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60GHzの1チップCMOSトランシーバを2012年に投入、民生市場に生かす

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Mark Barrett氏、マーケティング&製品バイスプレジデント、Blu Wireless Technology

英国のシリコンバレーといわれるブリストル市に、周波数60GHzのトランシーバチップを開発するベンチャーが登場した。いわゆるミリ波帯に属する60GHz周波数帯域は、壁掛けテレビ向けに圧縮しない映像を送るWirelessHDシステムや、近距離通信などの応用が期待されている。ベンチャーの狙いをBlu Wireless Technology社のMark Barrett氏に聞いた。

Blu Wireless Technology社 Mark Barrett氏


Q(セミコンポータル編集長 津田建二):なぜ今、60GHzの通信システム向けの半導体ベンチャーを設立されたのでしょうか?
A(ブルーワイヤレステクノロジ社マーケティング&製品デフィニション担当バイスプレジデント マーク・バレット氏):会社を設立したのは2009年の2月です。5月から企業活動を始めました。起業したのはCEOのRay McConnel氏で、彼は60GHz通信には新しい応用が開けると信じています。彼に誘われて、ワイヤレスコンシューマー市場を検討しました。特に、NMI(National Microelectronics Institute)が主催するセミナーを聞いてその思いを一層強くしました。
 60GHzという高い周波数ではGbpsクラスのデータ通信が可能になります。市場としては日本を中心にWirelessHDコンソシアムがあり、圧縮しないストリーミング映像を流す応用がこれから始まります。また技術的には参入障壁の非常に高い技術が要求されます。無線技術を持っていなければ参入できない市場なのです。
 私は長年Wi-FiやBluetooth、3G携帯などワイヤレス技術と信号処理技術の専門家ですので、RFとモデム技術には自信があります。

Q:60GHzのようなミリ波となると、軍事用や宇宙仕様など、特殊な市場しかないのではありませんか?
A:実はこの市場は今大きく動いています。日本のWirelessHDコンソシアムは第1世代の60GHz帯市場です。米SiBeam社がチップを提供し、パナソニックなどの日本のメーカーが壁掛けテレビ用のストリーミングビデオを流しながらテレビを見るという用途向けにセットを開発中です。
 WirelessHDでは60GHz動作、データレート4Gbpsなら15〜20メートルの距離を電波が飛びます。もし自動車の衝突防止レーダーに使うとすると、バンド幅をもっと狭くし、分解能をあげ到達距離を100メートルくらいに伸ばすことはできます。
 この5月にはインテルとノキアによって、WiGig Allianceが作られました。これはパソコンからネットブック、携帯電話、PMP(パーソナルメディアプレイヤー)など民生製品までIPベースで、高速データのやり取りができるようにしようというものです。すでに半導体IDMメーカーやPCメーカー、家電メーカー、モバイル機器メーカーなど現時点で15社以上が参加しております。その中には上記以外にマイクロソフトやブロードコムなども含まれます。データレートは1Gbpsから6.7Gbpsくらいまでカバーします。
 さらに、IEEE802.11adという標準仕様を60GHzのアプリケーションに向け、Wi-Fi Allianceが中心になって策定作業に入ります。Wi-Fi Allianceのロードマップに60GHzのアプリケーションが含まれています。具体的にはビデオや高速スループット応用をサポートするような新しい物理層の規定を2012年までに決めようという目標があります。
民生市場を見ていると、Wi-Fi製品の90%が今や民生品です。データレートが100Mbps以上の802.11nは2009年のWi-Fiチップセットの45%が802.11nをサポートしています。消費者はバンド幅のもっと広いWi-Fiを求めます。それが802.11nなのです。

Q: WirelessHD以外には60GHzでどのような応用がありますか?
A:日本市場だと、通勤電車の中で過ごすことが多く、リラックスしてビデオや地デジを見ている人がいます。もし、60GHzトランシーバ付きの携帯型メディアプレイヤーを持っていれば、電車のなかで昨夜のテレビ番組を見ることができます。家庭にいるときにテレビ番組をダウンロードしておけばいいのです。しかし、ダウンロードに数十分もかかるようでは使い物になりません。圧縮せずに256Gバイトの映像をダウンロードするのに5GbpsのWiGigなら7分でできます。1Gbpsなら30分かかりますが。
 一方で、30GBのブルーレイ映画なら1Gbpsでも4分、WiGigなら30秒でダウンロードできます。無線でテレビの番組に同期して録画できるようにしておくと、短時間で映画をダウンロードできます。これを私たちは、Sync-and-Go(シンクアンドゴー)と呼びます。

