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特集コロナ戦争(12):災い転じて福と為す、半導体の新市場

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2020年の半導体市場は新型コロナウイルスが大きく影響するが、だからと言って悪い材料ばかりではない。SPI Free Webinar「新型コロナウイルスに対して半導体企業は何ができるか Part3」で示したように(図1)、「災い転じて福と為す」ということわざは、新型コロナを退治するための半導体ソリューションを提供する良い面ももたらす。人工呼吸器用回路の提供、感染経路の発見につながる位置情報検出、タッチレスHMIビジネスの拡大などコロナ後にも役に立つ技術を半導体が実現する。

図1 セミコンポータルが開催した会員限定Free Webinar「新型コロナウイルスに対して半導体企業は何ができるか Part3」


今年の半導体市場はそれほど悪くなさそうだ、という予感は、2020年第1四半期(1〜3月)における、IntelとTSMC、Applied Materials、Samsungなどの企業の業績発表による。軒並み良い結果が現れた。前年同期比でIntelは23%増、TSMCは45%増と極めて好調な業績を発表した。

新型コロナウイルスに立ち向かうためのソリューションが多数出てきている。医療従事者向けのソリューションとしては、人工呼吸器をいち早く開発するためのハードウエア開発キットをルネサスエレクトロニクスが発表している。また、Infineon Technologiesは、人工呼吸器のポンプを駆動するためのパワーMOSFETを3800万個受注した。これは電池式のポータブル人工呼吸器の開発を狙った用途である。開発試作ながら米Georgia Institute of Technologyは、汎用マイコン開発システムのRaspberry Piを使った開発回路で人工呼吸器をポンプも含めて作製、300ドル(3万円強)で発展途上国への供給を狙っている(参考資料2)。従来の人工呼吸器は約300万円もする。

検査してもすぐに結果がわかるPCR検査用にDNAを増幅するためのマイクロ流路をMEMS技術で作成したSkyWater社は、DNAシーケンサメーカーにMEMSチップを大量納入した。このDNAシーケンサは、突然変異しやすい新型コロナウイルスに対して、突然変異の可能性をチェックしさらに同定することで、ウイルスを追跡する新型の装置だ。IMECとRoswell Technologiesはバイオセンサチップを共同で開発、感染病のモニターに活かす。

人に接触せず、患者の心拍数や呼吸数などを測定するのに、ミリ波やテラヘルツ波を使うToF(Time of Flight)技術やイメージング技術が開発されている。すでに4月に一部レポートしているが(参考資料3)、昨年1月に開催された「国際カーエレクトロニクス技術展」でも24GHzでの心拍数の脈動グラフを紹介した(参考資料4)。これは、運転手の心拍数を観察しながら、身体の具合をモニターするもの。


図2 テラヘルツイメージングでは隠し持っているピストル(上)やナイフ(下)を検出できる 出典:University of Glasgow

図2 テラヘルツイメージングでは隠し持っているピストル(上)やナイフ(下)を検出できる 出典:University of Glasgow


さらに高周波で帯域を広くとると、犯罪者が隠し持っている拳銃やセラミックナイフを映像化するだけで検出できるようになる(図2)。いわゆるテラヘルツ波によるイメージング技術だ。ただし、これまでのテラヘルツ波は出力レベルが低すぎて、画像を撮るのに何時間もかかっていた。これを数秒で得られる技術が待ち望まれている。テラヘルツ波は5Gの次の6Gの無線通信でも有望視される技術と見られている。

感染者情報をBluetoothで取得

医療従事者向けの技術ではないが、感染者の追跡は新型コロナのような感染力の強いウイルスの場合は有効だ。大きな工場内の作業者の感染を追跡するためにIDカードにBluetoothとLoraWANのチップを入れて、作業者同士が接近すると、互いのカードを自動的に読みとり、それをLoraWANでセンターに送ることで経路を管理する(参考資料5)。スマホのBluetoothを常にオンにしておけば、誰が近づいたかを知ることができる。今後はBluetooth情報を保存するようにプロファイルソフトウエアを書くようになる。BluetoothはDigital Contact Tracing技術には適した技術だ。AppleとGoogleはソフトウエアを開発中だとしている。

Bluetoothはビーコンを利用して、その電波の強度からBluetooth所有者の位置を知る三辺測量法で、位置検出に使われてきた。GPSやGNSSの衛星からの電波が入らない地下街や屋内でのスマホやBluetoothデバイスを持つ人を検出していた。ただ、その精度はメートル単位と粗かった。最近はその位置精度をcm単位と改善する技術がBluetoothで可能になっている(参考資料6)。アレイアンテナを受信機あるいは送信機に使い、連続パルスを受け取る位相の違いから距離を計算する手法である。Bluetoothのプロファイルを作成中で、間もなく規格になる予定だ。

タッチレスのHMIに需要

また、新型コロナは、緊急事態宣言が解除された後もどこかに潜んでいるため、しばらくは3密(密集、密接、密閉)を避ける、ソーシャルディスタンスを保つ、手洗い・うがいの励行、マスク着用などの注意事項は続く。このため、タッチレスのHMI(Human Machine Interface)向けの半導体チップも需要が増える。ジェスチャー操作を認識するためのToF(Time of Flight)センサ(レーザーと受光回路のセット)やレーダー、超音波の送信機と受信機なども必要になる。ドアやエレベータのスイッチのように不特定多数の人が利用する設備にもタッチレススイッチの需要がある。また、ジェスチャーだけではなく、スマートスピーカーに使われている音声入力も盛んになる。

テレワークに必要なパソコンやタブレット、Wi-Fiルータなどの設備の売れ行きも良い。米国では4月中旬における民生用AV機器が前年同期比で23%増加した。中でもパソコンは53%増、Chromebookは3ケタ増、マイクロフォンは2.5倍に増えたとしている。多くの人々がテレワークでつながると、今度は通信量が増えると共にクラウド需要も増えるため、データセンター向けにCPUやメモリのようなコンピュータ向け部品の需要も増えている。IntelやTSMCの売り上げは、こういったテレワーク需要を反映している。

参考資料
1. 特集コロナ戦争(10):Free Webinar「新型コロナウイルスに対して半導体企業は何ができるか Part3」 (2020/5/15)
2. Open-AirVentGT Emergency Ventilator Provides Patient Monitoring, Feedback Control、Semiconductor Digest (2020/5/1)
3. 特集コロナ戦争(4):世界中が医療支援にハイテクを提供 (2020/4/16)
4. クルマのトレンドはACESで:カーエレ展2019(前編) (2019/1/22)
5. COVID contact tracing for the workplace without smartphones, via LoRaWAN (2020/5/7)
6. センチメートルの位置精度で進化を続けるBluetooth (2020/5/13)

(2020/05/22)

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