企業買収の相乗効果を2年以内に示したDialog
これぞ、企業買収で相乗効果が得られた好例といえそうだ。低消費電力のパワーマネジメントに強い英国のDialog Semiconductorは2017年に小規模FPGAメーカーのSilegoを買収したが、両社の「いいとこどり」をした製品が登場した。
もはや公然の秘密となっているように、Apple社の電源アダプタにはDialogのPMIC(Power Management IC)が搭載されている。1年以上前にAppleは、DialogのPMICを使わずに自主開発する旨をDialogにすでに告げていた。ところが、残念ながら職人芸的なノウハウの塊であるPMICはApple社では設計できなかった。最近になってAppleは、Dialogのエンジニア300名を採用した。
DialogのPMICにはノウハウが詰まっており、Appleでさえも自社開発が難しかった。このような卓越したPMICの設計の強みを持つDialogは、数百ゲート程度の小規模なアナログ回路を含むFPGAメーカーであるSilego Technologyを買収した。CMIC(Complex Mixed-signal IC)と呼ばれるゲートアレイが得意なSilegoは、GreenPAKシリーズの製品を持っていた。
図1 PSRRが34dB以上も高くノイズが少ない電源IC 出典:Dialog Semiconductor
今回、Dialogが製品発表したSLG51000は、マルチチャンネルのLDO(Low Drop Out)電源であり、電源電圧変動除去比(PSRR)が高く、出力の電圧ノイズが低いという特長がある。このためCMOSセンサカメラモジュールなどのセンサ電源に向く。CMOSセンサ用の電源は1MHz以下の周波数のノイズの影響を受けるが、図1のように34dBも高い。ノイズ電圧で表すと10µV(rms)と低い。しかも合併してからの間に、両者の回路を集積したモノリシックな1チップICとして設計、WLCSP(Wafer-level Chip Scale Package)パッケージに実装されている。
スマートフォン用のカメラでは最近3個使うことが当たり前になってきており、電源の数も今後のさらなる増加に備えて、7チャンネル分のLDOを用意した。さらに電流を大量に使いたいユーザーに対しては、最大800mAの出力を用意した。今後、オートフォーカスやToF(Time of Flight)を使った測距機能を追加するようになっても電源が対応できる。
電圧を少しずつ上げ下げするIntelのCPUのような電源では、デジタルによる電圧設定ができるように、CMICの機能を集積してきた。この結果エンジニアは、カスタムの電源シーケンスやフォールトシグナリング、入力コンディショニング、タイマー、温度設定、グルーロジックなどの様々な用途向けの機能や制御ロジックを設計できる。例えば、電源電圧は10〜15mVステップで変えることが多いが、このICの設計では5mVごとに設定できるという。
しかもその設計ツールはコードを書くこともなく、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を使ってコピペや、カットアンドペーストのように直感的に操作できる。元々GreenPAKの開発用ソフトウエアはフリーでダウンロードできるようになっており、電源ユーザーは自分で簡単に設定できる。SLG51000は現在サンプル出荷中で、2019年下半期に生産体制に入るとしている。
図2 Dialog社Configurable Mixed-Signal Divisionのマーケティング担当VPのJohn McDonald氏
製品担当のJohn McDonald氏(図2)は合併したSilego側から来ており、合併によりチームの人数は2倍になり買収されてよかったと言う。