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米国のDXとメガコンステレーション構想(3)新規ビジネスを生み出す宇宙行政

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宇宙にある衛星のトラフィック量を管理する行政部門の設置を米国商務省が提案している。ここに新規ビジネスの可能性がある。不用になった衛星の回収サービスである。日本も衛星回収を考えているようだが、ビジネスとしては未だ捉えていない。日本がビジネスとして捉えれば日米のコラボレーションがここでもありうる可能性が出てきた。
(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司、ITTA R. Shield

DX (Digital Transformation) and Mega Constellation in USA (2)


The article reports the difference of the present space business such as the satellite movie business and the mega constellation business. Mega constellation business requires more than 10,000 satellites on LEO (Low Earth Orbit) during the following several years. However, there are many satellites with the important missions such as ISS (International Satellite Station), Landsat for remote sensing, and the weather satellites already have stayed on LEO. CRS reports have concerned the serious congestion by many satellites and their debris in the space. The reports and authorities address the necessity of the traffic management for the sustainability in the space.

前川耕司、Koji Maekawa、AEC/APC ( Advanced Equipment Control/Advanced Process Control) Japan, Advisor, およびロバート・シールド, R. Shield著、ITTA (International Trade and Technology Association), Sr. Manager, Science, Space, and Technology strategyより引用

宇宙行政への提案

CRSレポートは、DXが進行すればインフラビジネスが増加して、宇宙関連事業が儲かるという観測をあっけらかんと述べている。同時に、衛星軌道の混雑、衛星の多数の持ち主とその国籍、正体を掴みにくいデブリ等々をぼやいている。

ロバート・シールドは、2020年1月以降引き続き起きてきたことを、追っていた。以下、長くなるが、ITTM、ロバート・シールドの分析より引用する。「」は引用。

「混雑の問題が進行するにつれ、米国内ではSTM(Space Traffic Management:宇宙交通管理)の必要性が語り始められた。このような種々の懸念は、SSA(Space Situation Awareness)なる言葉で表現されている。しかし、米国行政機関の中で、SSAを専門に取り扱う期間は、いまだに存在しなかった。この現状を踏まえて、2020年6月18日、トランプ政権はSPD-3 (Space Policy Directive-3: 宇宙政策指令-3)を発令して、US Commerce Department (米国商務省)が、STMを主導することを発表している」。


図3-1 米国商務省、出典:連邦政府許可済み。ITTAよりの許可を得て使用

図3-1 米国商務省、出典:連邦政府許可済み。ITTAよりの許可を得て使用


「米国商務省傘下のOSC(Office of Space Commerce, 宇宙商務局と訳す)は、以前より、OADR(Open Architecture Data Repository)なるアーキテクチャを開発していた。OSCは、2020年10月27日付けで、OADRの概要を公表している。このアーキテクチャの目指すものは、SSAに関わるデータのプラットフォーム化だ。このプラットフォームは、オープンアーキテクチャであり、情報の共有が可能である」(図3-2)。


Industry Day for SPD3: Open Architecture Data Repository

図3-2  OSCの発表 出典:NDAA Satellite and Information service, www.space.commerce.govより引用


米国主導のグローバルなSTM(宇宙交通管理)体制を敷くための布石と考えられなくもない。米国による、宇宙の覇権競争だと一言ありそうなところか。現実は、簡単には進まない。新しい試みの、はじめの一歩は予算の獲得だ。連邦政府の行政に関わる予算の承認は、法案の議論とともに連邦議会の仕事だ。連邦政府のお役人は、議会の議員先生方を口説かなくてはならない。

「OSCはSTM関連の2020年度の予算を総額で1,500万ドル(約17億円)を、連邦議会に申請した。この規模の事業の予算としては、そう多額のものではない」。

議会の議事の進行には、いろいろな思惑が絡み、時間がかかる。どこの国でも同じかもしれない。ロバートの読みは当たっていた。「連邦議会内での議論は、どの行政機関がこのような事業を担当するのが最も適切であるか、という点から始まった。この件に関して、議会はさらなる調査を要求している。OSCの予算要求を受け入れる条件として、NAPA(National Academy of Public Administration)による委託調査である。NAPAは、2020年10月、OSC(宇宙商務省)がSTM(宇宙交通管理)を推進するのには、最適な行政機関であり、予算とその権限につき議会の速やかな承認を促す旨の報告をしている」。

