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太陽経済で不況脱出を図ろう

世界中の経済環境が最悪の様相を呈している。半導体ビジネスも大きく負の影響を受けている。金融面に於ける混乱は当分続く状況にある。不要不急の消費はゼロになり、従って需要が極端に減退している。あの原油ですら暴落した。しかし、経済は循環しやがて回復する。経済の専門家によると2つの回復力が働いている。その1は各国政府の政策対応が盛んに行われていることだ。その2は価格が十分に下落すると需要が惹起される、という知られた経済原理だ。仮に1オンス800ドルしている金現物が200ドルに下がればタンス預金を持出して買う人も中にはいる。

このような時、ビジネスに於ける新しいパイを市場に持込む人々の存在は大変に貴重である。新しいパイは新しいゆえに競争がやや少ない。新しいパイの1つは、千葉商科大島田晴雄学長が唱える太陽経済であろう。経済学が専門の学長は実体経済が回復するフェーズで太陽経済の導入を説いている。それは新しいエネルギー資源の展開である。現在のエネルギーソースを石油から太陽に変えるのである。どうせ石油は枯渇する。即ち、今後40年しか持たないという説がある。その過程で供給量は底をつき価格は暴騰する。そのモーメンタムは巨大であり早い段階でこのモーメンタムを利用するべきなのだ。暴騰する価格は、1バレル$150−$200を超えるかも知れない。将来の石油価格の暴騰を想定すれば、高い石油価格に対抗する太陽経済が進めるエネルギーの開発は経済合理性を帯びて有利になる。

太陽経済の柱は、もちろんPV(Photovoltaic、註 http://www.semiconportal.com/archive/blog/insiders/oowada/post-100.html)であり、このことは半導体にとって2つの面でありがたい。一つはPVが半導体材料とその加工技術を使用するのでテーマとして親近性が高いことだ。二つ目は、PVは電力創造なので半導体利用に欠かせない資源であり相乗効果によって半導体と太陽経済が共に発展するだろうからである。

日本もドイツにならってフィードインタリフを導入して2.8倍の値段で太陽発電電力を電力会社が買上げる仕組みを法制化すべきであろう。太陽光発電が家庭に導入され、ユーザーの損益分岐点であるグリッドパリティが10年程で実現するのだから普及は確実である。事実ドイツはPVの普及でこれまで日本に負けていたのにもかかわらず、この法制で普及率に於いて日本を負かしてしまった。我が政府が出来る重要な施策である。

太陽経済の第一の道はPVのような新しいエネルギーの創造であり、第二の道はハイブリッド車のようにエネルギー源を二つ以上使う新しい機器の開発、そして第三の道は機器の効率を格段に改善する手法である。米週刊誌タイムの記者Michael Grundwald 氏は、本年1月12日号の同誌の記事で主張し解説しているが、ここではそれを効率ブースターと呼ぶことにする。

効率ブースターの考え方は二つある。
1) エネルギー効率の良いツールを使用する
2) エネルギー的に生産性を上げた使い方をする
である。

例を挙げよう。半導体インバータを備える日本の冷蔵庫は効率が最も高い。それに比べ今の他国産の冷蔵庫は数こそ多いが、インバータを欠き効率が悪く、例えば日本製の3分の1といわれる。即ち冷蔵庫が消費する電力は3対1で日本製が少ないのである。十分に冷えた冷蔵庫はアイドル状態で電力をほとんど消費しない。ドア開閉や長時間アイドル後に庫内温度が上がると稼動し温度が下がれば再びアイドル状態に戻る。高効率の日本の冷蔵庫は長時間アイドル下にあり他の冷蔵庫は実稼動時間が長い。

もう一つの例は、LED照明だ。今こそ世界レベルで普及を加速させ消費を増やすことで経済は活性化する。

2)の例はエスカレータだろう。利用者がいない時にエスカレータを空回り運転させずにセンサーと組み合わせた半導体回路を使って人を検知しエスカレータを止める。

冷蔵庫やエスカレータなどは一例に過ぎず、実は対象機器は山ほどあって鉄道やバス、冷暖房などテーマはおびただしい数に上る。効率ブースターの考え方に従って省エネを図り経済を活性化させることができよう。日本はこのコースは卒業したからやらない、というべきでなく海外に技術を援助することで地球環境に貢献すべきだ。有償でやる仕組みを考えてWin-Winで走ることができるに違いない。日本の技術とそれに伴う日本の半導体ビジネスをこうして活性化させ、かつ太陽経済を発展させるべきだ。

太陽経済の展開は我が国に於いて70年代の石油危機の経験がヒントになる。中東産の石油に依存する程度が大きかった日本は深刻な打撃を克服し80年代の繁栄につなげた。それでも、今の危機は大きく厳しい。だが、何もしないで嵐が過ぎ去るのを待つのは解ではない。太陽経済のようなイノベーションに挑戦すべきなのだ。歴史を学べば世界には駅馬車を見限って鉄道を敷設した事業家がいた。どちらが成功したかを学ぶべきだろう。

太陽経済が視野に入れているのは、風力発電、地熱発電、潮力発電あるいはバイオマスのエネルギー化も石油の枯渇が見えて来る近い将来、上述したように経済的に有利に働く。半導体並びにその応用技術分野で優れた日本の産官学は、政治主導のもとに太陽経済の実現に向けて道を開くべきであろう。PVは半導体を中心に構築する発電装置であるし風力発電、地熱発電、潮力発電など全て発電で得る電力はエレクトロニクスの力で処理することを考えれば、半導体のパイが増えることは間違いない。太陽経済の力強い進展を期待している。 


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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