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GSAを介した経営トップの人脈形成こそ、グローバル化のカギとなる

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Jeremy Wang氏、GSAアジア太平洋地区上級ディレクター

GSA(Global Semiconductor Association)が日本企業へ参加を呼び掛けている。半導体ビジネスはグローバル化へパラダイムシフトを起こしており、なおかつ新しいビジネスモデルを構築しなければならないという問題にも直面している。海外にモノを売るだけですんだ時代から、サプライチェーンを巻き込んだグローバル化の時代へ変わりつつある。台湾出身のGSAアジア太平洋地区上級ディレクターJeremy Wang氏にインタビューした。

図1 GSAアジア太平洋地区上級ディレクターJeremy Wang氏

図1 GSAアジア太平洋地区上級ディレクターJeremy Wang氏


Q(セミコンポータル編集長): 2011年3月はじめに来日され、GSAへの参加を日本企業に呼び掛けました(参考資料1)。その時と現在との違いは何ですか。
A(Jeremy Wang氏):その前に、3月1日にGSAのコンファレンスを開いた経緯についてご紹介します。2010年の6月に開催されたTSMC Technology Symposium の時に初めて来日し、ザインエレクトロニクスの飯塚哲哉社長、セミコンダクタポータルの谷奈穂子社長などにお会いし、パートナーとして協力していただけた。その後、谷社長が台湾を訪問した時に、Etron社CEOのNicky Lu氏(GSAの会長を兼務)のオフィスで出会い、世間は狭いと感じ、素晴らしいパートナーシップを築くことができました。このことがあってから、日本の半導体メーカーともっと協力できることを確信し、日本でのGSAコンファレンスを開催しました。人脈形成がとても重要です。
そのわずか10日後に大震災が発生しました。日本企業は震災からの復旧活動を通じ、ビジネスのスピードを上げなければならないことを痛感しました。世界的にはカスタマーとの協業やサプライチェーンを通じて設計、製造、ビジネスモデル構築などを行うというパラダイムシフトが起きています。GSAはもっとプロアクティブにパラダイムシフトに対応しています。

Q:日本はパラダイムシフトにどう対応すべきでしょうか
A:昔は日本のようなIDM(設計から製造まで手掛ける垂直統合の半導体メーカー)が半導体ビジネスのメジャーでした。この10年間は、米国ではファブレスが成功しています。例えばクアルコムはファブレス半導体部門とCDMA技術開発部門などから成り立ちますが、このうちの半導体部門だけで2011年には90億ドル以上を売り上げています。IDM並みです。ファブレス2位のブロードコムも70億ドル以上を売り上げています。ファブレスなら資金をIP開発やイノベーション開発に使えます。
日本はマーケットにフォーカスした開発を行えば変われると思います。特にサプライチェーンのエコシステムを構築する必要があるでしょう。東芝やルネサスがアウトソーソシング戦略を始めていますが、ここにイノベーションを集めるのです。もっとグローバルにコラボレーションすることが重要だと思います。
2010年、2011年の半導体産業規模は3000億ドルになってきました。それも300mmウェーハ中心で、20nmプロセス技術に変わってきました。ここに巨大な投資が必要とされます。となると1社で投資するのは難しくなってきています。だからこそ、日本が変わることに期待しています。

Q:TSMCは巨大な投資をしています。これまでの2年間で160億ドルという巨大な投資ができたのはなぜだと思いますか。
A:二つの理由があると思います。一つはテクノロジーのリーダーは常に投資しなければならないことです。というのは、微細化の先端では技術が実証されていないからです。例えば20nm以降のリソグラフィとして、20nmはダブルパターニングが有力ですが、14nmとなるとEUVかEBも候補に加わってきています。ソリューションが複数にまたがると開発努力も並列にダブって行わなければなりません。こうなると1社では無理ですからサプライチェーンとの協力が必要となってきます。
もう一つは、ウェーハプロセスへの巨大な投資を回収するためには、巨大なラインで稼働させなければなりません。月産1000万個以上チップを生産しなければペイできないという声をよく聞きますが、そのためにはメガファブとかギガファブというように月産10万枚ウェーハのラインを稼働させなければ投資額に見合わなくなります。IDM1社では無理です。
それだけではありません。3次元実装やTSV(through silicon via)、インターポーザなど後工程にも投資しなければなりません。ここに新しい設計、新しい材料、新しいプロセスが入ってきます。後工程ではカスタマーを満足させるのにターンキーソリューションが必要だからです。カスタマーやデザイナーはマーケットを見ながらサプライチェーンの生産能力も見ます。もし能力が足りなければ増強しなければなりません。しかし需要が小さく能力が大きすぎれば稼働率は下がります。そこで、TSMCはロイヤルカスタマー(重要な顧客)と長期的な契約を結んでいます。

