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RD20(5):米国立再生可能エネルギー研究所、国際協力を通じて脱炭素を推進

米国エネルギー省の国立研究機関の一つであるNREL(国立再生可能エネルギー研究所)では、3200名以上が働き、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化の研究、開発、商品化、展開を通じてエネルギー変革に取り組んでいる。2019年に始まったRD20には産業総合技術研究所と共に一緒になって会議運営だけではなく、RD20のアジェンダを設計・実行してきた。NRELの材料、化学、計算機科学部門のAssociate Laboratory DirectorであるWilliam Tumas氏(図1)にRD20におけるNRELの役割と、循環経済を達成するためのNRELの取り組みについて聞いた。

Bill Tumas, Director, National Renewable Energy Laboratory Associate Lab

図1 National Renewable Energy Laboratory Associate Lab Director Bill Tumas氏


NRELは、2019年に始まったRD20に最初から参加し、Tumas氏が米国およびNREL代表としてして出席した。国際協力の重要性をNRELでもRD20でもみんなで確認できたことが素晴らしかったという。


NRELとRD20のパートナーシップ

2019年以来、NRELはRD20のイニシアティブに関して産総研と共に活動してきた。RD20の国際アドバイザリーボードとして、産総研の近藤道雄氏や吉澤徳子氏らと共にRD20の実行委員会を立ち上げ、産総研のリーダーシップのもとにRD20のアジェンダを設計・実行する支援をやってきた。Tumas氏は準備委員会のチェアとして産総研と協力しながら、NRELのLaboratory DirectorであるMartin Keller氏と共に国際協力強化に向けた勧告であるRD20リーダー声明の骨子の作成を支援した。

「幸運なことに、多くの精力的なリーダーや諮問委員会のメンバーと協力して、クリーンエネルギー変革に必要なイノベーションを加速するために不可欠な国際協力の確立と強化の支援に関わることができた」とTumas氏は語る。

また、「クリーンエネルギー経済に向けた野心的な脱炭素化目標を達成するには、『総力を挙げて』アプローチする必要がある。脱炭素化には、クリーンエネルギー技術の迅速な開発と導入が必要であるが、そのためには、希少で重要な材料を含む大量の材料が必要となる。これらの材料を必要な量だけ確実に調達するためには、あらゆる製品が廃棄に向かう現在の一方通行的な経済から、材料や製品をリサイクルし、再生産に活用する堅牢な循環型経済に進化する必要がある」とTumas氏は述べる。

このビジョンを現実にするために、NREL は、新規の低排出材料の開発、材料使用量を削減する製造プロセスの設計、技術の寿命を延ばすなどに取り組んでいる。 Tumas氏によれば、この作業すべての鍵はコラボレーションということである。「産業界、政府、国際的な研究所、大学、NPOなどと協力することで、単独で取り組むよりもはるかに早く効率的に世界のクリーンエネルギーの未来というビジョンを達成することができる」(同氏)。


国際パートナーシップとRD20リーダー声明の具現化

「当NRELはRD20を魅力的に感じている。RD20 リーダー声明と行動計画で規定されているように、国際的な研究所の集合体としてイノベーション加速に向けた国際協力強化のために、NRELができることはたくさんある」とTumas氏は述べる。

Tumas 氏は、RD20 テクニカルセッションでは、太陽エネルギーと再生可能エネルギー、水素、エネルギー貯蔵、炭素管理、グリッドインテグレーションがテーマになっているが、これらに限定されない、国際協力のための重要な側面に焦点を当てたいと考えている。 低炭素電力と電動化の追求は非常に重要である。電気の世界と化学の世界を接続することによって、水素やいろいろな電子を使って相互結合させ、分子イノベーションにつなげることも重要だ。

NREL、産総研、およびフラウンホーファーISE(F-ISE)が共催している「テラワット太陽光発電」ワークショップで示したように、ワークショップは国際協力を促進する。テラワット太陽光発電ワークショップの主催者であり、NREL国立太陽光発電センター所長であるNancy Haegel博士は、昨年の RD20 ワークショップで講演し、「クリーン エネルギーは広範囲の分野をカバーしているが、やりがいのある仕事である。焦点をいくつかの分野に絞り、引き続き協力して取り組んでいきたい」と述べた。