2020年大統領選挙の中、連邦議会は予算承認を年内に終える見通しを持っていない、とロバートは観察していた。彼の分析によるシナリオは、「連邦議会は1,500万ドルの予算をさらに増額して2021年度の予算として承認する。その代償として、OSCがSTM体制に関する正式な行政機関として認められるための法律を制定する」というものだ。米国連邦議会内部の奥深い動きや駆け引きなど、外国人である私にはわかるはずもない。

新規ビジネスを生み出す米国宇宙行政

米国宇宙行政の将来の方向性をロバートに聞いてみた。「米国政府のSTMに関する基本的な姿勢は、パートナーシップの一言で言い尽くされる。米国だけの独りよがり的な観点では、取り扱うことのできない命題だとの認識は、出来上がっている。特に、デブリのコントロールは、近い将来の重要問題だ。米国では、LeoLabs社のような、LEOのデブリ追跡を専門に行う会社もできている。また、追跡のみならず、デブリや不用になった衛星、ロケットをLEOより取り除くサービスも始まろうとしている。東京に本社を置くAstroscale社は、JAXAとの技術提携のもと、デブリや不要になった衛星の回収サービスをビジネスとして提供している。米国政府も、同じようなビジネスが米国内で始まるとの見解を持っている」。

「不用になった衛星の回収サービス」とは、いい点をついたビジネスではないか。有人衛星の打ち上げは、国威掲揚という面もあり華やかだ。大国は、みんな手を出したがる。しかし、無人衛星技術を使った不用衛星•デブリの回収というのは、実に渋い。しかし、必須のビジネスだ。技術強国であろうとする日本が得意とするビジネスではないか。日本が「はやぶさ」無人ロケットの開発で培った技術革新によってもたらされる新ビジネスとしては、いいところをついているじゃないかと、内心喝采を叫ぶ。と同時に、ITTAのようなシンクタンクが、日本の動きを結構細かく追っていることに、新鮮な驚きを覚える。

DXという技術革新の流れは、至る所で新ビジネスの創出をもたらしている。宇宙をも舞台とする高速インターネット用メガコンステレーションのような構想が、現実になろうとしている。それに伴い、STM(宇宙交通管理)という観点からの新ビジネスが始まろうとしているのだ。衛星を打ち上げるビジネスがあれば、軌道上からそれを回収して、SMTを助けるビジネスもある。米国政府がルール作りを進めるものの、STM(宇宙交通管理)に関わる現実のビジネスでは、共通のプラットフォームのもと、国境を超えた協業・競合が視野に入ってくる。日本が培った技術の活躍する場面は大きいと考える。

ロバートは、「日米両国の協調関係は、新ビジネス分野の開拓に中心的役割を演じる可能性を見る」との言葉で締めくくっている。「美しい言い方にすぎやしないかね」とロバートに言ったことがある。日米の技術革新競争の真っ只中を歩んでいる読者諸氏にとっては、人ごとのように響くかもしれない。しかし、一言であらわす場合には、ロバートのような表現になるであろう。口に出した後で、余計なことを言ったもんだと後悔した。

誇大妄想か?現実の話か?