Q:半導体ビジネスから見て伸びる市場は何ですか。
A:これまでとは違い、インターネットが大きなテーマになっています。スマートフォンは誰もが持つようになり、例えば血圧や発電量などを見るモニターデバイスになります。eコマースや、SNSなど新しい応用も登場しています。その重要な役割を果たすのが半導体です。将来は医療関係の市場が有望です。
中国市場では半導体チップ+センサが注目されています。これらを使い、ミルクをはじめとする食糧の安心・安全性の問題を解決しようとしています。人口が13億人もいますので日常生活に役立つテクノロジーが求められています。センサを使うモニタリング技術が関心の高いテーマです。

Q:GSAに加盟している日本のメーカーは増えていますか。
A:本社が日本にある企業は6社しかいません。半導体メーカーは東芝とザイン、Jデバイスの3社です。当初は2社しかいませんでした。今は、ルネサスやエルピーダ、パナソニック、ソニー、ロームなどと話し合いを続けています。もっと忍耐が必要かもしれません。

Q:GSAに加入するメリットは何ですか。
A:経営トップにとってGSAに加入するメリットは大きいです。トップ同士のつながりができると、グローバルなコラボレーションを通じてビジネスを拡大することができます。加えて、産業全体のトレンドを知ることで、市場と新しい応用分野を理解できます。例えば3D ICを改良するため、メモリーメーカーとロジックメーカーがコラボするようになりました。昔は接点がなく、バラバラでした。今はシステムからの要求を理解すると、これらのバリヤを克服しなければならないことがわかります。会員同士の声に耳を傾け、グローバルなサプライチェーンを築くことでビジネスを発展させることができます。この双方向のやり取りが重要です。
今年の3月22日には2年に一度のGlobal Leadership Summitを上海で開催します。会員各社のCEOのネットワーキングを利用して互いに知識を共有します。今回は中国における携帯通信最大のキャリヤであるチャイナモバイルの講演を予定しています。中国で今何が起きているかを知ることができます。どのデバイスが最適なのか、中国の物価はもはや安くないことなどがわかります。さらに為替レートに関しても議論します。次世代の大市場が世界にはあります。
日本でも同様に、今年4月16日にSEMATECHと合同で、GSA/SEMATECH Memory+ Conferenceを東京で開催します。ここではストレージや3D IC、システム最適化などについて話し合います。

Q:GSAはかつてFSA(ファブレス半導体協会)と言っていましたが、大手のIDMも加盟しているのでしょうか。
A:インテルやTI、STマイクロエレクトロニクス、サムスン、ハイニックスなどのリーディング企業が入っています。これらはグローバルな企業であり、競争している訳ではありません。むしろコラボレーションしており、イノベーションを生み出し、新分野を開拓しています。

Q:日本のIDMとは何が違うのでしょうか。
A:日本のIDMと基本的な考えは変わらないと思います。みんながより良い生活を望み、社会の役に立つような仕事をするという基本は変わりません。それを実行することと、選択することが違うのでしょう。インテルはかつて、持っていたメモリを捨てプロセッサ事業に集中しました。TIもデジタル技術を捨てアナログに集中しました。しかも2世代早く捨てています。日本は決定する時間が長く、しかも選択がはっきりしないのだと思います。インテルもTIも早めに捨てました。早く決断しなければ時代に取り残されてしまうからです。今、短いタイムツーマーケットと、低価格化求められています。
もう一つ世界では、パートナーを尊敬しコラボしている企業が多いです。日本の例では東芝はサンディスクとフラッシュメモリでコラボしていますし、エルピーダは3D ICで台湾のUMCとコラボを組んでいます。IDM1社で全てはできないため、正しいパートナーを見つけコラボレーションすることが重要だと思います。
 
Q:日本のIDMが復活するためのご示唆をいただけますか。
A:日本のIDMに対して正解を言える訳ではありませんが、二つ考えられます。一つは、保守的すぎることです。150年ほど前、日本はアジアでいち早く開国しました。西洋文化を採り入れ、日本独自の文化と融合させました。今は、もっとオープンにすべきでしょう。
もう一つは、日本のIDM全体がまとまっていません。光のように波長がコヒーレントになれば大きく作用します。ビジネスの世界は90%が同じで違いは10%だけです。しかし違いがあるために力は分散されてしまいます。日本全体が一致すると、大きな力になります。
例えば一つのIPともう一つのIPの違いが5%あるとすると、これまでの日本はその違いにこだわってきました。この5%の違いを調整し一致させればコヒーレントになり、大きな力となります。エンジニアの能力は日本もアメリカもインドもみんな同じです。小さな差にこだわるのではなく、大きな流れを理解することが重要なのです。

参考資料
1. 渡りに船か、半導体企業のグローバルへの進出とそのコラボを手助けするGSA

(2012/01/18)

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