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iPhone 6、iPhone 6 Plus発売の波紋

米Apple社は9月19日に、iPhone新型機6および6 Plusを日米などの主要国で発売した。この新型機6などの発売については、早速セミコンポータルに紹介記事(参考資料1)が出ているが、本稿では別の面も見て行くことにしたい。

ニューヨーク発AP電では発売直後、最初の24時間で合計400万台の注文があり、大記録になったと伝えられ、売り上げのスタートは好調だった。時事通信ワシントン発の記事は初の週末、3日間の集計で1000万台を越えたと伝えている。この状況でApple社は増産計画を立てたに違いない。

Appleは最重要部品である半導体をTSMCに発注していた模様だ。10月3日の日経朝刊には、TSMCが半導体技術者を大量採用する旨の記事が出た。その数や2,200人だ。筆者が新入社員として初めての就職で採用された同期生は、理系文系男女合わせて大学卒350人だった。比較すべきではないにしても2,200人は驚くべき数字だ。記事によればこの数字はTSMCの約4万人の社員数のおよそ6%だと言う。この人たちが担うのはスマホ向けなど、先端半導体の微細化技術の開発だ。スマホのおかげで業界が潤い、半導体のエンジニアがもてはやされ、その求人が増えるのは大歓迎である。

新型機のたくさんの目玉の内の一つはApple Payで、これは支払いを決済する機能だ。だが最初は米国のみで使えるとのことだ。即ち、本年の秋から米国のマクドナルドやおもちゃ屋のトイザラスなど、全米22万店で使えるようにすると言われている。日本ではおサイフケータイ(以下、おサイフと略す)が2004年に導入済であり、既にガラケーでもスマホでも広く普及している。我国の支払決済アプリでの先進性は、誠に大きく議論の余地はない。

Apple Payはハードウェアもソフトウェアもおサイフケータイとは別物として開発されたものだ。Apple社としてはおサイフ機能の技術導入の道を選ばずに開発費を独自に使い導入時期も発売時には間に合わなかった。もちろん、Apple社としてはApple Payを広く世界で使用できるようにしたいのだろうから、日本国内でのみ使えるおサイフは採用しないことにしたのだろう。おサイフはソニーが開発したFeliCa技術によるものだが、これはJR東日本のSuicaカード等で国内では広く普及している。Apple Payの技術は、Type A/Bと称するNFC(近距離無線通信)なのでFeliCaと互換性はない(編集室注1)。

「iPhone 6はおサイフ機能を使えないか?」と、考えた筆者はNTTドコモに驚かされた。なぜか?意外にもドコモは、iPhone 6向けに「おサイフケータイジャケット01」を開発して、この10月から売り出すと10月4日の日本経済新聞は伝えた。スゴイことになっている!iPhone 6という売れ筋のスマホで、2,000人規模の半導体技術者を採用する企業が出る一方で、通信オペレータからはジャケット01の名の元にアクセサリとしてのケースが開発され売り出されるのだ。ドコモはiPhone 6の通信オペレータとしても知られているので、この決断をしたのだろう。ただし、ジャケット01は海外では使えない。

フィナンシャルオンラインのヒルスベルグ(以下全て敬称略)は、iPhone 6の製造に関わるインサイド(参考資料2)を明かし、コストで見た貢献度ランキングを発表した。それによると組立を行う中国がダントツだが、2位が日本、3位は米国であった。このランキングトップ10に入った残りの地域は、台湾、韓国、マレーシア、フィリッピン、タイ、シンガポールそしてドイツとなっている。だが驚くべきは、リストが長く、世界31地域にも及ぶ。モロッコ王国や地中海のマルタ共和国もリストに在って、低コストを求めて想像を絶する調達をApple社は行っているのだ。

Yukari Iwatani Kaneは、原書Haunted Empire(米HarperCollins出版)を、この3月に発表した(参考資料3)。追って邦訳が日経BP社から出されたが、その題名は、「沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、Appleは偉大な企業でいられるのか」と言うものだ。著者は日本語表示でケイン岩谷ゆかりである。岩谷は1974年東京生まれの江戸っ子だ。父に付いてシカゴ、ニュージャージ、東京、メリーランド州を転校し米ジョージタウン大外交学部卒、そして三年生の時に上智大に留学した異色のジャーナリストだ。ウォールストリートジャーナルでAppleの担当記者を務めた。

iPhone 6の成功が確定しつつあるので、この本に疑問を呈する向きもある。もちろん、CEOのティム・クックはHaunted Empireは「ナンセンス」だとして相手にしない(参考資料4)。ティム・クックはジョブズが自ら社内を見渡し選んだ経営者だ。Apple社の勢いは止まらないようだ。いつまで続くか、その行く方が多いに注目される。

参考資料
1. Apple iPhone 6 & 6 Plusの明かされる中身と市場インパクト (2014/09/29)
2. Alex Hillsberg 「iPhoneは米国にて設計され中国で組立てられ、部品は世界から
3. Haunted Empire(邦訳:沈みゆく帝国)
4. 「Apple CEO、ティム・クック曰く:『Haunted Empire』はナンセンス

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

編集室注
1. FeliCaもNFC規格の一つになっている。ただし、AppleのNFC仕様とは互換性はないと思われる。

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