Q:60GHz市場に向けて、これまでの製品と比べて、どのような特長のある製品を設計されますか?
A: わがBlu Wireless社は、1チップソリューションをターゲットにします。これは、Bluetoothのリーダーになった英国CSR(Cambridge Silicon Radio)社のような戦略です。当初、CSRはBluetoothシステムがマルチチップだった時、4年後に1チップにすると宣言し、その通りになりました。わが社は60GHzでのCSRになりたいと思っています。60GHz応用では今はまだマルチチップソリューションだからです。
 
Q:1チップソリューションの特長は何ですか?
A:特長は3つあります。RF回路とモデム回路を1チップにするだけではなく、パッケージの表面にフェーズドアレイアンテナを設けています。アンテナからマイクロストリップラインを通して、ウェーハバンプにつなげることで、チップとの間をつなぐことができます。これによってユーザーにとって低コストと低消費電力化を図れます。
次に、低い消費電力で高速のデータレートを処理できる高性能のプロセッサを集積しています。例えばOFDM方式で4~6Gbpsのデータレートで送受信できます。
3番目は、ミリ波やマイクロ波設計の経験豊かな人材がそろっていますので、60GHzの実証済みのテクノロジが使えることです。例えば、アンプやPLL、パワーアンプなど60GHzで使える回路技術です。


Blu Wireless : BW60x Architecture


Q:製品のイメージを教えてくれますか?
A:上の図が最初の製品BW60xのアーキテクチャです。ソフトウエアレイヤーはLinuxあるいはWindowsのドライバや、DSPのアルゴリズムや制御用のソフトウエアがあります。ハードウエアレイヤーには、40nmプロセスのCMOS回路とアンテナパッケージがあります。CMOS回路はPCI ExpressとのインターフェースやI/Oブロック、DSP、RF回路、MAC回路などからなります。
 40nm CMOSは、トランジスタのfT(遮断周波数)が200~250GHzくらいになり、60GHzの応用にはぴったりです。fTはゲインが1になる時の周波数ですから、動作周波数はもちろんそれよりずっと低い値です。
 デバイスは2品種を用意します。BW601はWirelessHDへの応用を狙ったもので、アンテナが大きくゲインを増加させています。消費電力は最大3W以下を狙います。もう一つのBW602はアンテナは小さいのですが低消費電力、低コストの製品です。消費電力は最大で0.75〜1Wです。Bluetoothの低消費電力版と同じですが、デューティ比を下げることで消費電力を下げています。
 フェーズドアレイアンテナの設計では、パッケージ表面に受信と送信の2種類のアンテナを設けます。フェーズドアレイアンテナは、小さなアンテナを多数並べたもので、それらが個々にアンプとつながり、電波を合成し、増幅します。集積しやすいCMOS技術とフェーズドアレイ技術とは相性がよくパワーを集めるのに適しています。


Blu Wireless Road Map


Q:現在の状況を教えてください。
A:今は初期段階で、製品のデフィニションとアーキテクチャの設計、無線特性の解析などを行い、RF回路を開発しているところです。2011年にテストチップを完成させ、2012年初めのCES(コンシューマエレクトロニクスショー)で展示し、同じ年に量産に入ります。
 Blu Wirelessは2009年2月に設立したばかりの出来立てほやほやです。5月から活動を始め、今はやっと10名くらいになりました。日本企業がこの技術を使ってオーディオ、ビデオ、モバイルといった機器を設計すると優れた機器ができます。日本市場のマーケティングはこれから話をしていくところです。
 本社がある英国ブリストルでは大学発ベンチャー育成の仕組みができており、SETsquaredと呼ばれる産学ベンチャー組織があります。Blu Wirelessもこの組織を利用して誕生しました。英国はRFやワイヤレスの経験が豊富な人材がそろっていますので、私たちの強みになっています。

(2009/08/04)

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