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ものづくり白書と一体で進む我が国製造業の進展

成長戦略を進めていた安倍総理のリーダーシップのもと、新聞各紙によると「ものづくり白書」がこの6月9日に閣議決定された。これはもちろん、製造業を振興させることを目指すものだが、半導体産業がその中核を形成することは言うまでもない。

政府は産業競争力会議も押し進めているが、ロボット活用や自動運転技術の確立も次世代インフラ整備の工程表に入る模様だが、これも「ものづくり」を包含するプログラムだ。経済産業省は厚生労働省と文部科学省と共に「ものづくり基盤技術の振興策」を発表した。関連して、「生産性革命」の取り組みがカギになるとし、生産性向上を目的とした設備や技術、人材に対する投資の広がりが重要との基本方針を発表した。読売新聞6月23日朝刊によると、政府は日本再興戦略素案も発表し、民間が人材育成やITに関わる投資を増やすように呼びかけた。

本稿では、上述した白書、産業競争力会議、ものづくり基盤、生産性革命、更に再興戦略素案を仮に5点セット呼ぶことにする。政府はこの5点セットを含め、あらゆる機会を捉えて成長戦略を進めるかのように見える。5点セットは全てものづくりでもたらされる経済成長を目玉に置くものであって、一つ成功すれば他も連動して成功することになり、一つが失敗すれば他も失敗になるだろう。したがって、一つ一つを議論するのではなく全体を俯瞰して、ものづくり中心の成長戦略を議論したいと思う。

なぜ、政府はこのような方針を謳い上げ、国民に知らしめるのか?筆者が思うところでは我が国の成長停滞を指摘しないわけには行かない。実質GDPを見てみると、2014年は、527.0兆円だったが、20年前の1994年は455.4兆円で、その増分は71.6兆円だ。したがってCAGRによる累積効果を含めた年間の平均の伸びは、0.0073となるので年間の平均伸長率は、1%以下の0.73%と大変低い。

我が国は成熟の極みにある。同じ成熟国と考えられる我が国より大きな米国と小さな英国も調べてみた。過去20年のCAGR計算の結果は下記の表に示す通りだ。

過去20年のCAGR


比較のために3国の2014年のGDPを全て兆円で示すと日本、米国、英国(UK)の順にそれぞれ、527、1,979、326であって成長率は上記の通りで米英日の順番である。結論はGDPの多寡を問わず、上記の3成熟国中で我が国の成長率が最も低い。この成長停滞を解決しなければ我が国の将来は暗い。従って政府が一体となり5点セットを推進するのはむしろ遅きに失する感がないでもないのだ。

さてNECは6月16日に「NEC Industrial IoT」と称するサービスを提供するとそのホームページで公表した(参考資料1)。IoTとは最近の流行語となったInternet of Thingsで、その内容はあらゆるモノのデジタル化、ビッグデータ分析を進めることを意味する。これで顧客の製造業における生産性向上やコスト削減、省力化を図るのだ。上記の政府5点セットに沿うサービスであろう。

筆者が興味を持ったのは、製品や部品ごとの表面の微細な紋様を基に、モノの識別用タグ不要で製品の個体識別を実現する「物体指紋認証技術」を活用した「個体認証トレーサビリティシステム」のサービスだ。これでトレーサビリティにおける厄介なタグ生成のためのマーキング作業が必要なくなる。

筆者の経験では、半導体チップでトレーサビリティを実施する上で最難関な問題として、タグのためにチップのべベルに2次元ドットを書込むなどの作業で苦労した。この作業が省略できるようになる。なぜなら、チップにはスクライブ線があるが、このパターンは全て同じにならずに個々に異なる故にその模様をデジタル的に記憶しタグの代用にすればID化が図られ、これを基にデータをひも付することができるからだ。結果としてコストが下がり、チップのトレーサビリティの広い実用化が大きく進むことが期待される。

製造業における生産性向上やコスト削減、省力化を図る上でIoTが果たす役割は大きいが、日立オートモティブシステムズは7月3日にニュースリリースを発表し、IoTに対応した半導体ひずみセンサの量産を開始した(参考資料2)。同社では、機械、医療、建築・土木分野において産学と共同でひずみセンサの応用研究に着手していたが、このセンサ技術をコアとして、日本の産業競争力の強化を図る。車載をはじめ、電力システム、建設機械、産業機器、医療機器、インフラ設備などにひずみセンサを設置し、あらゆるモノ(機器)をネットワークでつなぐことで、ソリューションサービスへの適用を目指すとしている。

わかりやすい事例にはひずみセンサを応用したトルクセンサがある。これを電動アシスト自転車に応用してペダルのシャフトに発生するトルクを計測し、モーター駆動を最適化する機構を実用化した。電動アシストはスムーズになり乗り心地も改善されている。これ等の技術領域は半導体ランキングでトップ3を走る世界の半導体製造会社が余り注目していないようだが、我が国では独自の進展を期待したいものである。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

参考資料
1. IoTを活用した次世代ものづくりソリューション
2. IoTに対応した半導体ひずみセンサーの量産

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