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RD20(7):化石燃料から再エネへ転換を図るサウジアラビアK.A.CARE

石油大国の一つ、サウジアラビア王国において新しいエネルギー源を求めようとしている。今年のRD20に初めて参加しようとするK.A.CARE(King Abdullah City for Atomic and Renewable Energy:アブドゥッラー国王原子力・再生可能エネルギー都市)は、政府系の原子力と再生可能エネルギーを促進しようという研究調査組織である。K.A.CAREのLocal Content and Capability Sector HeadのHisham Sumayli氏(図1)にK.A.CAREの役割とRD20への期待について聞いた。

図1  K.A.CARE Local Content and Capability Sector HeadのHisham Sumayli氏

図1 K.A.CARE Local Content and Capability Sector HeadのHisham Sumayli氏


K.A.CAREは環境問題を解決するため、原子力と再生可能エネルギーの推進を通して、課題解決に取り組んでいる。活動の一つが国内の大学や産業界とのコラボである。その目的は、クリーン技術とそのソリューションを見つけ、開発し、普及させることだ。「私たちが王国内で直面している経済的・技術的な問題を克服するため、技術のプログラムを行っている」、とSumayli氏は語る。これによりエコシステムにおけるニーズに答え、産業的なインパクトを作り出すように、大学と産業界のギャップを埋めようとしている。K.A.CAREは、大学と協力して、既存の研究室やインフラを活用している。


太陽熱利用システムのエネルギー源

その技術国産化のプログラムの一例が、産業界への応用の一つ太陽熱システムだ。このプロジェクトでは太陽熱を直接利用する。これは昨年、太陽熱プロセスの実証を産業界に向けて募集したものだが、産業界では起業し太陽熱プロセス技術を開発したところがあり、その企業はK.A.CAREのプログラムに応募した。現在は、その技術の実現を進めており、新技術をテストし応用できることを示そうとしている。

現在ほとんどの熱エネルギーは化石燃料や電気から直接生成されている。しかし、K.A.CAREが分析したところ、太陽熱エネルギーを直接産業用に利用できる可能性があることが分かった。この技術なら、サウジアラビア国内の産業にもインパクトを与えられると確信した。

太陽熱以外のテーマもある。再生可能エネルギーによる脱塩技術は不可欠である。海水を真水に変える再生可能エネルギー技術は極めて重要である。さらに再生可能エネルギーによるマイクログリッドに関しても活動している。サウジアラビアはたくさんの小都市が地方に点在しているため、それぞれの地方ごとに再生可能エネルギーのマイクログリッドが必要とされている。再生可能エネルギーを使った冷却技術にも需要があり、再生可能エネルギーを冷却システムに統合することを勧めている。


国際的なコラボも推進

サウジアラビアは国際的な研究所とのコラボレーションも行っている。例えば、有名な相手は米国のNREL(National Renewable Energy Laboratory)である。技術テーマに関して、フォーカスすべき分野と産業界からの提案に対する評価プロセスを開発した。

日本でも産業技術総合研究所(AIST)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とも共同で取り組んでいる。例えば地域に即した標準を決めている。サウジでは、特に温度と熱が厳しいため、産総研と一緒にサウジに適した標準規格を開発している。NEDOとは、再生可能なエネルギーを使ったマイクログリッドのプロジェクトを進めており、それをサウジに適用しようとしている。

成功した国際的なコラボレーションのプロジェクトの例としては、太陽熱システムがある。サウジ国王大学(King Saud University)が米国のSandia National Laboratoriesと協力して太陽光集光システムを開発している。特に、第3世代の「落下粒子技術(falling particle technology:蓄熱性の高いセラミック粒子の熱媒体を落下させ熱を運ぶ方式)の太陽光集光システムの規模は、許容できるコストで実現を期待できるシステムだという。太陽熱のテーマは単なる熱の発生だけではなく、太陽熱プロセスやその応用、蓄熱までカバーしている。「正確な定量的なエネルギー出力の数字は持ち合わせていないが、経済的には、この太陽光集光システムによる発電では1kWあたり、将来的に6セント以下という見通しを得ている」とSumayli氏は言う。


RD20初参加への期待

サウジアラビアのK.A.CAREは、これまでのRD20にはまだ参加したことはないが、今年のRD20には参加する予定だ。Sumayli氏は、「サウジアラビアが実際にどのような技術プログラムをやってきたか、研究テーマや構成、標準化規格の開発、大学と企業とのコラボレーションなど共有しよう思う」と語っている。

日本の大学とのコラボレーションはまだないが、今回日本に行くことで、大学やさまざまな研究機関とのコラボレーションに期待したいという。また、「ほかの研究機関がエコシステムとどうやって相互に活動しているのか、大学との研究開発をとやって進めているのか、それらをどうコーディネートしているのか、活性化させているのか、など知りたいことが山ほどある。こういったプログラムを知り体験することで、K.A.CAREの役に立つだろう」とSumayli氏は信じている。

参考資料
1. 「第5回RD20(1):提言から実行に移す年が始まった」、セミコンポータル (2023/09/06)
2. 「第5回RD20(2):水力中心で45%が再エネ、直流送電採用のブラジル」、セミコンポータル (2023/09/14)
3. 「RD20(3):南アフリカの特長を生かし、グリーン水素のコラボに期待」、セミコンポータル (2023/09/21)
4. 「RD20(4):エビデンスデータを取得し政策を作るためのEUの共同研究センター」、セミコンポータル (2023/09/26)
5. 「RD20(5):米国立再生可能エネルギー研究所、国際協力を通じて脱炭素を推進」、セミコンポータル (2023/09/29)
6. 「RD20(6):インドネシアBRIN、コラボの推進者として全パラレルセッションへ」、セミコンポータル (2023/10/02)

(2023/10/04)
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