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RD20:運営と脱炭素研究を手掛ける〜ゼロエミッション国際共同研究センター

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カーボンニュートラルを達成するため研究開発の国際的な枠組みであるRD20(Research and Development for clean energy technologies)の運営の主体は、産業技術総合研究所のゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)である(参考資料12345)。2020年1月設立、センター長に就任した吉野彰博士は、2019年にノーベル化学賞を受賞したことでも知られる。GZRは、RD20を運営すると共に、カーボンニュートラルに向けた研究にも積極的に取り組んでいる。GZRを指揮するセンター長の吉野彰博士に今年のRD20への方針を聞いた。

産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長 吉野彰博士

図1 産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長 吉野彰博士


吉野彰博士(図1)は、リチウムイオン電池の開発で有名な科学者で、ノーベル化学賞の受賞理由は実は二つあるという。一つはリチウムイオン電池が現在のモバイルIT社会の実現に貢献したことであり、もう一つはこれからのサステナブル社会の実現に貢献することを期待するということである。リチウムイオン電池が電気自動車のバッテリに使われ始め、カーボンニュートラルを実現する技術の一つになった。電気自動車は走行中にCO2を出さない輸送手段である。リチウムイオン電池はさらに進んで、家庭やビルの蓄電池として、電力の負荷平準化にも貢献するようになった。これは再生可能エネルギー電力の導入支援になる。


吉野センター長とGZRのスタッフ

図2 吉野センター長とGZRのスタッフ


GZRのセンター長に就任後、ほぼ1年後の2021年4月に研究施設が新しくなり、共同研究センターとしての体制が整った(図2)、と吉野博士は語る。ゼロエミッションやカーボンニュートラルの研究は、工業技術院の時代から産総研の中でいろいろな研究が行われてきたが、GZRではそれらを集約し、新しいテーマも含めて10の研究チームが出来上がっている。2022年9月時点で313名のスタッフがここで働く(図3)。


吉野センター長と、つくば西事業所のGZRメンバーの研究者たち

図3 吉野センター長と、つくば西事業所のGZRメンバーの研究者たち


主な研究テーマは三つ

カーボンニュートラルに向けた研究をまとめると、大きく3つに集約できる。一つは、再生可能エネルギーから電気を生み出すための技術開発である。GZRで取り組むペロブスカイト太陽電池のような新型太陽電池はその代表的な研究事例だ。

二つ目は、再生可能エネルギー技術で生み出した二次エネルギーを輸送可能な形に変換する技術である。最適地で生み出したエネルギーを消費地まで輸送するための技術といえる。その候補として挙げられているのが、水素、アンモニアや合成燃料だ。GZRでもこの三つを検討している。輸送に際しては、水素の液化技術がまずある。また、アンモニア(NH3)の形にする技術もあるが、ここでは水素と窒素を反応させる際の触媒が重要になる。水素とCO2からアルコールを作る場合には触媒がカギを握ることになる。古い技術だが、安く作るための触媒の開発が重要だ。触媒研究はここ数十年間、あまり手掛けられていなかったという。しかし今ではマテリアルインフォマティックスを使って、触媒材料の候補を絞り込むことができるようになっている。

そして三番目の研究テーマは、ネガティブエミッション技術である。これは、大気中のCO2を捕まえよう、という技術で、この2~3年の間に注目が高まっている技術だという。具体的には一つは光合成で、植物は大気中のCO2を捉えるという働きをしているが、この効率は低いので、もっと効率を上げようという研究になる。例えば植物はCO2を吸収している訳だが、ゲノム編集によってもっと吸収効率を上げることが期待されている。太陽電池の効率は20%程度のモノもあるが、植物だとまだ1%未満だろうという。

将来的にはカーボンプライシングという、CO2を出すとコストを払わなければならないような仕組みが導入されることになる。植物はCO2を吸収して酸素を出す訳だから、その機能を高めれば収入が増えビジネスになりうると見る。

植物と共にもう一つの候補は天然鉱物。CO2を吸収する玄武岩は地中にまだ大量に残っている。玄武岩に含まれるCa(カルシウム)やMg(マグネシウム)などとCO2が反応してCO2を固定化することができる。


キーワードは国際と共同

GZRセンターのもう一つの役割は、名称にある「ゼロエミッション国際共同研究センター」の「国際」と「共同」がキーワードになっていること。国際ではRD20業務がこれに当たる。カーボンニュートラルは日本だけの問題ではなく、グローバルな活動であるゆえにRD20は、国際的な情報交換の場となっている。すでに多くの国際共同研究に発展してきており、発足以来、RD20参加機関とは12のテーマで共同研究を行ってきたという。高効率太陽電池の開発と評価技術などがその一例である。

共同に関しては、研究+開発+社会実装、を進めていくこと。社会実装にも力を入れるため、東京湾岸ゼロエミッション協議会(図4)を組織化し、大学、研究機関、企業に、カーボンニュートラルを一緒に進めていこうと呼び掛けた。現在産業界を中心に130団体以上が集まる組織になっているという。基本的な業務は、広報と情報共有、会員同士の意見交換であり、そのための研究会などを開催している。会員同士の中で新しいプロジェクトの発足や、そこからの新しい技術開発につながることを吉野博士は期待している。

Zero-emission Bay / GZR AIST

図4 東京湾岸ゼロエミッション協議会のメンバーを模式的に表現した


2022年のRD20は、主に三つのセッションがある。一つはリーダーズセッションで各国の研究機関のトップが集まる。もう一つは、昨年のリーダーズステートメントを受けて、参加機関の間の具体的な国際連携を推進するために、今年企画された国際連携ワークショップである。三つ目はテクニカルセッションで、ここでは技術を議論する。今決まっているテーマは、水素のLCA(ライフサイクル評価)や経済性の議論、再生可能エネルギー発電の電力とキャリアのインテグレーション、そしてカーボンマネージメントで、CO2を固定したりリサイクルを進めたりするなどの技術である。

RD20の活動を通して、地球規模で協力して進めていくカーボンニュートラルへの道は、着実に開けていくに違いない。

参考資料
1. 「今年のRD20、『国際連携の具体的テーマを決めたい』」、セミコンポータル (2022/06/24)
2. 「RD20:会議から一歩進んでイニシアティブへ〜経済産業省」、セミコンポータル (2022/08/24)
3. 「RD20:水素の影響を共通評価、国際協力へのカギとなる〜仏CEA-Liten」、セミコンポータル (2022/08/30)
4. 「RD20:バイオ燃料、バイオ水素で環境対応していくインド〜TERI」、セミコンポータル (2022/09/09)
5. 「RD20:水素推進のための規制作りとLCA分析が重要〜Fraunhofer ISE」、セミコンポータル (2022/9/15)

(2022/10/03)

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