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経済産業省がまとめた半導体戦略を読む

経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を6月4日にまとめ、発表した。6月4日の日本経済新聞が朝刊でデジタル産業基盤について簡単に紹介しただけだが、6月7日の日刊工業新聞は、半導体やデジタルインフラ(データセンター立地推進)などについて触れた。打ち出した戦略は、半導体、デジタルインフラ、デジタル産業の3本についてである。簡単にそれらを紹介しよう。

半導体分野の目指すべき方向性として、(1)先端ロジック半導体では、「海外ファウンドリとの合弁工場の設立等を通じ、国内製造基盤を確保する。さらに次世代製造技術の国産化を進める」としている。(2)すでにある工場についてはメモリ、センサ、パワー、マイコンについて重要な半導体製造拠点の担い手とターゲットを見定め、大胆な刷新を進める、としているが、具体的なことについては何も述べられていない。

(3)としてはデジタル・グリーン投資を支える設計開発として、ポスト5G・ビヨンド5Gシステムやグリーンイノベーション等を支える半導体設計・技術開発を強化する、としている。その実例として、東京大学のd.labや産総研のAIチッププロジェクトなどを採り上げているが、ファブレス半導体や今後のスタートアップに関しては全く触れていない。

製造を強化しても顧客が日本にいなければ海外のファウンドリは日本に来る意味がない。顧客の一人としてファブレスやそのスタートアップを支援する仕組みがなければ、製造だけのファウンドリ工場を例え強化しても、顧客は海外にいることになる。また、エッジAIチップは、世界的にあまりにも競争が激しいだけではなく、個別対応の専用ASICに近いチップである。専用化を進めて性能向上を東大d.labは進めているが、ASSPに近いプラットフォームチップの開発を目指すファブレスへの対応が抜けている。

そして(4)として製造装置・材料のチョークポイント技術強化として、海外ファウンドリとの共同技術開発等を重要視している。チョークポイントとは戦略的に重要となる海上水路のことをさす言葉だが、この技術を使わなければ相手が困る、というような意味で使う。製造装置や材料は日本が強い分野だけに、ここをさらに強くするために海外ファウンドリとの共同開発を推進するとしている。

半導体以外では、データセンター・クラウドの目指すべき方向性として、日本でのデータセンター立地を促進し、日本をアジアの中核データセンター拠点となることを目指す。また、クラウドについては産業・政府・インフラ用のクラウドプレイヤーの育成を目指す、とある。データセンターは半導体応用分野の一つであり、将来性が見込まれる分野ではある。

デジタル産業の目指すべき姿として、相互接続性と信頼性・安全性の高いクラウドインフラを提供する産業の育成を目標に掲げている。ただし、この産業はもはや半導体とは関係がないと見ており、GAFAMではない日本の業者の育成を念頭に置いている。しかし、国内クラウド業者がGAFAMとは異なるサービスを提供するための差別化要因の一つとして半導体があると捉えるべきだろう。むしろ、新型コロナで明らかになった、とても遅れた政府のデジタル化を推進する手段として、各省庁に横串で速く対応できる予算に半導体計画を入れる手もある。

資金源としては、これまでのポスト5Gとして2000億円、グリーンイノベーション基金2兆円、産業競争力強化法などを活用し、産業界のコミット・民間資金の活用を確保する、としている。

経産省のこういった戦略は、民間のコンサルティング会社に作成を依頼し、まとめているため、一貫性に欠ける部分が認められるが、次世代半導体をけん引するファブレス半導体のスタートアップを育てるという視点が全くない点が気になる。製造ファウンドリやOSATのユーザーでは今や、ITの将来像を見据えたスタートアップが半導体の重要性を認識しているからだ。

さらに、製造に関しては、海外ファウンドリの誘致に力を入れているが、国内ファウンドリを支援するという視点も全くない。米国では、130nmから始め90nmノードのPDK(プロセス開発キット)を提供し、ビジネスを行っている米国産ファウンドリSkywater社が登場し、国防総省から注文を取っている。いきなり先端的な微細化技術ではなく、確実なビジネスを行いながら少しずつ微細化していく、といった1990年代のTSMCと同じ手法で進んでいる。そのために国内ファウンドリへの支援策に関して、エンジェルのように資金提供だけではなく、ビジネスノウハウの提供もできる仕組みも国家として必要ではないだろうか。

参考資料
1. 「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめました 経済産業省 (2021/06/04)

(2021/06/07)
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