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アップルiPhone5Sに初の64ビットAPU搭載、東芝の積極投資に注目

日本時間9月11日にアップルのiPhone5Sの発表があったものの、報道の過熱感はさほどでもなかった中、64ビットアプリケーションプロセッサ(APU)が初めてスマートフォンに搭載された。この結果、DRAMをいくらでも積めるようになる。東芝は半導体・ストレージ事業を2015年度までに年平均6.8%で成長させるという中期計画を投資アナリスト向けに発表した。

64ビットプロセッサをスマホに搭載したことは、Qualcomm CEOのPaul Jacobs氏が今年のMobile World Congressで述べたように(参考資料1)、スマホがコンピューティングのプラットフォームになったことを裏付けている。32ビットでは2の32乗、すなわち最大4Gバイトメモリしかアドレスできなかったが、64ビットにすることでアドレッシングの制約を取り除けることになった。ただし、現在のスマホのDRAM容量はパソコンほど必要としていない。将来のスマホを見越したシステムを考えているのであろう。

64ビットはビデオRAMに必要という声もあるが、容量ではない。例えば4K動画を扱う場合に、画素数は1フレームあたり24Mビット分(4096×2160×RGB=3Mバイト)しかいらない。1秒間では30フレームとして90Mバイト必要になるが、ビデオRAMは一時的に貯めるだけであり、次々と書き換えることを目的としているため、4Gバイト以上の大容量はやはり必要ない。2画面テレビや3Dテレビでさえ、その2倍すなわち180Mバイトで十分。4倍の画素密度の8K HDビデオでさえも1秒間に必要な容量は540Mバイトである。8K動画の3Dでやっと1秒間に1Gバイトの容量になる。スマホからテレビへ転送する場合でも1秒以上の遅れはおそらく許容範囲を超えているから、この容量があればやはり十分だろう。

ではなぜ64ビットにしたのであろうか。ビデオRAMのようなDRAMにはむしろ並列処理向けのワイドI/O(例えば512ビット)が要求されている。512ビットの出力には32ビット幅の16並列よりも、64ビット幅の8並列で送る方が速い。4Gバイトという容量ではなく、バンド幅を広くとるために64ビットデータバスを採用したのではないだろうか。あるいは、直近の用途目的ではなく、将来のコンピューティングプラットフォームとしての用途を考えて、パソコン並みの書き換えを必要とするアプリケーションを探しているのかもしれない。これだと、次のスマホでアッと驚かせるようなユーザエクスペリエンスに備えるためだとも考えられる。実際に64ビットマシンを提供しなければアプリ開発者の食指を動かすことはできないからだ。もしかすると仮想化技術を32ビットずつに分けて使うかもしれない。超並列マルチタスクをスマホで行わせる応用が出てくれば面白い。64ビットマシンで想像を巡らせるといろいろな応用が出てくるかもしれない。ただ、この64ビットプロセッサはARMのCortex-A50シリーズをベースにしているのだろうが、どの製品なのかは、今後のティアダウン解析を待つしかない。

64ビットプロセッサが組み込みシステムに普及するとなると、容量の制約はなくなり、DRAMメーカーにとって大容量化という目標は再び生きてくる。新たに発売されるパソコンはすでに64ビットが主流になった。組み込み系でも64ビット時代がこれから始まる。DRAMメーカーにはビジネスチャンスが訪れる。

東芝は、投資アナリスト向けの説明会を11日に開催した、と12日の日本経済新聞が伝えた。東芝セミコンダクター&ストレージ社社長であり東芝の執行役上席常務である成毛康雄氏が半導体事業の目標について述べた。2012 〜15年度における世界半導体市場の年平均の伸びを3.6%と見積り、それよりも高い6.8%の成長率で伸ばすという計画を立てた。数ヵ月前までアップルはiPhone5Sの発表に備えてiPhone従来機の生産を控えており、NANDフラッシュは供給過剰の様相だった。11日にiPhone5S/5Cが発表されNANDフラッシュメーカーにとっては積極的に生産を増やしていける状況になった。

東芝半導体の成長のエンジンはやはりNANDフラッシュ。サムスンの3D-NAND技術に対しては、計画通り微細化投資を行い、コスト力をあげてから3Dへ進むと述べている。微細化によってコストを下げる。ビットの伸びは、年平均40〜50%を想定しており、出荷ビット数は2015年度には2012年度の3倍に増やすという目標だ。今年度は19 nm、14年度は1Z nm(Zは明らかにしていないが7程度かもしれない)、15年度は3次元メモリBiCSでライバル、サムスンに対抗していく。BiCSでは30数層のメモリセルを縦積みにする方針だ。アスペクト比の大きな溝パターンは表面張力によってパターンがもたれ合うように破壊する現象が起きやすいため、3D-NANDはその問題を解決した後として15年度を想定しているようだ。

設備投資は、NANDフラッシュに加え、Bridgelux社からのライセンスによる白色LED(参考資料2)、SSDストレージ、GaN/SiCのパワーデバイスなどにも使う予定だ。

参考資料
1. IoTよりむしろInternet of Everything、クアルコムのジェイコブズ氏が強調 (2013/03/04)
2. 東芝、GaN-on-Siの白色LEDを10月から200mmラインで量産開始 (2012/07/25)

(2013/09/17)
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