メガコンステレーションによる、信頼性の高い安価なブロードバンドサービスは、全世界的な規模で、人々のライフスタイルの変化を加速するのではなかろうか。巨大な規模の経済的変動要因になる可能性を秘めているのではなかろうか。

バイデン大統領は、Industry 4.0に関する積極的な発言を行っている。2020年12月、バイデン氏はテレビインタビューの中で、「4th Industrial Revolution(第4次産業革命)」なる呼び名を使い、米国でのインフラストラクチャ構築への積極的な関心を述べていた。インフラというと、橋や道路という目に見えるものを思い浮かべる。しかし、DXを支えるネットワークという目に見えないインフラは、社会の中で必須となってきている。スマートシティでは、電話やラップトップだけでなく、クルマ、交通信号、さらには駐車場管理・ゴミ回収のような日々の生活に関わるサービスでさえネットワークに接続していく。このような変化は、それを使う人々のライフスタイル・考え方に変化を与えている。スマートファブでは、製造工程に関わる人間の役割を、従来とは異なるものにしている。従来とは異なるスキルセッティングが求められるのだ(参考資料1)。当然、生涯にわたるキャリア構築の方向も変わってくる。身の回りに起きている変化が、社会構造の大変化に繋がっていく様子が見えるようである。DXの概念の輪郭がはっきりと見え始めた2019年頃より、米国において始まった議論である。

私は1990年代中盤の、アル・ゴア副大統領のテレビ演説を思い起こしている。アル・ゴア氏は、「Information High-way」という呼び方を使い、インターネットインフラの構築による新たな社会作りを呼びかけたのであった。この時より、米国におけるインターネット・周辺技術による技術革新は、その後の社会構造の巨大な変化を引き起こしていったと感じている。後年、IT革命と呼ばれるようになる。今日のDXはこれらの変化の先端にあるとの認識を持つ。この間、たかが25年足らずだ。

技術革新によってもたらされる第4次産業革命なる響きは、地球規模での変化を連想させる。地球規模で進行するDXは地球規模での社会構造の変化を引き起こしていくのだろうか。私の誇大妄想で終わる話か。それとも、現実となり得る話か。この結果を見るのに25年間待つことはないだろう。筆者は、この稿を完結するにあたり、昨年の連載時に使用した言葉を、再度、引用したいと考えている。「マジシャンの帽子の中から、この次は、どんなウサギが出てくるのだろうか?この流れのいきつく先は、いまだ見えていない」(参考資料2)。

(追記)
この稿を書いていたのは、2021年1月より3月にかけての時期であった。この間に米国政権はトランプ政権よりバイデン政権に変わった。2月以降、バイデン政権は、米国インフラについて、日本円にして200兆円をこえる大胆な投資計画を発表している。本稿でも触れているが、インフラ投資というと、建物や道路という、いわゆるハコモノへの投資のみを考えがちである。見過ごすことのできない点は、情報技術革新に関わる投資である。バイデン政権は、ハイスピードブロードバンドの100%普及を計画に盛り込んでいる。さらに、ロジック半導体を含む先端半導体の米国内での製造も盛り込んだ、先端技術への積極的な投資計画も含んでいる。

2020年の大統領選挙期間中、バイデン政権の目玉はグリーンエネルギー政策と言われていて、「いまさら新鮮味を感じない。風車を多数作って、せいぜい鳥を殺すだけだ。」と皮肉る意見も多かったように思う。2月以降、次第に明らかになってきているのは、先端IT技術への過去に例を見ない大規模な投資と、それによる次世代型社会構造への転換の意図だ。Industry 4.0の実現を追いかけてきた、AEC/APC Japanの方々、ISSM Japanの方々にとっては、馴染みのある構想と思う。その視野は、今後10年以上の未来社会を睨んだ遠大なものである。 

しかし、この構想が絵に描いた餅になる可能性もある。日本でも同じだが、行政のたてた計画は、議会が予算を承認しない限り実行できない。バイデン政権は、財源を法人税の増税に求めるこの巨大な計画を今後、議会に計っていくのだ。Wall Street Journalは、一文を掲載し「バイデンの巨大な賭け」というヘッドラインを掲げている。

参考資料
1. 姿を現わしつつある米国のDX:第2部IoMとIndustry 4.0 (4) スキルの持ち方 (2020/05/27)
2. 姿を現わしつつある米国のDX:第3部APCとIndustry 4.0 (2) 国際競争 (2020/08/11)

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