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新潟にパワー半導体のファウンドリ工場を作るという噂が駆け巡る

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7月21日に日刊工業新聞が報じた、「新潟にパワー半導体共同工場 経産省支援、23年度事業化」という記事が半導体業界の中で、真偽を巡るうわさに包まれた。経済産業省が支援するということから、どこまで事実なのか、という疑念を抱いての噂話となっている。

パワー半導体共同工場計画は、経産省が打ち出した「半導体・デジタル産業戦略」の一環として捉えられる。同省は、戦略の柱を3本示した(参考資料1)。TSMCの誘致と、既存の半導体企業(キオクシア、ルネサス、ソニー)への支援、そしてグリーン投資の一環としてパワー半導体への支援である。今回の日刊工の報道は、3番目の部分である。

パワー半導体は、日本はまだ世界的にも強い。三菱電機、富士電機、ローム、サンケン電気などが健闘している。しかしロームを除き、いずれも自社の電力制御装置部門へ納めるパワー半導体メーカーであり、内製市場(キャプティブマーケット)向けである。世界と競争している訳ではない。電力制御装置に強い東芝や日立製作所、三菱電機の国内内製市場から、国内外の電力制御システムに売り込めるかどうかが成長性を握る。

今回の記事では、新潟にあるON Semiconductorの工場を買い取って操業するというものだが、この計画を進めるための会社として東銀座にあるベンチャー向け貸しオフィスに「ジャパンスペシャリティファンダリ」という名称で設立したという。ON Semiは新潟工場の売却を表明している。パワー半導体に強い三菱電機や東芝、富士電機などから出資を募りファウンドリを立ち上げるとしている。

ただし、パワー半導体市場はそれほど大きくない。例えば矢野経済研究所の調査では、2017年に177億ドル、18年187億ドル、2019年186億ドル、2020年169億ドル(見込)、2021年176億ドル(予想)とこれまでの所、ほぼ横ばいなのである。この先、年率平均4.6%で成長し、2025年には244億ドルという販売額を予想しているが、パワー半導体の予測は、富士経済の予想と共に見ても、いつもプラス成長の予想が下方修正されるという歴史を繰り返してきた。

もちろん、この先は電気自動車(EV)需要があるため、これまでの願望を込めた予想ではなく、成長の可能性は確実に高まっている。パワー半導体トップのInfineon Technologiesが2番目のIGBT向けの300mmウェーハ処理工場を建設しているのは、EV化への動きに則したものだ。しかし、パワー半導体市場は、半導体全体の市場である2021年の5272億ドルのわずか3%にすぎない。日本の半導体復活という多大な期待は禁物である。

ファウンドリ事業で最大の問題は顧客をどうやって捕まえるか、という点だが、この点で日本は大きく立ち遅れている。これまで自社のラインが余っていて、他社がフォトマスクを持ってくれば製造ラインを貸してあげる、という殿様商売だった。これでは世界と戦えない。

世界中の顧客に共通のプロセス開発キットを作るとか、顧客設計支援サービスを行うとか、かなりのパワー半導体設計知識を持つ営業技術者をたくさん採用しなければならない。パワー半導体特有のスイッチング波形シミュレータなどのツールも顧客にとって有効になる。TSMCの日本での主な活動はデザインハウスであり、ここに大量の設計技術者を採用している。パワー半導体のファウンドリなら、明電舎や安川電機のような日本の大手顧客だけではなく、海外のGEやEmerson、Siemens、ABB、などに売り込める体制を築くことが最優先課題の一つである。

もう一つの懸念は、これまで失敗を繰り返してきた半導体メーカーの共同プロジェクト方式である。共同出資を募るのなら、パワー半導体メーカーではなく、顧客あるいは潜在顧客に出資してもらうことだ。それが出来なければ無責任体制になりこれまで同様、失敗の繰り返しになる可能性は高い。少なくとも失敗を避ける手法に期待したい。


参考資料
1. 経済産業省がまとめた半導体戦略を読む (2021/06/07)

(2021/07/26)

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