産総研、NREL、F-ISEは、福島でのRD20 2023に先立ち「ギガトン水素」ワークショップを東京で開催する。 これには、RD20 研究所の専門家だけでなく、この分野の他の研究機関のリーダーも参加する。 今年は水素製造に焦点を当てるが、 将来の RD20 ワークショップはさまざまな分野に焦点をあてる可能性がある。こういったワークショップでは、専門家同士が協力し合うとともに、他の研究機関の研究員が会議や論文集を見られるような機会にもつながりそうだ。

NREL はまた、フランスのグルノーブルで開催された第1回の RD20 サマースクールにも数名の参加者を派遣した。サマースクールでは博士号を取得したばかりの学生、ポスドク研究員、若手の研究者が、世界の専門家から低炭素エネルギー技術とシステムについて詳しく学び、コラボレーションの機会を模索する場を得た。 「フランスのCEAとCNRSの研究者仲間が、素晴らしい仕事をしてくれた。会議を企画し、若い研究者が集まる場を提供し、相互に学び、 そして新たなパートナーシップに発展する機会を提供した」とTumas氏は語る。

Tumas氏はまた、RD20研究機関の研究者が特定の技術的問題に焦点を当てるタスクフォースの概念を開始したとしてRD20を賞賛した。 太陽光特性評価タスクフォースと水素ライフサイクル評価 (LCA) タスクフォースは素晴らしいスタートを切った。 水素 LCA タスクフォースは、10 月に開催されるギガトン水素ワークショップで調査結果を発表する予定だ。 Tumas氏は、今年の RD20 技術セッションが次のタスクフォースにつながる可能性があるとしている。


未来を見据えて

Tumas氏は、10月に福島で開催されるRD20 2023カンファレンスが待ち遠しいと言う。 NREL は、ギガトン水素ワークショップと RD20 会議の両方に積極的に参加する。 「Silvana Ovaitt博士をはじめとしたNRELの研究者数名がこの会議に参加し、大規模な太陽光発電の導入、課題、機会、太陽光発電に循環性をもたらす方法などを議論する予定だ。このようなプレゼンテーションが、太陽エネルギー、循環経済、その他の分野での新しいアイデアを育みコラボレーションを促進することを期待している」とTumas氏は述べる。

今後、RD20 リーダーたちは研究者間のコミュニケーションと知識共有を大幅に増やすことも目指している。 これらの取り組みをサポートするために、RD20 実行委員会は、情報共有のためのインフラストラクチャ、ツール、データベース、プロセスを提案している。 Tumas氏は、RD20 によって研究所間の人材の交流にも期待している。 コラボレーションというのは、アメリカンフットボールのような、コンタクトスポーツです」とTumas氏はジョークを飛ばす。 研究者をさらに巻込むことが重要である。

地球規模のニーズを持続的かつ公平に満たすことには、問題が困難であるが、チャンスも大きい。「私たちは再生可能エネルギーが最も安価なエネルギー形態となりつつある非常に刺激的な時代に生きている。私たちはクリーン エネルギー技術の導入と統合を加速しなくてはならないが、すべてのエネルギー分野に対応するためにイノベーションも必要だ。大きく進歩しているが、終わったわけではない」と同氏は語る。

昨年、Tumas氏は残念ながらリモートで参加しなければならなかった。 彼は「Knock on wood」(幸運が来ますように)という英語のフレーズでインタビューを締めくくった。


参考資料
1. 「第5回RD20 (1):提言から実行に移す年が始まった」、セミコンポータル (2023/09/06)
2. 「第5回RD20(2):水力中心で45%が再エネ、直流送電採用のブラジル」、セミコンポータル (2023/09/14)
3. 「RD20(3):南アフリカの特長を生かし、グリーン水素のコラボに期待」、セミコンポータル (2023/09/21)
4. 「RD20(4):エビデンスデータを取得し政策を作るためのEUの共同研究センター」、セミコンポータル (2023/09/26)

(2023/09/29)
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