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ルネサスはDialogとの合併で成長できるポートフォリオを揃えた

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ルネサスエレクトロニクスが英国とドイツ、米シリコンバレーに活動拠点を置くDialog Semiconductorを49億ユーロ(約6157億円)で買収することで両社合意した。Dialogは、PMIC(電源IC)やLEDドライバ、アナログ回路搭載のFPGAであるCMICなどで高い技術力を誇る会社だ。この1年でルネサスはグローバル企業に変身中だ。両社の合併は成長するための製品ポートフォリオをもつことになる。

COMBINATION OVERVIEW ENHANCED OFFERINGS WITH DIALOG'S PROPDUCTS / TECHNOLOGIES

図1 ルネサスの半導体製品とDialogのそれとは補完関係にあり、ユーザーにチップセットとして提案できる 出典:ルネサスエレクトロニクス


今回の買収こそ、互いの製品ポートフォリオを相補う形になった。これまでのIntersilやIDTの買収は売り上げ低下を補う単なる足し算のためといえた。ところが、今回の買収はIoT端末やIoTデバイスを完成できるほどの相補関係であった。しかも、Dialogは中堅規模の半導体メーカーでありながら技術がしっかりした企業である。AppleはDialogのPMICを呼び戻すため、高額の資金を提供した。なぜ呼び戻したか。

元々Dialogは、AppleにPMICを供給していた。これはさまざまなiPhoneの分解レポートから公然の秘密となっている。Appleは、サプライヤーに対してAppleに供給していることを言わないように契約に織り込んでいるが、分解してしまえばどこのICであるかはすぐわかる。iPhone内部のPMICはもとより、充電器用のPMICも効率が高いため、サイコロ大の小さな白い箱に充電器を収めることができている(図2)。ここに実はPMICのノウハウが詰まっている。


iPhone 7とApple 5W USB電源アダプタ

図2 iPhone用の充電器は効率の高いPMICで小型化できている


2017年ごろ、Appleは、それまで購入していたPMICを自社開発するため、Dialogに取引を停止する通告を行った。ところが数カ月たって、実はDialogのPMICにはノウハウが詰まっており、自主開発できないことがわかってきた。Appleは、今度はエンジニア300名と技術資産に6億ドルを支払うことでDialogと合意した(参考資料1)。

PMICはICを動作させる安定化電源である。例えば5Vの電圧を、負荷変動を抑えて常にICに供給する。SoCなどのICから見るとPMICはたかが電源にすぎないが、されど電源なのだ。PMICが安定した電圧を供給できないとICの誤動作につながる。PMICはアナログ回路のノウハウがぎっしり詰まった電源回路である。半導体設計を強化してきたAppleといえども残念ながらDialogのような電源ICを作れなかった。DialogのPMICは効率が高いため、iPhoneの電池を長持ちさせる。効率が高いからサイコロ大の小さな筐体に収めることができる。

DialogはLED照明の調光機能を集積したICも供給している(参考資料2)。それもデジタルインターフェイスを使って制御できる調光システムだ。調光できる範囲は1〜100%と幅広い。

そしてDialogは、アナログ回路とロジックを集積した小型のFPGAであるCMIC(Complex Mixed Signal IC)を開発していたSilego(シレゴと読む) Technologyを2017年に買収した。Dialogの得意なアナログ回路をIPとして集積し、CMICの製品ポートフォリオを広げた(参考資料3)。

Dialogはさらに、2020年にWi-FiとBluetooth Low Energy(BLE)のコンボチップも開発しており、IoT端末を作るのに必要なICの開発を着々と進めている。

このような優れた製品を持つDialogにルネサスは目を付けた。ルネサスは、車載や産業向けのマイコンやSoCを得意とする。IoTセンサ端末にはマイコンは必要だが、それ以外のICをあまり持っていない。Dialogと組めば、IoT端末向けのチップセットを提案できる。

さらにルネサスの柴田英利CEO(最高経営責任者)は、Dialogのタレント(優秀な人材)も買収理由の一つだ、と語っている。Appleに再認識させたほどの技術力を持つDialogのアナログ・ミクストシグナル開発陣は魅力的に映る。

ルネサス内部でも柴田CEOに対する評価は高まっている。動きが早いのだ。「催促されないように先回りして提案する」という姿勢を社員が持つようになっている。シリコンバレーのIDT出身者が今や経営陣の中核になっており、柴田氏は、ルネサスにシリコンバレー流儀を積極的に取り込んだ。

筆者は、10年ほど前に半導体や半導体関連企業のトップが集まるGSA(Global Semiconductor Alliance)の記事を書いた(参考資料45)。しかし10年間、日本の半導体企業がほとんど入っていない上に、入っていても活発な活動をしていなかった。しかし昨年、ルネサスからGSAとはどのような組織か、と聞かれ、CEO同士が話のできる場だ、と答えたところ、ルネサスは1カ月もたたないうちにGSAに加盟した。その直後に柴田氏はGSA理事会のボードメンバーになった。

これらの素早い動きは、まさにシリコンバレー流だ。シリコンバレーにはCEO同士、エンジニア同士が話をできる場がある。たとえコンペティターであっても、秘密の話をしなくても、互いに理解できると、企業や自分がどう成長できるかのヒントにつながることが多い。これまでの日本の半導体企業にはなかった素早さであり、ルネサスがグローバル企業になりつつあることを示している。

参考資料
1. Apple-Qualcomm和解で見える、Appleのチップ独自開発の基準はひと (2019/04/17)
2. 新応用を切り拓くパワーマネジメントIC〜EuroAsia (4) (2014/11/27)
3. 企業買収の相乗効果を2年以内に示したDialog (2019/05/23)
4. GSAを介した経営トップの人脈形成こそ、グローバル化のカギとなる (2012/01/18)
5. 渡りに船か、半導体企業のグローバルへの進出とそのコラボを手助けするGSA (2011/03/02)

(2021/02/16)

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