FinFETの量産の困難な壁を乗越えなくては次に進まない
世界の一部の先進半導体メーカーはFinFETの大きな製造上の問題に挑戦している。理由はプレーナ型の従来CMOSでは、そのゲート-ドレイン間の電界集中部で発生するリーク電流が過大なのに、FinFETはそのリーク電流が微小であって、微細化される次世代デバイスは、FinFETが担うとの共通認識が拡がっているからだ。このデバイスに関してはセミコンポータルに筆者も紹介記事を投稿している(参考資料1)。
FinFETの製造は一筋縄では行かないことが経験から見えている。以下にやや詳しく述べるが、特に最近は14/16nmの壁にぶつかっている。製造プロセスは微妙で、歩留まりが上がらないが、それだけに留まらない。回路設計、パターンレイアウトが、経験不足などのせいか難しく、再設計や再レイアウトが多く発生し、失敗や試行錯誤を繰り返している。こうして得られる多くのノウハウを蓄積している段階なのだろう。失敗と試行錯誤の結果得られるノウハウを使いFinFET量産のジャングルを進んでいる様に感ずる。すなわち、問題が多発していて歩留まりが低く、担当エンジニアはまるでジャングルを進むように苦労して問題を探り解決への努力をしている。そして一段上のノードに昇る。新しいノードでも同じ様ないくつもの問題を解決しつつ、量産上の種々の問題を、怪我に例えるなら薄紙を剥ぐように少しずつ進む。その様にしてノードも進み、あるレベルの歩留まりを保つ努力をしながら、精一杯の状態で前進している。
今、挑戦しているのはIntelでありGlobalFoundries、そしてアジアのTSMCとSamsungである。ただうれしいことに東芝はこの苦戦を乗越えて、19 nmノードでフラッシュメモリーの製造を始めていて量産技術の高さを誇っている(参考資料2、3)。この東芝の成果については、後にやや詳しく述べるつもりだ。
上にも述べたがFinFETはリーク電流が低いため、次世代のデバイスとして最右翼のポジションにある。ただ、この6月現在でも歩留まりは決して高くないようだ。詳しい事情は極秘なのだが、一時はlow-k 絶縁膜と組み合わせるCu配線層が問題だったようだ。それを解決しても次のノードに行くと再び同じ問題が発生した。その後、ノードが進み30 nmになっても同じ問題がしつこく浮上した。従ってFinFETをムーアの法則に載せて進めるために昔のように1世代2年で進まずもっと時間がかかる傾向だ。同社はFinFETでリークが減りパワー消費に余裕が出たそのボーナスを活用し、一方でCPUの周波数をもう一段上げるべく検討をしている旨を友人は、この6月に教えてくれた。
もちろんFinFETといえども、発熱するのでチップ上のローカルな温度が高まる。CPUは25度で動作するのはもちろん、室温40度でも動作する必要がある。その時チップのホットスポットでは更なる昇温があるはずだ。
だがFinFETの低コスト化を阻むこれらの壁も、半導体発展の過去がそうであった様に、必ず解決されるだろうと先進企業のリーダー達は考えているはずだ。その知恵の一つが下記に論ずる「Fabsynch」と呼ばれる手法だ。14 nmノードの量産化にこの様な困難を極めるのを認識したGlobalFoundriesとSamsungは、4月17日のプレス発表で協調体制を引いた旨を発表した(参考資料4)。その中身は、ある情報ソースによると、互いに2つのファブを決めて、合計4つのファブでFinFETロットの試作を進めて共同で且つ横断的に試作結果などの内容を検討するものだ。ロット試作に当たり独自色を排除するために共通の仕様を決めた。その仕様をPDK (Process Design Kit)と称する。試作に使うウェーハ材料の仕様、試作工程の細かい具体的な仕様など、全て同一条件で試作ロットを流す。もちろん、フォトマスクは同じデザインにしており、違うのはファブだけだ。Samsungはテキサス州オースティンと韓国にあるファブをあてがい、GlobalFoundriesはニューヨーク州マルタと未発表のもう一つのファブを決めている。両社は、「来年3月までに結論を出す」としている。20世紀にはやったセカンドソースの供給体制を復活させる意図があるのだろう。21世紀の今は、Fabsynchと言う新語を使うが、内容はセカンドソースだ(参考資料4)。Synchは英語のシンクロナイズ、即ち同期の意味である。
東芝のFinFETはダークホースだ。2007年に東芝レビューに3D FinFETの試作を公表している(参考資料2)。そして2012年12月には19 nmノードでNANDフラッシュメモリーを開発してレベルの高い論文にまとめて公表した(参考資料3)。ただし、このデバイスがFinFETであるかどうかは不明で外部からは知るよしもない。東芝の四日市工場は東京ドームを約10棟並べた規模だが、新建屋、第5棟が、予定ではそろそろ完成する。このファブは改良型19 nmの量産はもちろん、肩を並べて改良・開発作業も進める上で強力な戦力になる。過去の経験からも同じ現場で行う量産と開発のスピードは正に世界最速だ、とトップは語る。新改良技術の垂直立ち上げは文字通り垂直に進むはずだ。
雑誌財界は東芝がこの4月に15 nmのフラッシュメモリーの量産を開始したと報じた(参考資料5)。上述の19 nmを今や一段と前進させて15 nmまで進めた。上述のようにSamsungが14 nmでFabsynchでの試作を進めるなか、東芝は15 nmノードでの技術でSamsungに肉迫している、と言える。ただ数量では、調査会社DRAMeXchangeの2014年第1四半期のデータによると、Samsungがフラッシュに於いて世界シェアが30.0%で東芝が21.4%となっていて東芝は2位に甘んじている。Samsungのフラッシュにおける最大顧客はその社内にあるスマートフォンだが、東芝はスマホを持たず社内の顧客はノートPCだ。
FinFETは、次世代の半導体デバイスの主役なのだが、東芝が今後どのように進展するのかを注目している。
参考資料
1. 大和田 敦之 「究極のデバイスFINFETの実用化がこの6月に始まった」 (2013/12/24)
2. 吉用 茂 「半導体(東芝セミコンダクター社の進展を示した解説)」
3. 浅野 滋博「19nm世代のNANDフラッシュメモリーを用いたクライアントSSDを実現する高性能コントローラ技術」、東芝レビュー、Vol. 67, N0.12 (2012)
4. Global Foundries 2014年4月17日 プレスリリース
5. 「サムスンとつばぜり合い、東芝は次世代半導体開発で優位に立てるか?」、財界、2014年7月8日号