Hynixの時価総額が、電池大手のLGエネルギーソリューションを抜き2位に浮上した、と5日の日経は伝えている。このことも生成AIを反映している。

AIの有力な市場の一つ、医療機器ではAI搭載により製品価値を高めることができそうだ。5日の日経産業新聞では、キヤノンメディカルシステムズの滝口登志夫社長とのインタビュー記事を掲載し、「いち早く開発したAIによる画像再構成技術をコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)だけでなく、超音波診断装置や血管撮影装置(アンギオ装置)など様々な装置に搭載し、画質を一段と向上させた」と述べている。

AIの広がりは、Googleの新型スマホカメラにも表れている。同社のPixel 8に搭載されたカメラには、数名同時に撮る写真でも全員が笑顔を映る技術を搭載している。これは数枚の写真を撮っておき、その中から笑顔をAIが選んで合成するというもの。AIにはどれが笑顔の写真なのかを予め学習させておく。また、STMicroelectronicsは洗濯機にAI機能を搭載し、洗濯物の重量を推論してモーターの電流を最適化し消費電力を抑えている(参考資料3)。

IntelやAMDが、AIエンジン(専用回路)を集積したプロセッサチップ(SoC)を23年秋に発表している。Intelのパソコン用のプロセッサである「Core Ultra」には、ある程度専用かさせた生成AIもオフラインで学習、推論できる能力を備えたAIエンジンが搭載されており、Intelは「Intel AI Everywhere」(参考資料2)を宣伝し始めた。その前に発表したAMDのPC向けチップ「Ryzen PRO7040」では、モノリシックSoCに学習できるAIチップを集積している(参考資料4)。

AIは今後、生成AIが広がると共に、AI専用回路がSoC上に搭載され、知らず知らずに私たちの生活用品の中に浸透していくことは間違いないだろう。

参考資料
1. 「生成AIだけがこれからのAIではない〜Intel、AMD、IBMの戦略から見えるAI」、セミコンポータル (2023/10/03)
2. 「Intel AI Everywhere戦略の第1弾、オフラインPC上で生成AIが可能に」、セミコンポータル (2023/12/21)
3. 「SiCトップのSTMicro、パワーだけでなくエッジAI含めソリューションで勝負」、セミコンポータル (2023/08/09)
4. 「AMDの新Ryzen PRO7040、AIエンジンやセキュリティプロセッサを集積」、セミコンポータル (2023/09/22)

(2024/01/09)
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